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28.いつもと違う彼の顔①
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『好き』という想いを伝え合うと張り詰めていたものがプツンと切れて気が抜ける。
告白での熱量がなくなり、お互い気まずいというより気恥ずかしいという雰囲気になり、今度は穏やかな空気にその場が支配されていた。
気がつくと、私は彼の白衣をずっと掴んでいて手を離すタイミングを逃しており、藤澤さんもそれには苦笑い。それでも優しい彼は、私が恥をかかないように助け舟を出してくれた。
「...コーヒー、冷めたから淹れなおしますよ。だから三浦さんはさっきの席で」
そう言われると自然と白衣から手が離せる。私は彼の好意に頷き、そのまま彼の席に座らせてもらう。
そして、彼は再び2人分を淹れなおしてくれ、また隣の席に戻ってきた。
その時に再びカップを受け取り、今度は軽く冷ましてすぐに一口。
コーヒーがすごく好きとかではなかったけれど、彼が淹れてくれたこのコーヒーは特別に美味しく感じた。
「...美味しい」
私の思わず漏れたつぶやきを聞いた彼は「お世辞でも嬉しいですよ」と、穏やかな顔で微笑んでくれる。
こんな風に2人でコーヒーを飲める日が来るなんて、思いもよらなかった。
...今日からこの人が私の彼。
ポワンと目の前の彼を夢見心地で見惚れていたら、彼が急に「そういえば...」と話を。
「三浦さんって、なにか香水...」
「きゃっ、ヤダ!...ウソ...」
彼が言いかけた言葉に動揺して慌てふためく。藤澤さんに見られているというのに、自分の首のあたりを手で必死に隠そうとした。今日は彼と同じ香水をつけて出社している。
まさか、こんな風に彼と急接近するなんて考えてもみなかったから動揺してしまったのだ。
そんな私の様子を眺めていた彼は最初は首を傾げていたけれど、ニヤリと口角を上げ、人差し指で耳元を軽く叩く。
「今さら隠しても無駄ですよ。それに意外と残ります...その香りは」
私は恥ずかしさのあまり、上目遣いで彼に訴える。
きっと今の顔は赤くなっているに違いなくて。
「....はい、ごもっともなご意見で。その...バレちゃいました?」
「はい?...何がですか?」
藤澤さんはわざわざ意地悪く聞き返してくれて、それには堪らず、自ら白状した。
「その...実は、藤澤さんと同じ香水を探しだして普段つけていまして...」
「え?...だってそれ、男物の香水ですよ?てっきり、三浦さんの彼氏の移り香か何かと。なんで、わざわざそんな奇特なマネを...?」
彼は私が同じ香水をつけていたのは知っていたみたいだけれども、自分の真似をしたとは少しも思っていなかった。ここまで話してしまったら、これ以上話を誤魔化すのは無理な話で。
「ずっと、その...藤澤さんに憧れていたもので、せめて同じものをつけたいなって。...それに、彼氏なんて今までいたことありません」
今だけは、穴があったら入って上から砂をカブして完璧に藤澤さんの視界から消え去りたい!
この辱しめに耐えられないとばかりに、手で自分の顔を全面覆い隠す。
もう、コーヒーなんかそっちのけで、キャー、恥ずかしいって、彼を前にして1人で照れまくる。
藤澤さんも私の騒ぎっぷりが可笑しかったらしく、手で口元を抑えて笑いをかみ殺しているみたいだった。
それから、私がその恥ずかしさから復活した頃を見計らうように。
「あの、三浦さん...それと、もう一つ」
「....なんですか?」
「もしかしてなんだけど、俺以外の男の人と手を繋いだりしたことあります?その...家族以外で」
その質問に彼氏がいない歴=年齢の私は、またもや恥ずかしさがこみ上げてきて頬に手を当て俯く。
...今日の藤澤さんはなんか意地悪かも。
そんな事を少し思いながら、恥ずかしいのでなるべく小さな声で言ってみる。
「...ないです。藤澤さんが初めて、です」
「んぐっ!!?」
コーヒーを飲みかけていた彼は、どういうわけだか変な声をカップの中に漏らした。
その声が某国民的アニメの◯◯エさんに似ていたような、似ていなかったような?
