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73.多分、決戦は金曜日。②
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偶然とか、運命とか。
そんな風に彼との出会いを思ってみたいけれど、鈴木さんみたいなときめくようなものでもなく、ただの片想いの延長上の出会いで彼女とは雲泥の差に思えた。入社式における私は群衆の1人なので、藤澤さんだって私の事は気がつかなかったに違いなく。
...私って、なんてこんなに平凡なんだろう?
そんなことを自覚してしまうと目の前の華やかな2人の顔を見ていられなくなり、手元のウーロン茶ばかり眺めてしまう。それを楽しく飲んでいた美波ちゃんに気がつかれた。
「優里どうしたの?黙って」
「え...?」
「さては...。優里も本命チョコをどうやって本命にあげようか考えていたんでしょ?」
彼女は的外れなことを言いながら悪戯っぽく笑い、鈴木さんも小さく笑う。
「あら、三浦さんもうちの会社に本命チョコの相手がいたの?」
「そ、それは...」
私が言葉に詰まってしまうと、美波ちゃんが横槍を入れた。
「はい、私、知ってます!」
...うっそぉー!!
驚きのあまり目を見開いて絶句。そのまま明るく話す彼女の口を止め忘れ...。
「ほら、クールビューティー...」
かなり核心に迫る単語を言われ、ここでハッと気がついて。
「あー!それは...!」
よりによって鈴木さんの前で言おうとしている美波ちゃんを止めにかかると。
「今更、隠したってダメよ。皆、ここで告白したんだから諦めなさいって。ほら、クールビューティーの下で働いている...」
「その相手って、松浦君?」
鈴木さんがサラリと言葉を被せると美波ちゃんがそれに同調した。
...なんで、そこで松浦が?
藤澤さんではない名前が出てきて、なお、びっくり!
「い、いや、ちが...」
私が否定の言葉を並べても、お酒の入っている2人には聞こえないようだ。
「ねぇ、2人の馴れ初めは?」
「馴れ初めもなにも...彼とは大学からの友達で」
「やだー、王道!」
友達だという言葉は無視して、きゃあきゃあと騒いでいる2人。これは何を言っても無駄かもしれないと諦め、ウーロン茶を飲んでいると、鈴木さんが不思議がる。
「でも、そんなに付き合い長いのに、恋愛関係に発展しないものかしら?」
...恋愛関係もなにも...松浦とはそんなんじゃ。
ウーロン茶を飲みながら心の中で反論していると、今度は美波ちゃんが突拍子もないことを。
「優里はこう見えても恋愛関係は疎くて超奥手だし。だから、相手も強引に事をすすめられないんじゃ...」
「...ブッ...◯△※◇」
貴女はどこかで私たちを見たんですかと聞きたくなるくらいの鋭さが刺さる。
そのおかげで喉を通過するはずのウーロン茶は方向を変え、別のところへ入ってしまう。
「ゲボッ、ゴホ...」
私が激しくむせてしまうと、隣に座っている鈴木さんが背中を優しくさすってくれた。
「三浦さん、大丈夫?」
「....っ、す、すみません」
「全く、美波ったら。お酒飲んでいるから変な冗談言って...ゴメンなさいね」
鈴木さんはそう言いながら優しくしてくれて、美波ちゃんはちょっと口をとんがらす。
「もう、いつも鈴木先輩は私のこといい加減だと思って。こう見えても、私はこういう事に鼻が効くんですよ」
「...まさか。三浦さん...本当に?」
美波ちゃんの言葉に驚く鈴木さんに、お酒の席もあり、つい頷いてしまった。
これでは自分から白状したも同然だ。でも、こういう席でないとこういう事も聞けないだろうなって。
「その...男の人にとって、初めてって面倒くさいものですか?」
これは、ずっと頭に引っ掛かってたこと。藤澤さんが何かと躊躇う理由ってこれしかないと思っていたから。私の赤裸々な告白を、同性の2人がどう捉えるのか不安だった。2人とも、うーんと少し考えてくれて、最初に言葉を発したのは美波ちゃんだった。
「女の子の大事な初めてを面倒くさいっていう男なら付き合うのをやめた方がいいと思うけどなぁ。こっちこそ、願い下げ」
「そうそう。そういう男性と付き合うのは時間の無駄ね。かえって、躊躇って気にしてくれる方の男性の方が私は良いわ」
「...そういうものですか?」
「そうよ。面倒くさいって思うのは勝手な男の都合だもの」
いつもやんわりと話す鈴木さんは珍しくキッパリと言い切り、私に微笑む。
「まあ、ここまで話しておいて今更なんだけど。初めてはその時に本当に好きな人が良いわよ。ずっと、忘れられない想い出になるもの」
「あ、それ分かります!別の人と付き合っていてもたまに思い出すんですよね。いい意味でも悪い意味でも。私なんか高校の時だったから懐かしいなぁ」
...こ、高校?
高校時代リアルな同級生より、受験と二次元の方へ頭がいっぱいだった私は耳を疑う。
「あの、つかぬことをうかがいますが...。2人とも初めての時って...」
「私、高2!」
美波ちゃんが手を挙げて言うと、その後おずおずと鈴木さんも手を挙げ。
「同じく...」
...は、早い。
私はどれだけ恋愛に疎かったんだとますます自己嫌悪に陥ると、楽しそうに美波ちゃんに笑われた。
「初めてを焦ることないって。そんな事より大事なのは、その時に優里の1番好きな人とすることだよ」
今、1番好きな人。そう思ったら真っ先に藤澤さんの顔が浮かぶ。
...やっぱり、私は藤澤さんが好き。
だから、初めてが彼とだったらきっと後悔することはないって思った。
そんな風に彼との出会いを思ってみたいけれど、鈴木さんみたいなときめくようなものでもなく、ただの片想いの延長上の出会いで彼女とは雲泥の差に思えた。入社式における私は群衆の1人なので、藤澤さんだって私の事は気がつかなかったに違いなく。
...私って、なんてこんなに平凡なんだろう?
