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60.I want to know you more②
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『ママゴトみたいな恋愛』
由香の言うことはもっともで、ずっとこの言葉が頭から離れなかった。
それどころか、藤澤さんと元の関係に戻れた今でも呪縛のように絡みついて離れない。
今回、関係が拗れたのだって私のそういう所がいけなかったのだと思っていた。
もし、彼と身も心もひとつになれたら、関係性というのがより強固になる気がして、私はこんな無謀な行動をとった。
案の定、藤澤さんは「は?」と、その切れ長の瞳を大きく見開いて私の顔を見ている。
それもそのはず。普通の恋人同士だったら普通の出来事なのかもしれないけれど、私たちは、まだ、その...そういう事をした事がない。しかも、女性の私からそういう事への『誘い』をするなんて、恥じらいがなさすぎる。
だから、その証拠に彼は口元を手で抑え絶句していると思った。
それでも、すぐ気を取り直したようで、遠くの方を見つめ、私に目配せのような合図をした。
「...場所を変えてもいい?」
そんな風に聞くわりには返事を待ってくれず、私を半ば強引に連れて行く。
連れて行かれたのは駅の近くにある広場みたいな所で、そこのベンチに座らせられた。彼もそのベンチに座り、心配そうに顔を覗き込まれる。
「さっきの話なんだけど...本気で言ったの?うちに帰りたくないって」
「...はい」
「それは...その...うちに泊まりたいって意味にとれるよ。うちに泊まる意味を優里は本当に分かっているの?」
今度は膝にのせていた手を上から握り込まれ、真面目な顔をされた。
こんな事をお願いする私に怒ってる?それとも呆れてる?でも、ここで怖気付くわけにはいかない。また、あの時と同じよう気持ちになりたくはなかったから。
私は彼の顔を見れず、その重ねられた手元だけを見つめ虚勢を張る。
「私も子供じゃないから知ってます。男の人の部屋に泊まる本当の意味...くらい」
「それなら...」と、前置きされたうえで、彼は自分の正直な気持ちを教えてくれた。
「軽々しくそんな事を俺に言わないでほしい。俺だって、優里とそういう事をしたい気持ちがないわけじゃない。ただ、こんな勢いみたいに今すぐではなくて。もう少し時間をかけてでも...良くないか?こないだは、俺が性急すぎたから関係がおかしくなってしまったわけだし」
「そんなの分かってます...でも、私...そうでないと...」
不安なんですと、今まで考えていた胸の内を打ち明けてしまった。
それから、ずっと俯いてしまっていたから、彼がどんな顔をしていたか分からなかったけれど、ため息をついたのが聞こえて。
...もう、こんな私みたいに面倒な子には付き合いきれないよね。
いろいろな意味で帰る覚悟をしていると、私の手を持ったままベンチから彼が立ち上がる。
「え?」
引っ張られた手を見上げると、藤澤さんは「ここじゃ寒いから、うちに帰ろう」と、いつもみたいに優しく微笑んでくれた。
※※※
彼の部屋に尋ねるのは、クリスマスイブ以来なので、これで2回目。
ただ、今の私の心臓は恐ろしい速さで拍動している。
これは2人分のコートをハンガーに掛けてくれている藤澤さんを、大人の男性として意識しているから。ずっと恋人だとは思っていたけれど、彼を性的な意味で意識したことは殆どなかった。
...藤澤さんはどうだったんだろう?
そんな邪な気持ちでチラリと見てしまうのは、大きな手だったり、細身なわりには均整のとれた背中だったり、身体のパーツの部分。だから、無造作に近づかれた時は、「ひぃっ」とあられもない声を出してしまった。
「...彼氏に向かって、その悲鳴はないんじゃない?」
少し悲鳴をあげたっぽくなったので、流石の藤澤さんもご機嫌をナナメ?
