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92.again⑤

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この行為が二度目だというのに知ってしまった快楽の心地いい余韻に、身体がグズグズに蕩けている。藤澤さんが私の胸元ではぁーと深い息を吐き、髪を撫でられると身体がまだ過敏に反応して身じろぐ。その反動で深い繋がりが解かれ、私の身体は力が抜けていたせいか崩れ落ちる。そんな私を彼は優しく支え、横たわらせてくれた。

まだ息が荒い藤澤さんは髪をかきあげ、何かを探していたかと思うとバスタオルを手に持ち再びベッドに腰掛け私を気にかけてくれる。

「その...大丈夫?」
 
「はい....大丈夫...です」

息を整えるために深く息を吸うと、シャツからのぞく乳房が大きく上下してそこに彼の顔が寄せらる。チュッと音を立ててキスをされた時に自分の身体が彼に晒されたいたことに慌てた。

「...きゃ!?」

「あ。ゴメン、つい」

「い、いえ...」

息の整わないままに、寝具をかき集め自分の胸元を必死で隠す。そんな私の唇に彼は軽いキスをひとつしたかの思うと、バスタオルで髪をワシャワシャと拭う。それでも顔をパタパタと手で扇ぎながらベッドから立ち上がる。

「あの...どちらへ?」

彼がどこかに行ってしまうような不安を覚えると。

「あぁ、シャワーを浴びに。そうだ、優里も一緒に浴びる?」

そういう彼は汗だくだった。私も少し汗をかいていたけれど、それは頑なに遠慮させてもらう。
いくら汗をかいても、藤澤さんと一緒にお風呂なんて難易度が高すぎる!

※※※


翌朝、意識だけ覚醒すると身体が硬いものにサンドイッチされているような感覚があった。

...この硬さと重さは何だろう?

目を瞑りながら、頭を少し動かしてみるとコツンと、硬い何かに当たったみたいだ。不思議に思い、こそっと薄目を開けると目の前には綺麗な鎖骨のラインが見え、思いっきり人肌が真正面。
私はこの長い腕に肩を抱かれ眠っていたのだろう。
少し身体をずらして見上げるとよく知っている愛しい人の寝顔が見える。彼の腕が疲れてしまったら大変と、しっかりホールドされている腕から少々強引に抜け出し、彼の腕を解放した。

それから、微かに入ってくる朝の光の中での彼の寝顔の鑑賞タイム。

目を閉じていたって端整な顔立ちは少しもは変わらず、規則正しい寝息を立てているその唇から
「好き」って言われたのを覚えている。

...昨夜はずっとこの人と...。一晩中、抱きしめてもらっていたんだ。

思い出すと、幸せな気持ちと信じられない気持ちが自分の中でまだ交錯している。本当に夢みたいに思え、目の前の鎖骨に指先で触れてみるとドキドキした。

...夢じゃない。

その事実に1人でワタワタしてしまい、頭にすっぽり布団を被っていたら。

「...それ、くすぐったいんだけど?」

頭上から笑った声が降ってきて、私は彼の顔を。

「おはよう」

いつも会社で話すみたいに低い声で、いたって普通に挨拶をされた。
私は彼を起こしてしまったことに動揺してしながらの朝の挨拶。

「...お、おはよう、ご、ざい...ますぅ」

挨拶を返す声が掠れて、裏がえる。

...あ、あれ?アレ?声が?

