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67.Le rouge alevres①

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藤澤さんと週末デート。

しかもなんと彼のお宅に2度目のお泊り予定。これは前回みたいな突発的なものではなくて、藤澤さんとの事前の約束だった。それというのも、私の『初めて』はちゃんと想い出になるような場所の方がいいという彼の気遣いと、その...彼にとって久々の彼女なので、私が嫌な思いをしないように練習?したいという事らしい。

...でも、練習って...この間みたいに...する?

頭の中で彼との行為を微かに思い出すとポッと身体が火照りそう。

...ヤダ、私ったら。

今日はたまたま藤澤さんよりも早く着くことができたので、待ち合わせた駅の柱のかげで待っていたのだけれど、あらぬ妄想で恥ずかしくなる。落ち着け自分とコツンと柱に頭をつけるように自己嫌悪中...そこへ、聞き慣れた低い声が。

「...なんか面白そうなことしてるけど、新手の遊びかな?」

...きゃぁ!

どこからともなく藤澤さんが現れ、いきなり背後から声をかけられる。その登場の仕方に慌てふためき、後ずさってよろけてしまう。彼にすんでのところで腕を掴まれ、難を逃れた。

「...おっと、大丈夫?」

「わ、すみません...」

「本当、優里からは目がはなせないな」

「すみません、こんなんで...」

「いや、いいよ。そういう可愛い迷惑は俺だけにしてくれればね」

...どういう意味だろう?

なんて彼の顔を見て思ってしまったけれど、優しい笑みを浮かべてくれたから、そんなのどうでも良くなった。それに今日の彼もカッコいいなぁって見惚れてしまう。最近は研究所に行くことがめっきり少なくなってしまったので、話すのも見るのも新鮮な気がする。

だから、顔を見て笑いかけてくれただけでドキドキしていた。

未だに藤澤さんが彼氏っていうのが信じられなくて、身も心も1つになれたらこの状況に慣れるのかななんて思いながら、彼の手をギュッと握り返す。

「...ん?」

「なんでもありませんよー」

私も藤澤さんも、ふふふって目を細めてお互い2人にしか分からない目配せ。それから彼も私の手を少しだけ強く握ってくれた。

「うちに優里専用のカップ置こう。それと雑貨も見たいから寄り道しようか?」

この言葉で今日はショッピングデートに決定。こんなデートも初めてなのでウキウキワクワクの期待感が半端なかった。少し電車に乗って繁華街に出ると、大手デパートやら雑貨店が軒並み並んでいて、その中の1つに立ち寄る。

雑貨メインの大きなお店だから種類も豊富。フラリといろいろ見ながら歩いて、お目当の食器コーナへ。もともと、こういう場所が好きだった私はたちまち夢中になっていた。

「種類がいろいろあって、迷っちゃいます」

両手に色とりどりのカラフルなカップを手に取り、大きさやら重さやら確かめてみる。藤澤さんもどこかを見るわけでもなく、近くの棚にあるカップを眺めていた。程なくして私は1つのカップに決めた。ただ、それはレッド系がメインのわりとカラフルなデザイン。彼のモノトーン重視のシックな部屋には似合わない気がして確認した。

「こういうの...藤澤さんのお家に置かせても大丈夫ですか?」

ダメだったら今度はもっと落ち着いたカップを選ばなきゃと、思っていると。

「いいんじゃない?俺もこれにしようかな」

彼も私と同じデザインのブルー系がメインのものを手元に取っていた。それは彼らしくないチョイスだったけれど、私のも一緒に持った。

「あ、あの...?」

「これ、この間のお詫びで俺が一緒に買うから。松浦が本当に誤解させるような事言ってごめん。まさか優里にあんな事言うなんて思わなくってさ」

「いえ...ご、誤解はもう解けたので」

あの時の出来事が盛大にフラッシュバック。決して藤澤さんが悪いわけじゃない。それどころか、あんな事まで言ってくれて私が思い出すだけで照れてしまうと、彼は。

「...でも、ユリとお揃いのカップを持てる日が来るなんて思わなかったな。なんか、恋人というより夫婦っぽい気がしない?」

「え、いや、そんな...」

ますます、私がどう答えていいか分からなくなるような事を楽しそうに話しレジへと並んでくれた。私はその列の邪魔にならないよう隅っこに移動して彼を待つ。藤澤さんは大抵頭一つ抜きん出ている事が多いから、すぐどこにいるのか分かる。

...本当、探すのに困らない人。

あの時あのまま別れてしまっていたら、こんな光景を見る事は2度とできなかった。それに会社でも話せなくなっていたかもしれない。だから、こんな風に彼を目で追うとウルっときてしまったのは内緒だ。

思いの外レジが早く終わり、彼が戻ってきた後も他の階に少し回り、目的の買い物を終了。荷物は全て藤澤さんに持ってもらった。そのおかげで繋がれていた手ははなれてしまったけれど、彼と買い物をした事がなかったので、これはこれで幸せ気分。

繁華街を意味なくプラプラしていると目の前には某有名デパートが見えてきた。

「こっち寄っていっても良いかな?」

自然な流れで彼に誘われると私には断る理由がないので、二つ返事でOK。それに、デパートの催し物のポスターを見かけてバレンタインのチョコレートのリサーチが終わっていなかった事に気がついた。

...こんな場所で聞くなんて、あからさま?

多少の躊躇はあったものの、前回のリサーチは大した情報も得られずに不発だったし、なんせ時間が迫っている。多分、バレバレだろうなって思ったけれど、本人に聞いた方が間違いはないと思い直した。デパートの入り口付近は人が行き交い、さりげなく聞くには格好の場所かもと切り出してみる。

「あの...改めてお聞きしたいのですが」

「なに?そんなに畏まって?」

「藤澤さんはどんなチョコお好きですか?」

「あぁ、バレンタイン」

先日の松浦とのやり取りが記憶に新しかったので彼も覚えていたのだろう。即、正解。自分から言いだした手前、正解を言われてしまっだけれどもここは押しきる。

「そ、そうなんですけど。やっぱりちゃんと好みのチョコレートを差し上げたいと思いまして...」

それには優しい笑顔で松浦みたいに茶化される事はなく。

「ハハハ。ユリは本当に真面目。そんなに気にしなくても良いよ。優里から貰えるのはコンビニのチョコでも充分だし」

以前に聞いていた事と同じことを言われてしまい、さすがにそれでは困ると食い下がると、彼も根負けした。

「そうだな...強いて言えば。シンプルなチョコレートが良いかも。中に何も入っていないものが好きだな」

「そうなんですか。分かりました!」

初めて聞く彼の好みは頭の中で早速インプット。本当だったら、このデパートで一緒に選んでもらいたいくらいだけれどそこまで強引にはできそうになかった。それでも好みを聞けただけ大収穫。心の中でどこで買おうとか気持ちが浮かれ、頰が緩む。するとどこから見ていたのか彼も小さく微笑み。

「俺もバレンタインは楽しみにしてる。なんせ好きな子からのチョコレートは初めてだから」

そんな優しい嘘も、私にとっては嬉しい言葉に違いなかった。


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