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エリートの夢
魔女だって愚痴りたい
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◇ ◇ ◇
『あなたは、どうして魔女になろうと思ったの?』
魔法学校で、唯一答えられなかった、質問だった。
◇ ◇ ◇
その日、エリート魔女のリリーはとても泣きたい気分でした。
貴族出身の魔女リザベラと共に、貴重なカエルを保護するという任務を受け、カエル捜索に向かったのですが、リザベラがワザとカエルの天敵ヘビを大量に放ち、貴重なカエルは全滅。任務は失敗。
その事を、魔女と魔法使いの指揮官達に報告すれば、やれリリーが悪いだの、止めなかったお前が悪いだのと、一方的に叱られる始末。リザベラは、一言二言注意を受けただけでした。(「道具の扱いには気をつけなさい」とかなんとか)
なんて差のある扱いだろうと、リリーは唇を噛み締めながら、指揮官達の怒りを受けてました。
リリーの住む魔女と魔法使いの国『イルギール国』は、貴族社会の国です。
何をするにも貴族が優先、貴族が偉いという風潮が流れ、リザベラも指揮官達も全員貴族出身です。対するリリーは、庶民出身の魔女でした。
庶民出身で魔女と呼ばれるのは、彼女だけです。他の庶民達は、満足に仕事をするどころか、魔法学校にも通えません。リリーが学校に行けたのは、両親と二人の兄が彼女の魔法の才を伸ばす為に、一生懸命働いたからでした。
学校に通わせてくれた家族の為に、リリーはがむしゃらに仕事をし、エリートと呼ばれるようになりましたが、庶民出身という肩書きが優先され、指揮官達や先輩魔女達からも良い顔をされません。ペアを組むリザベラは、悪戯をして邪魔ばかりします。今回の任務で、リリーは溜まりに溜まっていた鬱憤が、涙となって溢れ出そうでした。
でも、リリーはそれを許しません。泣き顔を貴族出身の魔女達に見られたら、更にキツい言葉を浴びさせられると分かっていたからです。こんな時は、お酒でも飲んで、気分を紛らわすに限ります。
もっとも、リリーはお酒が苦手なので、ジュースがお酒の代わりですが。
指揮官達から解放された後。リリーは、上の兄ハウエルの経営するドリンクバーに立ち寄り、カウンター席でジュースを浴びるように飲み始めました。
「貴族がなんだっていうの……ちくしょう……」
指揮官達に解放されても、ジュースを飲んでも、胸のもやもやは取れません。
学校を卒業してから一年半。同期が就職する中で、リリーはリアーナ教授の所でみっちりと修行し、己の技と魔力を磨いて帰って来てから数ヵ月。鍛えた魔法を全力で使う機会は、任務ではなくリザベラが起こした悪戯の類いを片付ける時ぐらい。
そもそも、なぜ同期(みんな)よりも遅く就職したリリーが、先に就職したリザベラと組まされているのか。リザベラの当初の相棒(ペア)はどこへ行ったのか。
【エリート】という言葉も、褒め言葉ではなく侮蔑です。
「庶民のくせに頑張ってて偉いわねえ」と、笑っているのです。
カウンターのテーブルに突っ伏してグチグチと呟いていると、左の席に座っている男が声をかけてきました。
「荒れてるね、エリートさん」
リリーは顔を上げて、目を据わらせながら男を見ました。
肩まで伸びた青みのある黒い髪に、瞬く星のようにキラキラと光る水色の目をした男です。着ている服は、上質な黒い生地に、三角の形をした銀色の刺繍がいくつも連なっているドレスコートでした。
一目で貴族出身だと分かります。
リリーの目が、更に据わりました。
「あっち行って。私、今凄く貴族を見たくないの」
「貴族は嫌いかい?」
「だいっきらい!」
苛立ちから、リリーはコップをテーブルに叩き付けますが、ドリンクバーは他のお客さんで賑やかなので、誰も気にとめません。
貴族の男はクスクスと笑い始め、目に涙が浮かぶ程笑うと、「失礼、失礼」と言いながら、指で涙を拭いました。
「貴族に真っ向から文句を言う庶民を見るのは初めてでね。ああ、気を悪くしないでおくれ。僕も貴族は嫌いだから」
杖を取り出したリリーに向けて、後半の言葉を男は慌てて言います。
リリーは男を警戒しながらも、杖をしまい、ジュースの瓶に手を伸ばしてコップに注ぎながら、男の名を聞きました。
「アシュレイだよ。アシュレイ・オリオン。君の事は知ってるよ、リリー・エリックだよね。カウンターに居るのは、君のお兄さんでハウエル・エリックだ」
カウンターで忙しそうにグラスを出すハウエルを見ながら、アシュレイは言います。
「詳しいわね」とリリーが返すと、アシュレイは「常連だからね」と、返しました。
「高級なレストランより、ここみたいなあたたかい雰囲気の店が好きなんだ」
物好きな男だと、リリーは思います。
普通の貴族は、庶民の店に来ないからです。
チラリと横目で彼を見ると、手鏡で自分の顔を見ながら、前髪を弄ってました。
「うーん。やっぱ、黒髪より銀髪の方が良いかな。金髪はどうだろう」
アシュレイは髪の毛の色で迷っているみたいです。
色々と悩んだ末に、彼は指を鳴らして髪の色を黒から金に変えました。同時に髪型も変わり、背中の真ん中まで伸びた髪を首の後ろで縛り、左胸に流しました。
「身だしなみを気にするなんて、女みたいね」
「だらしないと、他の貴族に怒られるんだよ。『貴族の恥だ』ってね。これだから貴族社会は嫌になる。それはそうと、リリー。僕と一緒にある任務をしてくれないかな?」