「す、すみません」
私が謝ると、プッと噴き出したような笑顔になり、私の頭をくしゃくしゃって乱暴に撫でた。
「ガチガチに固まった身体をちゃんと風呂で柔らかくしてきてね」
「...はーい」
気恥ずかしくて気の抜けた返事をしたけれど、私に向けてくれる眼差しは、いつも優しくて安心する。
そして、お風呂場から出ると湯上りのせいか、気分さっぱり。そのおかげでさっきまでの緊張が少し解けたみたいだ。すぐさま、キッチンに立って何か飲んでいる藤澤さんに声をかける。
「お風呂、お先にいただきました」
彼は私に気がつくと、空のコップにペットボトルの炭酸水を注ぎ、渡してくれた。
「これでも飲んで待っててよ」
「は、はい。ありがとうございます...」
両手で彼からコップを受け取り、ソファーの端っこにちんまり座ると、藤澤さんは着替えを持ってお風呂場に消えてゆく。
私は受け取った炭酸水をジッと見つめていた。
咄嗟に両手でコップを受け取ったけれど、炭酸の泡が綺麗で勿体無くて、なかなか飲めずじまい。
...いつもお風呂あがりに、これを飲んでいるのかな?
職場ではそのうまれもった雰囲気のせいか、ミステリアスな印象を持たれている事の多い藤澤さん。彼の日常を垣間見えたのが、私は嬉しくて仕方がない。まだ、知らない事がたくさんあると思うけれど、一つ一つ知るのが楽しかった。
お風呂上がりは炭酸を飲むのが好き?
パジャマの色は、やっぱり青が多いのかな?
好きな色だって話していたし。
それに、借りたパジャマが女性では背の高い私でも手足の長さが余るくらい大きくて折り曲げたので、男の人は見た目よりも実際のサイズは違うのかもと、その着心地から妄想みたいな想像をしていた。
だから、突然、頭をワシャワシャとタオルで拭きながら藤澤さんがソファーの隣に座ってきた時の私の驚きようったらない。
その場でソファーから身体が浮いてしまうくらい驚いて、悲鳴をあげたのが本日2度目ともなると。
「...優里の前世は、絶対、ハムスターだよね?」
本気の真顔で言われてしまい、言い返す言葉はございません。
由香の言うことはもっともで、ずっとこの言葉が頭から離れなかった。
それどころか、藤澤さんと元の関係に戻れた今でも呪縛のように絡みついて離れない。
今回、関係が拗れたのだって私のそういう所がいけなかったのだと思っていた。
もし、彼と身も心もひとつになれたら、関係性というのがより強固になる気がして、私はこんな無謀な行動をとった。
案の定、藤澤さんは「は?」と、その切れ長の瞳を大きく見開いて私の顔を見ている。
それもそのはず。普通の恋人同士だったら普通の出来事なのかもしれないけれど、私たちは、まだ、その...そういう事をした事がない。しかも、女性の私からそういう事への『誘い』をするなんて、恥じらいがなさすぎる。
だから、その証拠に彼は口元を手で抑え絶句していると思った。
それでも、すぐ気を取り直したようで、遠くの方を見つめ、私に目配せのような合図をした。
「...場所を変えてもいい?」
そんな風に聞くわりには返事を待ってくれず、私を半ば強引に連れて行く。
連れて行かれたのは駅の近くにある広場みたいな所で、そこのベンチに座らせられた。彼もそのベンチに座り、心配そうに顔を覗き込まれる。
「さっきの話なんだけど...本気で言ったの?うちに帰りたくないって」
「...はい」
「それは...その...うちに泊まりたいって意味にとれるよ。うちに泊まる意味を優里は本当に分かっているの?」
今度は膝にのせていた手を上から握り込まれ、真面目な顔をされた。
こんな事をお願いする私に怒ってる?それとも呆れてる?でも、ここで怖気付くわけにはいかない。また、あの時と同じよう気持ちになりたくはなかったから。
私は彼の顔を見れず、その重ねられた手元だけを見つめ虚勢を張る。
「私も子供じゃないから知ってます。男の人の部屋に泊まる本当の意味...くらい」
