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第二章 諦めない70日間
62:こんなことになるなんて(イールト視点)
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思い返してみれば、嫌な予感は元からあった。お嬢様だって『こんな刺繍なんてあったかしら』と首を傾げてらしたんだ。あの違和感を、無視してはいけなかった。
「イールト、何度聞かれても答えは同じだ。何をしに行ったかなんて、そう簡単に教えてやれないよ。それより、ラステロを追わなくていいのか?」
「……分かりました。後ほど向こうに直接確認することにしましょう。失礼します」
「好きにするといい。まあ、すぐに分かると思うけどね」
パーティーが始まると、踊るお嬢様を遠目に見ながら、俺はとある質問をジェイド様たちに投げかけていた。パーティー開始前、王子殿下とジェイド様たちは楽団の控室を訪ねていたからだ。殿下がわざわざ挨拶のためだけに控室へ出向かれるなど考えられない。何か企んでる可能性があると、俺は警戒していた。
だがハッキリした答えを得られないまま一曲目が終わり、ラステロ様がシャルちゃんの元へ行ってしまった。ゼリウス様が追いかけたとはいえラステロ様は強引な一面があるから、放っておくのは危険すぎる。
不穏な言葉を言ったジェイド様に背を向け、俺は焦りを抱きつつシャルちゃんの元へ向かう。急ぎ足で歩きながらホール中央に目を向ければ、お嬢様は王子殿下から離れられないようだった。
(マズイな……。まさか殿下がお嬢様を離されないとは)
周囲に違和感を与えないよう、恥ずかしそうな表情を作りつつ身を捩るお嬢様の腰には、しっかりと殿下の手が回っている。お嬢様の深紅のドレスには殿下の白袖がよく映えた。
ジミ恋のダンスパーティーで、悪役令嬢アルフィールは王子から贈られたエメラルドグリーンのドレスを纏うそうだ。だが王子ルートの時のみ、そのドレスはワインレッドになるらしい。
実際に殿下からお嬢様に贈られたのは薔薇のように布を重ねた深紅のドレスで、お嬢様は安堵していた。だが同時に、胸元の蔦が巻き付くかのような刺繍の色を気にされていた。
使われていた刺繍糸は、王子殿下の髪色と同じホワイトシルバー。そこに殿下の御心が入っていないわけがない。特にここ最近、シャルちゃんだけでなくご自身まで王子殿下とお会いする機会が増えていたため、お嬢様は疑念を抱かれたようだった。
それでもお嬢様は、刺繍の追加は許容範囲だと目を瞑った。王子殿下のお立場を考えれば、お嬢様との仲が良好だと見せる必要があるのも理解出来たからだ。
そして何より、イレギュラーな事はありながらも、シャルちゃんと王子殿下との関わりは基本的にシナリオから逸脱する事はなかった。王子殿下ご自身がシャルちゃんを憎からず思ってるように見受けられたから、二人の親密度も確実に上がっているはずで。仮にルート突入の条件に足りなかったとしても僅かだろうから、お嬢様から働きかければ殿下はシャルちゃんをダンスに誘うはずだと、俺もお嬢様も思い込んでいたんだ。
(こうなったら、俺がやるしかない)
ジミ恋では、パーティーの二曲目で踊った攻略対象のルートになるらしい。唯一の例外は誰からも誘われずに終わった時のみで、その場合難易度はさらに上がるもののゲーム後半の動き次第で誰かのルートに入る可能性が残される。
だからここで、王子殿下以外の攻略対象者とシャルちゃんを踊らせるわけにはいかない。かといって、ただ連れ出すだけでラステロ様が引き下がるとも思えないから、攻略対象ではない俺がシャルちゃんと踊るのが最善と思えた。
(これは俺のためじゃない。お嬢様のためだ)
あくまで仕事だと言い聞かせ、顔を出しかけた喜びを押し込める。
俺の行先、ラステロ様とゼリウス様に囲まれているシャルちゃんのドレスは、傍らに立つミュラン様の色――夜空を思わせるプルシアンブルーだ。今の俺の考えに、嫉妬心も含まれているなんて認めたくなかった。
すると急ぐ俺の耳に、二曲目の音楽が流れ始める。その曲が予定と違うのに気付き、先ほどジェイド様に言われた不穏な言葉の意味を知った。
(これが控室を訪ねた理由か。だが、何のために曲順を変えた?)