『あなたは、どうして魔女になろうと思ったの?』
魔法学校で、唯一答えられなかった、質問だった。
◇ ◇ ◇
その日、エリート魔女のリリーはとても泣きたい気分でした。
貴族出身の魔女リザベラと共に、貴重なカエルを保護するという任務を受け、カエル捜索に向かったのですが、リザベラがワザとカエルの天敵ヘビを大量に放ち、貴重なカエルは全滅。任務は失敗。
その事を、魔女と魔法使いの指揮官達に報告すれば、やれリリーが悪いだの、止めなかったお前が悪いだのと、一方的に叱られる始末。リザベラは、一言二言注意を受けただけでした。(「道具の扱いには気をつけなさい」とかなんとか)
なんて差のある扱いだろうと、リリーは唇を噛み締めながら、指揮官達の怒りを受けてました。
リリーの住む魔女と魔法使いの国『イルギール国』は、貴族社会の国です。
何をするにも貴族が優先、貴族が偉いという風潮が流れ、リザベラも指揮官達も全員貴族出身です。対するリリーは、庶民出身の魔女でした。
庶民出身で魔女と呼ばれるのは、彼女だけです。他の庶民達は、満足に仕事をするどころか、魔法学校にも通えません。リリーが学校に行けたのは、両親と二人の兄が彼女の魔法の才を伸ばす為に、一生懸命働いたからでした。
学校に通わせてくれた家族の為に、リリーはがむしゃらに仕事をし、エリートと呼ばれるようになりましたが、庶民出身という肩書きが優先され、指揮官達や先輩魔女達からも良い顔をされません。ペアを組むリザベラは、悪戯をして邪魔ばかりします。今回の任務で、リリーは溜まりに溜まっていた鬱憤が、涙となって溢れ出そうでした。
でも、リリーはそれを許しません。泣き顔を貴族出身の魔女達に見られたら、更にキツい言葉を浴びさせられると分かっていたからです。こんな時は、お酒でも飲んで、気分を紛らわすに限ります。
もっとも、リリーはお酒が苦手なので、ジュースがお酒の代わりですが。
指揮官達から解放された後。リリーは、上の兄ハウエルの経営するドリンクバーに立ち寄り、カウンター席でジュースを浴びるように飲み始めました。
「貴族がなんだっていうの……ちくしょう……」
指揮官達に解放されても、ジュースを飲んでも、胸のもやもやは取れません。
学校を卒業してから一年半。同期が就職する中で、リリーはリアーナ教授の所でみっちりと修行し、己の技と魔力を磨いて帰って来てから数ヵ月。鍛えた魔法を全力で使う機会は、任務ではなくリザベラが起こした悪戯の類いを片付ける時ぐらい。
そもそも、なぜ同期(みんな)よりも遅く就職したリリーが、先に就職したリザベラと組まされているのか。リザベラの当初の相棒(ペア)はどこへ行ったのか。
【エリート】という言葉も、褒め言葉ではなく侮蔑です。
「庶民のくせに頑張ってて偉いわねえ」と、笑っているのです。
カウンターのテーブルに突っ伏してグチグチと呟いていると、左の席に座っている男が声をかけてきました。
「荒れてるね、エリートさん」
リリーは顔を上げて、目を据わらせながら男を見ました。
肩まで伸びた青みのある黒い髪に、瞬く星のようにキラキラと光る水色の目をした男です。着ている服は、上質な黒い生地に、三角の形をした銀色の刺繍がいくつも連なっているドレスコートでした。
一目で貴族出身だと分かります。
リリーの目が、更に据わりました。
「あっち行って。私、今凄く貴族を見たくないの」
「貴族は嫌いかい?」
「だいっきらい!」
苛立ちから、リリーはコップをテーブルに叩き付けますが、ドリンクバーは他のお客さんで賑やかなので、誰も気にとめません。
貴族の男はクスクスと笑い始め、目に涙が浮かぶ程笑うと、「失礼、失礼」と言いながら、指で涙を拭いました。
「貴族に真っ向から文句を言う庶民を見るのは初めてでね。ああ、気を悪くしないでおくれ。僕も貴族は嫌いだから」
杖を取り出したリリーに向けて、後半の言葉を男は慌てて言います。
リリーは男を警戒しながらも、杖をしまい、ジュースの瓶に手を伸ばしてコップに注ぎながら、男の名を聞きました。
「アシュレイだよ。アシュレイ・オリオン。君の事は知ってるよ、リリー・エリックだよね。カウンターに居るのは、君のお兄さんでハウエル・エリックだ」
カウンターで忙しそうにグラスを出すハウエルを見ながら、アシュレイは言います。
「詳しいわね」とリリーが返すと、アシュレイは「常連だからね」と、返しました。
「高級なレストランより、ここみたいなあたたかい雰囲気の店が好きなんだ」
物好きな男だと、リリーは思います。
普通の貴族は、庶民の店に来ないからです。
チラリと横目で彼を見ると、手鏡で自分の顔を見ながら、前髪を弄ってました。
「うーん。やっぱ、黒髪より銀髪の方が良いかな。金髪はどうだろう」
アシュレイは髪の毛の色で迷っているみたいです。
色々と悩んだ末に、彼は指を鳴らして髪の色を黒から金に変えました。同時に髪型も変わり、背中の真ん中まで伸びた髪を首の後ろで縛り、左胸に流しました。
「身だしなみを気にするなんて、女みたいね」
「だらしないと、他の貴族に怒られるんだよ。『貴族の恥だ』ってね。これだから貴族社会は嫌になる。それはそうと、リリー。僕と一緒にある任務をしてくれないかな?」
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