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盛夏の頃
さらさら
しおりを挟む温くなった風が、海を通って肌を撫でた。
昨年同様、この国の夏は蒸し暑い。外で呼吸をしていても、息苦しさを覚える。そんな中、時間をかけて運転して辿り着いた水族館は、竜宮城か或いは天国のような涼しさと冷たさで、訪問する者を迎え入れていた。
「暑かった」と俺が呟く傍らで、明るい色をした緩やかな髪がさらりと動いた。
「お願いなんて書こうかなあ」
彼女の手にあるのは、画用紙で作られた短冊だ。子どもに請われて、七夕のイベントをしているという隣県の水族館へ来てみると、自由に記入できる短冊が置かれていた。側には笹の葉が立てられている。願い事は自由に書いてもいいが、水族館で叶えられる願い事を書くと、抽選で叶えてもらえるという説明も同時に書かれていた。
彼女が悩む間、こっそりと吊るされた短冊を盗み見ると「餌やりをしてみたい」だとか「イルカショーに参加してみたい」といった内容が、拙い子どもの文字で書かれている。
子どもらしい夢を微笑ましく思いながら、自分が連れてきた子どもに視線を移す。
彼女の隣でさらさらと鉛筆を走らせては、「これでいいかな?」と確認をしていた。
「マンボウと泳ぎたいって書いたら泳がせてくれるかなー?」
「マンボウは厳しいと思うなあ。チョウザメにしておきなさい」
「種類の問題ではない」
彼女と子どもの会話につい突っ込みを入れてしまう。
二人揃って、「えー」と不満を漏らされた。
誤魔化すように一度咳払いをしてから、「そろそろ進まないか?」と声をかける。
「アシカショー見るんだろ?」
二人揃って、思い出した様子で目を見張らせる。声をかけなかったらせっかくのショーを見逃していただろう。
慌ただしく願いを書く二人を笑うように、笹飾りがさらさらと揺れた。
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