本来なら、今流れ始めた曲は三曲目に流れるはずのものだ。王立学園の名を汚さぬよう、招かれている楽団は一流の者たちで、順番を間違うなどあり得ない。それでも何を意図してこれを指示したのか、殿下方の考えが分からなかった。
(気味が悪いが、今はそれどころじゃない)
曲が始まった事で、ラステロ様だけでなくゼリウス様までシャルちゃんに迫っている。想定外な現状に混乱してるだろうシャルちゃんの背は、いつも以上に小さく見えて弱々しい。もはや一刻の猶予もないと、俺はシャルちゃんに手を伸ばした。
「失礼します」
「えっ……イールトさん⁉︎」
気配を消して死角から近付き、急に引き寄せたから驚かせてしまったが、シャルちゃんを逃がすつもりはない。俺はそのままシャルちゃんの腰に手を回し「何とかするから、俺に合わせて」と耳元で囁いた。
「ミュラン様、妹君をお借りします」
「あ……ああ」
「みんなごめんなさい! 私、イールトと踊ります!」
ミュラン様は元々、シャルちゃんが二曲しか練習していない事を知っている。そしてシャルちゃんの令嬢教育を担った事で、俺が彼女に恥をかかせる事はないと信用もされている。
だから予定になかった曲が流れている今、攫うように間に入っても止められないだろうと、俺は踏んでいた。
そのため俺は、一方的に言い放ってその場を後にするつもりだったが、思いがけずシャルちゃんも援護してくれた。おかげでより安心出来たのだろう、ミュラン様は何も言わずに見送ってくれた。
シャルちゃんの保護者の許可を得たんだ。ラステロ様とゼリウス様が悔しげに何かを言っているが、聞こえない事にした。
「シャルちゃん。この曲のテンポは速いけれど、ステップは基本と同じなんだ。所々順番が変わる所もあるけれど、それは俺が教えるから。言われた通りに体を動かすことだけ意識して」
「は、はい!」
不安で仕方ないだろうに、全幅の信頼を俺に寄せているシャルちゃんは素直に頷いて身を任せてくれる。それがどうにも嬉しくて、どうにも心苦しかった。
「最初はテンポに慣れよう。アン、ドゥ、トロワ……そう、ここでターンするよ」
シャルちゃんが安心出来るよう、レッスン時の口調を意識して囁きリードする。踊り始めはぎこちなかったシャルちゃんも、だんだんと慣れてきたようで。強張っていた表情が、少しずつ楽しげな笑みに変わっていった。
(良かった。笑ってくれた)
色は気に食わないが、マダムの作ったドレスはシャルちゃんによく似合う。綺麗に着飾った好きな子の笑顔はとてつもない破壊力で、今だけは彼女を堂々と独り占め出来るという高揚感も相まり、平常心を保つのに苦労する。
だがそれも、ほんのひと時の事だった。
「こんなことになってビックリしましたけど、イールトさんと踊れて良かったです。助けに来てくれてありがとうございました」
「いや、こちらこそごめんね。まさかこうなるとは思わなくて」
「この後、どうなるんでしょうか……」
お嬢様をお救いするために、懸命に努力し続けてくれたシャルちゃんだ。その優しさで再び不安げに顔を曇らせてしまう。それを見て俺は、つい浮かれてしまった自分を恥じた。
「どうなるかは、正直俺にも分からない。でもまだ諦めるには早いよ。これから挽回出来る可能性もあるから、一緒に頑張ろう」
「……はい」
シャルちゃんの憂い顔に、胸が締め付けられる。もう頑張らなくていいと言えたら、どれだけ楽になれるだろう。だがそれをしたら、お嬢様を救えなくなる。彼女を苦しめるのは俺自身なのだという事実に、心が悲鳴を上げていた。
