社内恋愛はじめました。

柊 いつき

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62.I want to know you more④

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彼の顔が近づくにつれ、同じように自分の顔を見られていると思うと羞恥心もMAX。お互いの身体の隙間からなんとか手を伸ばし、指先で天井の方を示した。

「っ...恥ずかしいから、電気...を」

「消してください」というな否や、その願いを最後まで言い終わらないうちに指は絡めとられられ、ベッドにその手は縫い付けられてしまう。そして、唇を難なく奪われ、息継ぎが上手くできなくなるような深い口づけの連続。

さっきソファーでしたものと同じようだったけれど、逃げ場がない。私は舌を絡ませ合う唇の交わりにいつしか夢中になり、気がつくと煌々とした蛍光灯の灯りは、薄い暗い蛍火のようなものに変えられていた。

「あ...っ.......ふぁっ...」

時々、唇が離れると吐息が漏れる。それは先ほどとは違い、顔だけでなく、他の部分にも唇を這わされているから。同時に彼の黒髪が肌の上を緩やかに撫でてゆく感覚が伝わる。その2つの刺激に翻弄され、それが繰り返されるたび、身体の奥が疼くような熱がジワジワと内側から広がってゆく。

私の反応を探るように彼が触れる範囲はだんだんと広がり、いつの間にか胸元の部分まで唇が辿り着いていた。 

その時に、ちくっと吸われるような軽い痛みが断続的に。

「っ...あんっ...」

その初めての刺激に思わず声が出てしまい、彼の腕の中で身体が自分の意思とは関係なしに、跳ねてしまう。その原因を作った彼は、再び私の首筋に唇を這わせくる。

「声が甘くなった...優里はこうされるのが好きなのかな...?」

低くかすれた声は私に意地悪く囁き、答えようとしない私のその場所に同じことを繰り返してゆく。

「...ぃやっ...あぁ...」

肌に触れる小さな痛みのたび、勝手に恥ずかしい声が口から漏れる。

気持ちがいいけど、苦しくて、辛い。
その変な感覚が、彼よって研ぎ澄まされていくのが分かる。

それが自分ではどうしようもなくて、身をよじり、逃げようとしても、ひとまわりも大きい男の人の身体に抑え込まれてしまうとひとたまりもなく。身動きがとれず、全てを受け入れるしかなかった。

「...やっ...もうっ...んっ...!」

感極まった嬌声があがり、背中が反り返る。その反動で無防備になってしまった喉にチュッと軽く口づけられたかと思うと、背中にまわった腕でふわっと身体を持ち上げるように起こされた。

...え、なにっ?

その勢い余ってコテッと身体が何かにもたれかかり、顔にかたいものが当たる。それが彼の胸だと知ったのは、蛍光灯の灯りが再び灯った時で。その明るさに目をパチクリさせていると、「驚いた?」と藤澤さんに小さく笑われた。

どうして、こんな風に身体を起こされているのかよく分からない。
抱きしめられてはいるけど、どう考えても先ほどの続きではなく。

冷静になってなんとなく自分の身体を見ると、彼の目の前でパジャマの胸元の部分が盛大にはだけている。私は彼の胸から飛び出し、慌てて腕をクロスしてその胸を隠した。

「きゃあっ!やだっ!!」

その驚きように彼もつられてビクッと後ずさり、成り行きでベッドの上で胡座をかく。

「ほら、やっぱり無理してた」

...無理?

意外な言葉をかけられ目を真ん丸くしてしまうと、彼は両腕を組み、うーんと唸った。

「気持ちは分からなくもないけど、優里とはこういう事を勢いでしたくない...かなと思いまして」

『勢い』

その言葉に後頭部を思いっきり何かで叩かれたようなショックを受ける。

「...勢いなんかじゃない...です」

はだけた胸元のボタンを留めるふりをしながら、彼から背を向けるのが精一杯な私。彼の告げた言葉でショックを受けているのが、バレたくなかったからだ。

いつもみたいに向き合えない...かも。
私が拒んだから2人の関係が壊れかけて。
だから、揺るぎない確かなものが欲しかっただけなのに。

そういう風に思うのっていけない事?

考えたら、ボタンを留める手が震えていた。泣きそうだった。

今度こそ関係がダメになるかもしれない。
やり方を間違えたのかもしれない。

そこに追い討ちをかけるように背後から「ごめん」と声をかけられる。

...やだ、もう。

謝らないで下さいって、喉まで出かかったけれど、言えなくて惨めな気分。
でも、彼はもう一度「変な事言ってごめん...」と謝ってきた。
だから、謝らないでくださいって今度こそ言おうとしたら、その前にぎゅっと背後から抱きしめられた。

「藤澤さん...?」

「...話を、聞いてくれるかな?」

彼の吐息が耳元にかかってくすぐったいかったけれど。
その距離が心地よかった。
身体にまわされた腕に胸が苦しいけど。
なぜか、嬉しかった。

「...なん...ですか?」

どういう内容の話か聞くのは怖かったけれど、聞かなければ先に進めないと思った。

「こんな風に止めて、ごめん。俺も実は少し不安だった」

...不安?

私はまわされた腕にそっと手を添える。
何を聞かされても気持ちが揺らがないように。

でも、その理由は意外なもので。

「...実は俺も、久々の何年ぶりかの彼女で緊張していたんだ。だから、優里も焦らないで大丈夫って言いたかった」

...え?何年ぶりの?彼女?藤澤さんの?


頭の中で言葉の整理がうまくできず、まとまった途端。

「ええっー?」

...あれで!?

そんな風に絶対見えない藤澤さんの発言に、思わず振りかえってしまうと。

「やーっと、こっちを見てくれた」

そんな私にペロッと彼がお茶目に舌を出す。
しまったと思ったけれど、今更、顔を背ける事は出来なかった。

彼は彼で、藤澤さんの正直な気持ちが分かったから安心したという私の気持ちの変化が分かったみたいで。

さっきとは明らかに違う緩い流れの中、さらに重大事実発覚。

「その...実はもう1つ出来なかった理由があって、アレがない」

...アレ、とは?

私がはてなマークで首を傾げてしまうと、それを察した藤澤さんはしれっとオブラートに包まず直接的な表現をする。

「コンドーム、もしくは避妊具。流石に最初っからナシというのは...ちょっと、どうなんだろう?」

そんな風に意見を初体験初めての私に求められてもと、それには俯いてノーコメント。



かくして、私の『勢い』とやらは見事に未遂に終わる。
そして、藤澤さんのそっち方面に自信がないとかいう言葉は、私を安心させるための嘘だと、後に身をもって分かるのであった。

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