社内恋愛はじめました。

柊 いつき

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14.予期せぬ出来事②

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...ん?

肩に何かがのしかかってくるような重みを感じて意識が醒めた。

...あの後、私?

ハッとして目を開けて身体を少し起こす。
すると、隣に座っていたはずの藤澤さんが、なんと、私の方にもたれかかるように

私はというと、すっかり目眩も落ち着いて、身体の大きい彼に寄りかかられても平気なくらい。寧ろ、永遠にそのままでも良かった。

ただ、今は秋の深夜帯。夜風が少し冷たく感じる時期だから。

「...ずっとこのままだと、風邪ひきますよ」

...zzz

私の小声の呼びかけには彼からの反応がなく、規則正しい寝息だけが返された。

困ったと、身動きせずに顔だけを動かして彼の方ばかり見ていたら、艶やかな黒髪が風になびき、精悍な顔立ちが見え隠れしているのが目につく。

...起きるまでなら、見てても?

マトモに顔を合わすのは、恥ずかしいから無理だった。
でも、寝ている今ならこの素晴らしい距離で彼のことを見放題?
そんな邪な考えぼんのうがムクムクと私の中で涌き上がり、抗えなかった。

...少しなら。

遠慮しつつも、ホームの灯りが明るく彼の姿を照らし出してくれていたので、実際は写生するかの如く、事細かに彼の造形に見入ってしまう。

...まつげ長い。鼻、高い。肌、きれー。
少し、日に焼けてる?腕時計が知らないブランド...これは、お気に入り?

そんな至福の時間ときが少しの間続き、それを邪魔をしてくれたのは次の電車が到着する音だった。

ホームには人気ひとけがなく、周りが静かだった分、機械音がそこらじゅう大きく響きわたる。それが熟睡していた彼の耳にも届いたようで、藤澤さんは飛び起きた。

「うわっ!?」

...きゃあっ!

声を出せずに驚いた私とは対照的に、勢い良く身体を起こした彼は、目を擦りながら現状把握するみたいに辺りを見回している。

その延長で隣の私に気がついた。

「あ、すみません。俺も寝ちゃって...それよりも具合はどうですか?」

「はい、おかげ様でもう大丈夫です。ご心配をおかけしてどうもすみません。ありがとうございました」

藤澤さんは自分のことよりも、真っ先に私の事を心配してくれて優しいって思う。
だから、私も心配をかけたくなくて元気に笑ってみせた。

彼もそれで私は心配ないと判断したみたいで、すぐさま到着していた電車に乗り込む。
ちょうど、藤澤さんは乗車口のドア付近に立っていて、私もそこまで近づいてお見送りしようとすると。

「見送りなんていいですから、早く帰って休んでください」

少しぶっきらぼうな口調で言われた。
けれど、それは私を鬱陶しく思うからでなく心配してくれているからこそ。

私は、そんな彼と1秒でも長く同じ空間ところにいたかった。

「いえ。ご迷惑おかけしたので、見送ります」

乗車口の前で何度かこんな不毛なやり取り。
ふとした弾みで言葉が途切れ...。

その後、どういうわけだか、藤澤さんも私も言葉が続かない。
お互い、何か言いたげな雰囲気で相手の顔だけを見ていた。

そして、ようやく電車の発車を知らせるアナウンスが入り、それをキッカケにして彼の方から。

「三浦さん、じゃあね...」

少し砕けた感じでお別れの言葉をかけられる。
てっきり、これが私に向けられる最後の言葉だと思ったのに、続きがあって。
それを聞くと同時くらいに無情にもドアが閉まり、今度こそ本当にお別れだった。

閉まったドアのガラス越しに彼は小さく手を振ってくれ、電車は時刻通り発車する。

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