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第二章 諦めない70日間

41:学園生活が始まりました

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 一年生は五クラスあって、生徒の魔力量や魔法適性を考慮してクラス分けされているそうだけれど、私とラステロくんは同じクラスだった。色々違いもあるけれど、この辺はアルフィール様から聞いていたジミ恋の設定通りなんだなと、変に感心してしまう。
 そうしてラステロくんに連れられて教室へ入ると、クラスの三分の一程度が登校していた。

 学園では平等が謳われているけれど、家格が低い方から早めに登校するという暗黙の決まりがあるらしい。登校時の馬車の混雑を防ぐために、大抵の家はそれを守っているそうだ。
 だから今の時間に学園にいるのは、私と同じ子爵家とその下の男爵家。それから準貴族のような扱いになる騎士爵や準男爵家の子たちと平民の魔力持ちのはずで。その中でも特に魔力量が多いか珍しい魔法適性を持つ子たちが、このクラスに集まってるという事なんだろう。

 そんな中に現れた、誰も知らない私と公爵家のラステロくんが、注目を集めるのは当然だと思う。男女問わず視線が注がれる中、普段からラステロくんと仲がいいんだろう、男子生徒の一人が手を振った。

「ラステロ、おはよう! 今日は早いんだね?」
「まあね。この子を紹介したくてさ。みんな、今日から入ってきたシャルラちゃんだよ」
「シャルラ・モルセンです。よろしくお願いします」
「モルセン? ミュラン・モルセン先輩の妹さんなの?」
「はい、そうです。ミュランは私の兄です」

 私が挨拶すると、わあっと歓声が上がって。急に女の子たちが集まってきた。

「ミュラン様に妹さんがいらっしゃったのね!」
「ぜひお友達になりましょう!」
「は、はい……」

 きっとみんな、兄さん狙いなんだろうな。ものすごい勢いでやって来るから、ビックリしてしまった。
 すると危うくもみくちゃにされそうだった私を、ラステロくんがさり気なく庇ってくれた。

「みんな酷いなぁ。シャルラちゃんが可愛いのは分かるけど、ボクもいるのに」
「ラステロ様……ごめんなさい」
「わたしたち、そんなつもりじゃなくて!」
「うん、分かってるよ。みんな友達になりたいだけだよね。仲良くしようね?」
「はい!」

 ラステロくんの微笑みに、集まってきた女の子たちはみんなポーッと頬を染めてて。私はただただ、すごいなって感心してしまった。
 だってこの辺りは、アルフィール様から聞いていた出会いイベントの通りだったから。

 ジミ恋の通りなら、ラステロくんとの出会いは職員室で起きるはずだった。平民出身でマナーも何もかもあやふやなヒロインを先生は心配していて、その話をラステロくんが偶然立ち聞きしてしまうというものだ。
 中途入学で入ってくる学生なんて滅多にいない事もあり、ラステロくんはヒロインに興味を持って。授業の準備で忙しい先生の代わりに、ヒロインを教室に連れて行くと申し出る。

 そうして教室に向かう道すがら、ヒロインはラステロくんに自身の境遇を語る。
 そこで、聖魔法に適正があったにも関わらず、母親を事故で亡くしてしまった事を打ち明けると、ラステロくんはヒロインに同情してくれて。クラスメイトたちに仲良くするよう取りなしてくれるという話だった。

(またイベントはめちゃくちゃだけど、ジミ恋の通りになってる……? 私、ビックリし過ぎて何もしてないんだけどな)

 私が考え込んでいる間に、ラステロくんは慣れた様子で女の子たちをさばいて。自然な素振りで私を窓際の席へ案内し、当然のように私の隣へ腰を下ろした。
 どうやら席順は特に決まってなくて、好きな場所に座っていいらしい。

「授業が始まるまで時間があるからさ。シャルラちゃんのこと、もっと教えてほしいな?」
「えっと……うん」

 よく分からないけれど、とりあえず出会いイベントは終了したんだと考えていいだろう。ジミ恋だとこの後ヒロインは、悪役令嬢アルフィールとも出会うらしいけれど、今の私にそれは関係ないから。

(後は、ラステロくんのルートにならないようにだけ気をつけていればいいよね)

 気持ちを切り替えてラステロくんとお喋りをしている間にも、伯爵家、侯爵家の子たちが次々に登校してきて。その度にラステロくんは和かに私を紹介してくれた。
 アルフィール様から、人当たりの良い人だと聞いてはいたけれど。本当にクラスメイトみんなと仲が良いんだなと、つくづく感じる時間だった。