告白での熱量がなくなり、お互い気まずいというより気恥ずかしいという雰囲気になり、今度は穏やかな空気にその場が支配されていた。
気がつくと、私は彼の白衣をずっと掴んでいて手を離すタイミングを逃しており、藤澤さんもそれには苦笑い。それでも優しい彼は、私が恥をかかないように助け舟を出してくれた。
「...コーヒー、冷めたから淹れなおしますよ。だから三浦さんはさっきの席で」
そう言われると自然と白衣から手が離せる。私は彼の好意に頷き、そのまま彼の席に座らせてもらう。
そして、彼は再び2人分を淹れなおしてくれ、また隣の席に戻ってきた。
その時に再びカップを受け取り、今度は軽く冷ましてすぐに一口。
コーヒーがすごく好きとかではなかったけれど、彼が淹れてくれたこのコーヒーは特別に美味しく感じた。
「...美味しい」
私の思わず漏れたつぶやきを聞いた彼は「お世辞でも嬉しいですよ」と、穏やかな顔で微笑んでくれる。
こんな風に2人でコーヒーを飲める日が来るなんて、思いもよらなかった。
...今日からこの人が私の彼。
ポワンと目の前の彼を夢見心地で見惚れていたら、彼が急に「そういえば...」と話を。
「三浦さんって、なにか香水...」
「きゃっ、ヤダ!...ウソ...」
彼が言いかけた言葉に動揺して慌てふためく。藤澤さんに見られているというのに、自分の首のあたりを手で必死に隠そうとした。今日は彼と同じ香水をつけて出社している。
まさか、こんな風に彼と急接近するなんて考えてもみなかったから動揺してしまったのだ。
そんな私の様子を眺めていた彼は最初は首を傾げていたけれど、ニヤリと口角を上げ、人差し指で耳元を軽く叩く。
「今さら隠しても無駄ですよ。それに意外と残ります...その香りは」
私は恥ずかしさのあまり、上目遣いで彼に訴える。
きっと今の顔は赤くなっているに違いなくて。
「....はい、ごもっともなご意見で。その...バレちゃいました?」
「はい?...何がですか?」
藤澤さんはわざわざ意地悪く聞き返してくれて、それには堪らず、自ら白状した。
「その...実は、藤澤さんと同じ香水を探しだして普段つけていまして...」
「え?...だってそれ、男物の香水ですよ?てっきり、三浦さんの彼氏の移り香か何かと。なんで、わざわざそんな奇特なマネを...?」
彼は私が同じ香水をつけていたのは知っていたみたいだけれども、自分の真似をしたとは少しも思っていなかった。ここまで話してしまったら、これ以上話を誤魔化すのは無理な話で。
「ずっと、その...藤澤さんに憧れていたもので、せめて同じものをつけたいなって。...それに、彼氏なんて今までいたことありません」
今だけは、穴があったら入って上から砂をカブして完璧に藤澤さんの視界から消え去りたい!
この辱しめに耐えられないとばかりに、手で自分の顔を全面覆い隠す。
もう、コーヒーなんかそっちのけで、キャー、恥ずかしいって、彼を前にして1人で照れまくる。
藤澤さんも私の騒ぎっぷりが可笑しかったらしく、手で口元を抑えて笑いをかみ殺しているみたいだった。
それから、私がその恥ずかしさから復活した頃を見計らうように。
「あの、三浦さん...それと、もう一つ」
「....なんですか?」
「もしかしてなんだけど、俺以外の男の人と手を繋いだりしたことあります?その...家族以外で」
その質問に彼氏がいない歴=年齢の私は、またもや恥ずかしさがこみ上げてきて頬に手を当て俯く。
...今日の藤澤さんはなんか意地悪かも。
そんな事を少し思いながら、恥ずかしいのでなるべく小さな声で言ってみる。
「...ないです。藤澤さんが初めて、です」
「んぐっ!!?」
コーヒーを飲みかけていた彼は、どういうわけだか変な声をカップの中に漏らした。
その声が某国民的アニメの◯◯エさんに似ていたような、似ていなかったような?
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