「それなら...」と、前置きされたうえで、彼は自分の正直な気持ちを教えてくれた。
「軽々しくそんな事を俺に言わないでほしい。俺だって、優里とそういう事をしたい気持ちがないわけじゃない。ただ、こんな勢いみたいに今すぐではなくて。もう少し時間をかけてでも...良くないか?こないだは、俺が性急すぎたから関係がおかしくなってしまったわけだし」
「そんなの分かってます...でも、私...そうでないと...」
不安なんですと、今まで考えていた胸の内を打ち明けてしまった。
それから、ずっと俯いてしまっていたから、彼がどんな顔をしていたか分からなかったけれど、ため息をついたのが聞こえて。
...もう、こんな私みたいに面倒な子には付き合いきれないよね。
いろいろな意味で帰る覚悟をしていると、私の手を持ったままベンチから彼が立ち上がる。
「え?」
引っ張られた手を見上げると、藤澤さんは「ここじゃ寒いから、うちに帰ろう」と、いつもみたいに優しく微笑んでくれた。
※※※
彼の部屋に尋ねるのは、クリスマスイブ以来なので、これで2回目。
ただ、今の私の心臓は恐ろしい速さで拍動している。
これは2人分のコートをハンガーに掛けてくれている藤澤さんを、大人の男性として意識しているから。ずっと恋人だとは思っていたけれど、彼を性的な意味で意識したことは殆どなかった。
...藤澤さんはどうだったんだろう?
そんな邪な気持ちでチラリと見てしまうのは、大きな手だったり、細身なわりには均整のとれた背中だったり、身体のパーツの部分。だから、無造作に近づかれた時は、「ひぃっ」とあられもない声を出してしまった。
「...彼氏に向かって、その悲鳴はないんじゃない?」
少し悲鳴をあげたっぽくなったので、流石の藤澤さんもご機嫌をナナメ?
「す、すみません」
私が謝ると、プッと噴き出したような笑顔になり、私の頭をくしゃくしゃって乱暴に撫でた。
「ガチガチに固まった身体をちゃんと風呂で柔らかくしてきてね」
「...はーい」
気恥ずかしくて気の抜けた返事をしたけれど、私に向けてくれる眼差しは、いつも優しくて安心する。
そして、お風呂場から出ると湯上りのせいか、気分さっぱり。そのおかげでさっきまでの緊張が少し解けたみたいだ。すぐさま、キッチンに立って何か飲んでいる藤澤さんに声をかける。
「お風呂、お先にいただきました」
彼は私に気がつくと、空のコップにペットボトルの炭酸水を注ぎ、渡してくれた。
「これでも飲んで待っててよ」
「は、はい。ありがとうございます...」
両手で彼からコップを受け取り、ソファーの端っこにちんまり座ると、藤澤さんは着替えを持ってお風呂場に消えてゆく。
私は受け取った炭酸水をジッと見つめていた。
咄嗟に両手でコップを受け取ったけれど、炭酸の泡が綺麗で勿体無くて、なかなか飲めずじまい。
...いつもお風呂あがりに、これを飲んでいるのかな?
職場ではそのうまれもった雰囲気のせいか、ミステリアスな印象を持たれている事の多い藤澤さん。彼の日常を垣間見えたのが、私は嬉しくて仕方がない。まだ、知らない事がたくさんあると思うけれど、一つ一つ知るのが楽しかった。
お風呂上がりは炭酸を飲むのが好き?
パジャマの色は、やっぱり青が多いのかな?
好きな色だって話していたし。
それに、借りたパジャマが女性では背の高い私でも手足の長さが余るくらい大きくて折り曲げたので、男の人は見た目よりも実際のサイズは違うのかもと、その着心地から妄想みたいな想像をしていた。
だから、突然、頭をワシャワシャとタオルで拭きながら藤澤さんがソファーの隣に座ってきた時の私の驚きようったらない。
その場でソファーから身体が浮いてしまうくらい驚いて、悲鳴をあげたのが本日2度目ともなると。
「...優里の前世は、絶対、ハムスターだよね?」
本気の真顔で言われてしまい、言い返す言葉はございません。
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