おかしくなった声に驚いて喉を触り焦ってしまうと、彼は枕に頭を突っ伏し裸の肩を震わせている。

「もう、笑うなんてひどい...です」

少し戻った声で抗議すると彼は枕を抱えたまま、顔をこちらに向けて目を細めた。

「だって...その声」

笑いを堪えるように藤澤さんが起き上がると、私は反射的に顔を背けてしまう。

「どうかした?」

ベッドから降りた彼は不思議そうな顔をして私の顔を覗き込む。

「あ、いえ...」

私は自分が裸のままだったのでてっきり彼が裸のまま寝ていたのかと思ってしまった。けれども、下はちゃんと履いていた。
私もよく見るとボタンはしっかり嵌めていないけれど、シャツは羽織っており全裸ではなく。
そんな自分に、喉を撫でながらホッと一安心している私をよそに、彼はキッチンの方へと向かう。

そして、戻ってきた彼が手に持っていたのは、冷たいお茶を入れたグラスだった。

「これを飲むといいよ」

ベッドに腰掛けグッと自分でも飲む彼の手からグラスを受け取り、それを口にすると喉越しが良くて、私は、ほぼ一気飲みしてしまう。気がついてみれば部屋のエアコンもついているし、部屋の乾燥が原因だったんだと自分の中で結論に至る。

彼も喉を鳴らし、美味しそうにグラスのお茶を一気飲みしていた。

...なんだ、藤澤さんも喉が渇いていたんだ。

だから出てしまった、ココロの声。

「本当、エアコンって喉が乾燥するんですね。おかげで、喉がカラカラで変な声になっちゃいました(笑)」

彼は2人分のグラスをベッドサイドに置き、その意見に同意してくれると思いきや...私の顔をマジマジと見返してくる。

「...その変な声は、エアコンのせいだけじゃないと思うよ」

「え?だって、喉が渇いていたから、声が掠れて...」

「あー、それは...こ」

何かを言いかけ、彼はやめた。それを聞き逃さなかった私は、消化不良気味で首を傾げる。

「他に何か?もしかして、風邪の前兆とかですか?」

「まあ、ずっと喉が渇いていたらそれもあるけど、1番の原因は...」

私の顔から視線を外しとても言いづらそうだった。

「あの時の声が...その」

言われてハッと昨夜の時のこと思い出す。

...そんなに声が!?

自分では無我夢中だったから、どんな風に声を出していたかなんて殆ど覚えていない。一緒に過ごした藤澤さんが言うくらいなのだから、さぞかし。私は両手で口元を隠し、彼の表情を探る。

「その...声というのは、大きかったです、か?」

恐る恐るその事実を確認しようとすると、 彼は穏やかな顔で声を立てて笑った。

「ハハハ。そんなに気にしなくてもいいよ。ただ、ああいう時に出す声って普段の話す声とは違うから、いつもより喉に負担がかかったのかなっていう話だよ」

サラリと世間話するみたいに言われたものだから、大した事なかったんだと思ったけれど、朝からなんて話をしているんだと、こんな自分が恥ずかしい。それにナゼか微妙に彼との距離が縮まっている気がしなくもない。

「あのぅ...?」

「うん、何だろうね...朝から」

さり気なく回された手で後頭部を撫でられ、近づいてくる彼の顔にあっという間に心を奪われてしまう。

「ふわぁ...?」

気がついたら唇を重ねられていた。離れても、また、啄むように角度を変えて何度も繰り返される。私は目をパチクリさせ、それを受け入れるだけしかできず、ようやく彼の唇が離れたと思ったら、目が合った彼の口角が上がったのが見える。

「また、声が枯れるか試してみようか?」

...はい?

私の返事を待たずとも彼はいつの間にかベッドの端に私を追い詰め、シャツのはだけた部分から、大きな手をその奥へと侵入させてきた。

「ふ、藤澤さん!?い、今、朝ですよ!?何で!?」

必死で彼の腕を掴みながらの抵抗。けれど、そんな些細なものは今の彼にとっては、ないに等しい。

「愛し合うのに理由は必要?」

低くて甘い声で聞くわりに、もう、その唇は私の首筋にゆっくりと這わせられている。胸元を繊細に触れられ、口づけを優しくされていくうちに、甘い吐息とありえない声が、再び私の口から漏れてしまう。次第に後ろ手に踏ん張っていた肘からカクンと力が抜け、私は身体のバランスを崩してしまっていた。

この時点で答えを出している私が、彼を突っぱねる事などできるわけがなく。

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