エリート魔女リリー

siyami kazuha

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妖精とうたう少年

図太く根強く生きる魔女

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 しょんぼりと肩を落とすレオナに、リリーは口を開きました。

「確かにやってはいけないミスをしてたけど、試験でできなかった魔法を現場ではできたんでしょう? これに関しては褒めてもいいと思うわ」

 リリーの言葉に、レオナは真ん丸の目をパチパチと瞬かせました。

「本当? 私、褒められてもいいの?」

「試験でできてたことが仕事ではできないって方が、私的には困るからね」

 珍しい失敗を目にしてから、リリーは張り詰めていた気持ちが吹っ切れて、緩んだ頬が痛くなっていました。
 リリーだって、失敗せずにここまで来たわけではありません。過去の経験を思い出せば、口の中に苦味が広がることだってあります。
 特に、魔法学校を卒業してから行われた、リアーナ教授による一年間の修行は、基礎的な魔法からリリーの精神を追い詰める修行まで色々とありました。
 魔法に大事なのは自信なのだと、リリーはリアーナ教授から教えられました。
 貴族の上司に腹が立つことが多い毎日ですが、心が折れずに日々を過ごせているのはこの修行によるものが多いでしょう。あの修行に比べれば、貴族からの嫌味などコバエの羽音みたいなものだし、修行で力をつけたからこそ、リリーは胸を張って歩けているのです。
 なにより、リリーの実力は仕事の成績を見れば明らかでした。貴族出身の魔法使いや魔女の中でも、リリーの成績は良い方にあるのです。
 リザベラのように職務放棄したり、余計なことをしたり、「これは自分の仕事ではない」と、仕事内容を選んでいる貴族も中にはいますが……。

「今夜できたことは、試験でもちゃんとできるわよ、レオナ。だって、実際に成功させたんだから。自信持って」

「そうだ、そうだ。庶民ながら、貴族相手に啖呵切るくらい【図太く】【根強く】生きてる魔女もいるんだしな。あそこまでいけとは言わんが、まあ自信は持った方がいいなあ」

 リドルが、ちらりとリリーを見上げつつ助言をしました。
 もしかしなくとも、図太く生きている魔女とはリリーのことでしょうか。
 リドルの皮肉に、リリーは口角をつり上げます。
 気づいたレオナが「リドル!」と名前を呼んで、たしなめました。

「あと、執念深いもつけ加えてみたらどうかしら?」

「おお、怖い怖い。あまりの恐ろしさに、尻尾も下がる」

 そう言ったリドルの尻尾は、付け根からしっかりぴんと伸びています。
 会話をしているのか、牽制しているのかわからない状況に、レオナはおろおろしながら二人を交互に見ました。




 リリーとリドルの会話が佳境に入った頃。二人と一頭は町を抜け、城の裏側にあるドームに戻って来ました。
 キラキラと光るモミの木が一仕事終えた一行を出迎えます。
 二人の間に挟まれていたレオナは、へとへとに疲れたという顔をしていました。
 いがみ合いをしている上司と部下の橋渡しをしていた気分です。
 ぐったりとした様子で、手に下げていた籠をカートの上に置きました。

「重かったー。疲れたよ、リドルぅー。足の裏揉んでぇえ、肉球ぷりーずーーーー」

「妖精捕まえてくる」

「ああ……」

 ひらりとレオナの手をかわして、リドルはドームの奥へと駆けていきました。
 無情にも、虚空を掴まされたレオナの肩を、リリーは苦笑いを見せながら労うように叩きました。
 ドームの中を飛び回っている妖精をリドルが引きとめて、籠いっぱいに入った願いのカケラをカートごと受け渡します。
 小さな身体のどこに怪力が隠されているのか。妖精は、かご一杯のカケラが乗せられているカートを一人で押し、ドームの奥へと消えていきました。
 願いのカケラ回収作業は、ひとまず終了です。
 学校からの課題で、カケラの回収作業をしていたレオナはこのまま帰宅ですが、リリーは仕事なので再び国外れに戻って回収作業の続きをします。
 カケラ回収係の勤務は、星が見えなくなる夜明けまで続くのです。休憩時間は、流星群の様子を見ながら各自で用意します。
 リドルに脇腹を小突かれ、ぴんと背筋を伸ばしたレオナはリリーに頭を下げました。

「じゃあね、リリー。おやすみさない」

「あんまし、貴族に喧嘩を売らないようにな」

 リドルがやんわりと釘を刺してきましたが、心外です。
 喧嘩を吹っ掛けてくるのは貴族の方であって、リリーからちょっかいを出したことはほとんどありません。
 リリーはただ、売られた喧嘩を買ってるだけです。
 が、この待遇を変えるにはリリーの方から売った方がいいのかもしれないと最近思い始めました。
 現に、そういった類いの誘いを受け、手を取ってしまっています。

『僕と手を組まない? この腐った貴族社会をぶっ壊す為にさ』

 アシュレイから出た誘い文句が、脳裏を流れました。
 庶民のリリーだけでは抗えないことも、貴族の頂点に立つ彼と一緒なら出来ると考えたのです。
 なのに、あの王子は放浪癖を発揮中。
 自分から誘っておいて、今後のことは何も語らずリリーを放置したままでした。
 結婚を決めた途端、色々な理由をつけて籍入れを先延ばされている状況に近いです。

「(まあ、結婚どころか彼氏も持ったことないから、この例えが合っているか、私にはよくわからないけど。でも、放置されてるのは合ってるはず……)」

 恋愛に関するお話という名の愚痴は、兄のお店で喉を潤していたり、手伝いでカウンターに入った時に聞く程度で、恋人たちの詳しいところまでは把握できていないリリーでした。
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