 そうしているうちに、教室のほとんどの席が埋まって。最後となるアルフィール様とイールトさんがやって来た。

「フィーちゃん、おはよう」
「……ラステロ。あなた、何をしているの?」

 まさか私とラステロくんが隣同士に座ってるなんて思わなかったんだろう。アルフィール様は僅かに視線を揺らした。

「何って、シャルラちゃんとの仲を深めてるんだよ。フィーちゃんが後見になったんでしょ?」
「ええ、そうだけれど」
「マダムのことも紹介してあげたんだってね。フィーちゃんにお気に入りの友達が出来て、ボクも嬉しいよ」

 ラステロくんと話しつつも、アルフィール様は大丈夫なのかと問うようにチラチラと視線を寄越してくる。私は大丈夫だと伝えたくて微笑んだ。

「アルフィール様、おはようございます」
「おはよう、シャルラさん。ラステロが迷惑をかけてない?」
「いいえ、大丈夫です。ラステロくんのおかげでクラスのみんなとも仲良くなれました」
「えっ……そう。それならいいのだけれど」

 私がラステロくんと呼んだら、アルフィール様は一瞬だけ驚いたように目を見開いた。隣に立つイールトさんは無表情なんだけれど、何となく険しい目つきになってる気がする。
 ……やっぱり、くん付けは良くなかったかな。

「ほら、フィーちゃん。席に着かないと。そろそろ先生が来るよ?」
「……そうね。イールト、行きましょう」
「はい、お嬢様」

 アルフィール様とイールトさんは、いつも同じ場所に座っているそうで。教室の後方に二人分の席だけ、きちんと空けられている。
 ラステロくんとの話の合間に、ちらりと二人を覗き見れば、イールトさんが「昼に」と、口の形だけで伝えてきた。私が軽く頷いて前を向くと、ラステロくんと目が合った。

「シャルラちゃんは、フィーちゃんと本当に仲良いんだね」
「そう見えるなら嬉しいよ。アルフィール様には、たくさんお世話になってるから。ラステロくんもアルフィール様と親しいんだね」
「それはそうだよ。ボクとフィーちゃんは従姉弟いとこだから」
「いとこ⁉︎」

 ぽかんとした私に、ラステロくんは愉快げに笑った。

「そうだよ。ボクの父とフィーちゃんのお母さんが兄妹なんだ。フィーちゃんから聞いてなかったんだね」
「うん、初めて聞いたよ。親戚だからアルフィール様とあんなに仲良しなんだね」
「まあね。シャルラちゃんは知らないかもしれないけど、貴族って血族間での婚姻が多いから、親戚って括りになるとかなり広くなるけど」
「そうなの?」
「うん。ボクたち公爵家と王家なんか、特にそうだよ。ボクの母は国王陛下の妹君だし、フィーちゃんのおばあちゃんも王家の姫君だった人なんだ」
「えっ⁉︎ じゃあ、アルフィール様と第一王子って……」
再従兄妹はとこ同士だよ。貴族の結婚って色々あってさ。魔力を繋ぐ必要があるから、魔力持ち同士っていうのは外せないんだけど。体面もあるから、家格も近くないと結婚相手として認められないんだよね」
「家格……」

 貴族同士の結婚でも、そんな問題があるなんて知らなかった。父さんと母さんみたいに、平民だけがダメってわけじゃないんだ。
 でも家格が必要なら、子爵家のヒロインが第一王子の妃になるなんて無理なんじゃないのかな?

 考え込んだ私に、ラステロくんは、ふっと笑った。

「まあ例外もあるんだけどね。珍しい魔法に適性があるとかだと、家格に差があっても結婚出来たりするよ」

 例外? ……ということは。

「珍しいって、例えば聖魔法もですか?」
「うん。だからさ」

 ラステロくんは意味ありげに微笑むと、私の耳元に唇を寄せた。

「シャルラちゃんなら、その気になればボクのお嫁さんにもなれるってわけ」
「えっ……」
「あ、先生来ちゃったね」

 囁かれた言葉に唖然としたけれど、ラステロくんは何でもないようにニッコリと笑って前を向いた。きっとこれは揶揄われたって事なんだろう。

(そうすると私には聖魔法があるから、身分差を理由にして第一王子から逃げるのは無理ってことなんだ。……って、あれ? 身分差? それならイールトさんと私だと、どうなるんだろう? 父さんなら反対しないと思うけれど……)

「みんなもう知ってると思うが、今日から新しい仲間が増えた。シャルラ嬢、その場でいいから立ってもらえるか」
「あ、はい!」

 私がぼんやりとしている間に、先生は教壇に立っていたみたいだ。慌てて立ち上がって改めて自己紹介をしているうちに、いつの間にか考え事はどこかへ行ってしまった。
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