社内恋愛はじめました。

柊 いつき

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17.とりあえず、自分が。

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今回のプロジェクトが実用開始になると、私は毎日のように研究所へと通うこととなった。松浦の話していた通りの運び屋さんだったからだ。

既に二週間ほど毎日のように通い詰めていて、自分のデスクで作業している藤澤さんの姿をチラッと受付カウンター越しにのは、3回ほど。
仕事に没頭している彼は受付カウンターにいる私になんて目もくれない。
私も受け渡しの相手が松浦だと決まっているから、話しかけることもその勇気もなかった。

それが片想いの醍醐味。私は見ているだけでだったはずなのに。

※※※

今日は松浦から11時頃に研究所に来るようにと、時間指定が入った。

私と彼はこの仕事においてはコンビみたいなもので、お互いにいないと仕事が進まない。だから、どちらかというと忙しい彼の為に予定は合わせる事にしている。
ただ、この生体標本の受け渡しに関してだけはお互いに不慣れで息が合わなくて。
終わるのに時間がかかるのが難点だった。

腕時計を見ながらこれからの予定を思うと少し憂鬱げんなり

言われた通りに早く来たんだからと息巻いて研究所へ入ると殆ど人がおらず、松浦もいなかった。

その代わり、たまたま自席にいた白衣の研究員2人から視線を浴びせられる。
その中に思いもよらない人がいて、心臓が口から飛び出そうなくらい驚いた。

「....こんにちは。あ、あの....松浦さんはいらっしゃいます...か?」

藤澤さんを目の前にすると、こんな簡単な言葉すら言えなくなる。
彼の方はいたって普通。
自席から立ち、わざわざ親切に私のいる受付カウンターまで近づいて来てくれた。

「あ...と。松浦は、実験室に...」

向こうにあるドアを眺めていたけれど、誰かが開ける気配はない。

...なんで、自分が呼び出したくせにいないのよ!

とは、彼の前でおくびにも出せず、目の前の顔を見れず目を伏せた。

「それでは、ここで彼が戻るまでお待ちしております...」

少しなら待つのは仕方ないと諦める。
すると、何故か目の前の彼が白衣のポケットからペンを取り出し、片手に持っていた。そのうえ、思いもよらない言葉を私に投げかける。

「すみません。松浦が戻ってくるまで、とりあえず自分が受け取り作業しますから」

...はい?

その申し出を受け、まず自分の耳を疑ってしまう。
なんと言っていいか分からず彼の顔を見ていたら、再度。

「歳上の言うことは素直に聞くものですよ、

あの夜と同じ言葉セリフを、しかも名前を添えて笑顔で言われた。

ズキュン。

今、何かに心臓ハートを撃ち抜かれた気がする...多分。
その申し出は時間が惜しい私には有り難かったけれど、彼だって忙しいはずなのに。

「...いいんですか?」

「もちろんです」

自分に向けられる穏やかな微笑みキラースマイルにまた見惚れてしまいそうになったけれど、辛うじて言葉を繋げる。

「よ、よろしく...お願い致します」

「はい、こちらこそ」

それから、いつもの松浦と同じように受付カウンターの一角で生体標本を確認しながらの受け取り作業を開始。
ただ、松浦の時とは違い、指示も的確で、数倍作業スピードが上がる。

「ここは、A。Bはこっちにラベリング。あ、そこはまっすぐ、角を合わせて。違う!そこはA、B、C揃えて...」

「は、はい...!」

まるでその雰囲気は、部活で千本ノックでも特訓されているかの勢い。
その為、私はついていくのが精一杯だった。
彼の方も仕事だからニコリともせず淡々とこなしていて、お互い余計なことを話しかけられない状態に陥る。
そして、ようやく私の方も要領良く作業できてきた頃、邪魔をするかのごとく松浦が私たちの間に割って入ってきた。

「主任!すみません、すぐ、変わります!」

その後はいつも通りのグダグダ作業に逆戻り。


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