だがそれも、曲と共に終わりを迎えた。王子殿下がお嬢様を連れて、俺たちの元へやって来たからだった。
「イールト。すまないがアルフィールを頼めるか。顔色が悪い」
「もちろんです。シャルラ様、すみませんがここで」
「私は大丈夫だから気にしないで。アルフィール様、お大事になさって下さい」
よほどショックだったのだろう。お嬢様は青ざめていて小さく震えていた。俺はお嬢様をお支えして、会場を後にする。背後では殿下がシャルちゃんにダンスを申し込んでおり、音楽は三曲目に切り替わった。
「イールト、これは……」
「はい、お嬢様。どうやら二曲目と三曲目を入れ替えたようですね」
流れ出したのは、元々は二曲目に流れる予定だった「運命のワルツ」。殿下の誘いに困惑していたシャルちゃんも、これなら手を取れただろう。
何のためにこんな事をしたのかと考え、嫌な予感が胸に湧き上がる。それでも今優先すべきはお嬢様だ。違和感は頭の片隅に置いて馬車へ向かえば、お嬢様は一人で帰ると仰られた。
「イールト、わたくしの代わりにシャルラさんの様子を見てきて」
「ですが、私は」
「わたくしなら大丈夫よ。屋敷に帰るだけだもの」
「……分かりました」
お嬢様を馬車に乗せると、俺はすぐに踵を返した。お嬢様に言われた通りシャルちゃんの様子も見るつもりだが、他にもやるべき事がある。
(どこまで気付かれた? 誰から漏れた?)
予想が外れてほしいと願いつつ、最悪の場合を考えると足が震えそうになる。それでもここで向き合わなければ、取り返しがつかなくなる気がして。俺は拳を握りしめ、再びホールへ足を踏み入れた。
「イールト、何度聞かれても答えは同じだ。何をしに行ったかなんて、そう簡単に教えてやれないよ。それより、ラステロを追わなくていいのか?」
「……分かりました。後ほど向こうに直接確認することにしましょう。失礼します」
「好きにするといい。まあ、すぐに分かると思うけどね」
パーティーが始まると、踊るお嬢様を遠目に見ながら、俺はとある質問をジェイド様たちに投げかけていた。パーティー開始前、王子殿下とジェイド様たちは楽団の控室を訪ねていたからだ。殿下がわざわざ挨拶のためだけに控室へ出向かれるなど考えられない。何か企んでる可能性があると、俺は警戒していた。
だがハッキリした答えを得られないまま一曲目が終わり、ラステロ様がシャルちゃんの元へ行ってしまった。ゼリウス様が追いかけたとはいえラステロ様は強引な一面があるから、放っておくのは危険すぎる。
不穏な言葉を言ったジェイド様に背を向け、俺は焦りを抱きつつシャルちゃんの元へ向かう。急ぎ足で歩きながらホール中央に目を向ければ、お嬢様は王子殿下から離れられないようだった。
(マズイな……。まさか殿下がお嬢様を離されないとは)
周囲に違和感を与えないよう、恥ずかしそうな表情を作りつつ身を捩るお嬢様の腰には、しっかりと殿下の手が回っている。お嬢様の深紅のドレスには殿下の白袖がよく映えた。
ジミ恋のダンスパーティーで、悪役令嬢アルフィールは王子から贈られたエメラルドグリーンのドレスを纏うそうだ。だが王子ルートの時のみ、そのドレスはワインレッドになるらしい。
実際に殿下からお嬢様に贈られたのは薔薇のように布を重ねた深紅のドレスで、お嬢様は安堵していた。だが同時に、胸元の蔦が巻き付くかのような刺繍の色を気にされていた。
使われていた刺繍糸は、王子殿下の髪色と同じホワイトシルバー。そこに殿下の御心が入っていないわけがない。特にここ最近、シャルちゃんだけでなくご自身まで王子殿下とお会いする機会が増えていたため、お嬢様は疑念を抱かれたようだった。