そんなことを自覚してしまうと目の前の華やかな2人の顔を見ていられなくなり、手元のウーロン茶ばかり眺めてしまう。それを楽しく飲んでいた美波ちゃんに気がつかれた。
「優里どうしたの?黙って」
「え...?」
「さては...。優里も本命チョコをどうやって本命にあげようか考えていたんでしょ?」
彼女は的外れなことを言いながら悪戯っぽく笑い、鈴木さんも小さく笑う。
「あら、三浦さんもうちの会社に本命チョコの相手がいたの?」
「そ、それは...」
私が言葉に詰まってしまうと、美波ちゃんが横槍を入れた。
「はい、私、知ってます!」
...うっそぉー!!
驚きのあまり目を見開いて絶句。そのまま明るく話す彼女の口を止め忘れ...。
「ほら、クールビューティー...」
かなり核心に迫る単語を言われ、ここでハッと気がついて。
「あー!それは...!」
よりによって鈴木さんの前で言おうとしている美波ちゃんを止めにかかると。
「今更、隠したってダメよ。皆、ここで告白したんだから諦めなさいって。ほら、クールビューティーの下で働いている...」
「その相手って、松浦君?」
鈴木さんがサラリと言葉を被せると美波ちゃんがそれに同調した。
...なんで、そこで松浦が?
藤澤さんではない名前が出てきて、なお、びっくり!
「い、いや、ちが...」
私が否定の言葉を並べても、お酒の入っている2人には聞こえないようだ。
「ねぇ、2人の馴れ初めは?」
「馴れ初めもなにも...彼とは大学からの友達で」
「やだー、王道!」
友達だという言葉は無視して、きゃあきゃあと騒いでいる2人。これは何を言っても無駄かもしれないと諦め、ウーロン茶を飲んでいると、鈴木さんが不思議がる。
「でも、そんなに付き合い長いのに、恋愛関係に発展しないものかしら?」
...恋愛関係もなにも...松浦とはそんなんじゃ。
ウーロン茶を飲みながら心の中で反論していると、今度は美波ちゃんが突拍子もないことを。
「優里はこう見えても恋愛関係は疎くて超奥手だし。だから、相手も強引に事をすすめられないんじゃ...」
「...ブッ...◯△※◇」
貴女はどこかで私たちを見たんですかと聞きたくなるくらいの鋭さが刺さる。
そのおかげで喉を通過するはずのウーロン茶は方向を変え、別のところへ入ってしまう。
「ゲボッ、ゴホ...」
私が激しくむせてしまうと、隣に座っている鈴木さんが背中を優しくさすってくれた。
「三浦さん、大丈夫?」
「....っ、す、すみません」
「全く、美波ったら。お酒飲んでいるから変な冗談言って...ゴメンなさいね」
鈴木さんはそう言いながら優しくしてくれて、美波ちゃんはちょっと口をとんがらす。
「もう、いつも鈴木先輩は私のこといい加減だと思って。こう見えても、私はこういう事に鼻が効くんですよ」
「...まさか。三浦さん...本当に?」
美波ちゃんの言葉に驚く鈴木さんに、お酒の席もあり、つい頷いてしまった。
これでは自分から白状したも同然だ。でも、こういう席でないとこういう事も聞けないだろうなって。
「その...男の人にとって、初めてって面倒くさいものですか?」
これは、ずっと頭に引っ掛かってたこと。藤澤さんが何かと躊躇う理由ってこれしかないと思っていたから。私の赤裸々な告白を、同性の2人がどう捉えるのか不安だった。2人とも、うーんと少し考えてくれて、最初に言葉を発したのは美波ちゃんだった。
「女の子の大事な初めてを面倒くさいっていう男なら付き合うのをやめた方がいいと思うけどなぁ。こっちこそ、願い下げ」
「そうそう。そういう男性と付き合うのは時間の無駄ね。かえって、躊躇って気にしてくれる方の男性の方が私は良いわ」
「...そういうものですか?」
「そうよ。面倒くさいって思うのは勝手な男の都合だもの」
いつもやんわりと話す鈴木さんは珍しくキッパリと言い切り、私に微笑む。
「まあ、ここまで話しておいて今更なんだけど。初めてはその時に本当に好きな人が良いわよ。ずっと、忘れられない想い出になるもの」
「あ、それ分かります!別の人と付き合っていてもたまに思い出すんですよね。いい意味でも悪い意味でも。私なんか高校の時だったから懐かしいなぁ」
...こ、高校?
高校時代リアルな同級生より、受験と二次元の方へ頭がいっぱいだった私は耳を疑う。
「あの、つかぬことをうかがいますが...。2人とも初めての時って...」
「私、高2!」
美波ちゃんが手を挙げて言うと、その後おずおずと鈴木さんも手を挙げ。
「同じく...」
...は、早い。
私はどれだけ恋愛に疎かったんだとますます自己嫌悪に陥ると、楽しそうに美波ちゃんに笑われた。
「初めてを焦ることないって。そんな事より大事なのは、その時に優里の1番好きな人とすることだよ」
今、1番好きな人。そう思ったら真っ先に藤澤さんの顔が浮かぶ。
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