それでもお嬢様は、刺繍の追加は許容範囲だと目を瞑った。王子殿下のお立場を考えれば、お嬢様との仲が良好だと見せる必要があるのも理解出来たからだ。
そして何より、イレギュラーな事はありながらも、シャルちゃんと王子殿下との関わりは基本的にシナリオから逸脱する事はなかった。王子殿下ご自身がシャルちゃんを憎からず思ってるように見受けられたから、二人の親密度も確実に上がっているはずで。仮にルート突入の条件に足りなかったとしても僅かだろうから、お嬢様から働きかければ殿下はシャルちゃんをダンスに誘うはずだと、俺もお嬢様も思い込んでいたんだ。
(こうなったら、俺がやるしかない)
ジミ恋では、パーティーの二曲目で踊った攻略対象のルートになるらしい。唯一の例外は誰からも誘われずに終わった時のみで、その場合難易度はさらに上がるもののゲーム後半の動き次第で誰かのルートに入る可能性が残される。
だからここで、王子殿下以外の攻略対象者とシャルちゃんを踊らせるわけにはいかない。かといって、ただ連れ出すだけでラステロ様が引き下がるとも思えないから、攻略対象ではない俺がシャルちゃんと踊るのが最善と思えた。
(これは俺のためじゃない。お嬢様のためだ)
あくまで仕事だと言い聞かせ、顔を出しかけた喜びを押し込める。
俺の行先、ラステロ様とゼリウス様に囲まれているシャルちゃんのドレスは、傍らに立つミュラン様の色――夜空を思わせるプルシアンブルーだ。今の俺の考えに、嫉妬心も含まれているなんて認めたくなかった。
すると急ぐ俺の耳に、二曲目の音楽が流れ始める。その曲が予定と違うのに気付き、先ほどジェイド様に言われた不穏な言葉の意味を知った。
(これが控室を訪ねた理由か。だが、何のために曲順を変えた?)
本来なら、今流れ始めた曲は三曲目に流れるはずのものだ。王立学園の名を汚さぬよう、招かれている楽団は一流の者たちで、順番を間違うなどあり得ない。それでも何を意図してこれを指示したのか、殿下方の考えが分からなかった。
(気味が悪いが、今はそれどころじゃない)
曲が始まった事で、ラステロ様だけでなくゼリウス様までシャルちゃんに迫っている。想定外な現状に混乱してるだろうシャルちゃんの背は、いつも以上に小さく見えて弱々しい。もはや一刻の猶予もないと、俺はシャルちゃんに手を伸ばした。
「失礼します」
「えっ……イールトさん⁉︎」
気配を消して死角から近付き、急に引き寄せたから驚かせてしまったが、シャルちゃんを逃がすつもりはない。俺はそのままシャルちゃんの腰に手を回し「何とかするから、俺に合わせて」と耳元で囁いた。
「ミュラン様、妹君をお借りします」
「あ……ああ」
「みんなごめんなさい! 私、イールトと踊ります!」
ミュラン様は元々、シャルちゃんが二曲しか練習していない事を知っている。そしてシャルちゃんの令嬢教育を担った事で、俺が彼女に恥をかかせる事はないと信用もされている。
だから予定になかった曲が流れている今、攫うように間に入っても止められないだろうと、俺は踏んでいた。
そのため俺は、一方的に言い放ってその場を後にするつもりだったが、思いがけずシャルちゃんも援護してくれた。おかげでより安心出来たのだろう、ミュラン様は何も言わずに見送ってくれた。
シャルちゃんの保護者の許可を得たんだ。ラステロ様とゼリウス様が悔しげに何かを言っているが、聞こえない事にした。
「シャルちゃん。この曲のテンポは速いけれど、ステップは基本と同じなんだ。所々順番が変わる所もあるけれど、それは俺が教えるから。言われた通りに体を動かすことだけ意識して」
「は、はい!」
不安で仕方ないだろうに、全幅の信頼を俺に寄せているシャルちゃんは素直に頷いて身を任せてくれる。それがどうにも嬉しくて、どうにも心苦しかった。
「最初はテンポに慣れよう。アン、ドゥ、トロワ……そう、ここでターンするよ」
シャルちゃんが安心出来るよう、レッスン時の口調を意識して囁きリードする。踊り始めはぎこちなかったシャルちゃんも、だんだんと慣れてきたようで。強張っていた表情が、少しずつ楽しげな笑みに変わっていった。
(良かった。笑ってくれた)
色は気に食わないが、マダムの作ったドレスはシャルちゃんによく似合う。綺麗に着飾った好きな子の笑顔はとてつもない破壊力で、今だけは彼女を堂々と独り占め出来るという高揚感も相まり、平常心を保つのに苦労する。
だがそれも、ほんのひと時の事だった。
「こんなことになってビックリしましたけど、イールトさんと踊れて良かったです。助けに来てくれてありがとうございました」
「いや、こちらこそごめんね。まさかこうなるとは思わなくて」
「この後、どうなるんでしょうか……」
お嬢様をお救いするために、懸命に努力し続けてくれたシャルちゃんだ。その優しさで再び不安げに顔を曇らせてしまう。それを見て俺は、つい浮かれてしまった自分を恥じた。
「どうなるかは、正直俺にも分からない。でもまだ諦めるには早いよ。これから挽回出来る可能性もあるから、一緒に頑張ろう」
「……はい」
シャルちゃんの憂い顔に、胸が締め付けられる。もう頑張らなくていいと言えたら、どれだけ楽になれるだろう。だがそれをしたら、お嬢様を救えなくなる。彼女を苦しめるのは俺自身なのだという事実に、心が悲鳴を上げていた。
だがそれも、曲と共に終わりを迎えた。王子殿下がお嬢様を連れて、俺たちの元へやって来たからだった。
「イールト。すまないがアルフィールを頼めるか。顔色が悪い」
「もちろんです。シャルラ様、すみませんがここで」
「私は大丈夫だから気にしないで。アルフィール様、お大事になさって下さい」
よほどショックだったのだろう。お嬢様は青ざめていて小さく震えていた。俺はお嬢様をお支えして、会場を後にする。背後では殿下がシャルちゃんにダンスを申し込んでおり、音楽は三曲目に切り替わった。
「イールト、これは……」
「はい、お嬢様。どうやら二曲目と三曲目を入れ替えたようですね」
流れ出したのは、元々は二曲目に流れる予定だった「運命のワルツ」。殿下の誘いに困惑していたシャルちゃんも、これなら手を取れただろう。
何のためにこんな事をしたのかと考え、嫌な予感が胸に湧き上がる。それでも今優先すべきはお嬢様だ。違和感は頭の片隅に置いて馬車へ向かえば、お嬢様は一人で帰ると仰られた。
「イールト、わたくしの代わりにシャルラさんの様子を見てきて」
「ですが、私は」
「わたくしなら大丈夫よ。屋敷に帰るだけだもの」
「……分かりました」
お嬢様を馬車に乗せると、俺はすぐに踵を返した。お嬢様に言われた通りシャルちゃんの様子も見るつもりだが、他にもやるべき事がある。
(どこまで気付かれた? 誰から漏れた?)
予想が外れてほしいと願いつつ、最悪の場合を考えると足が震えそうになる。それでもここで向き合わなければ、取り返しがつかなくなる気がして。俺は拳を握りしめ、再びホールへ足を踏み入れた。
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