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10.名前③
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新入社員の部下が上司の田山さんの提案を断れるわけもなく、皆、素直に名刺を出していたので、私も自分の名刺入れを出すしかなかった。
...ど、どうしよう。
私の緊張とは裏腹に、皆の準備が出来たのを見計らい、早速、藤澤さんは、手慣れた手つきで近い方から順に名刺を配り始めている。
しかも、こんな所でわざわざ名前まで名乗ってくれて、実践さながらの名刺交換だった。それは田山さんの意図を汲んでのことなのだろう。
彼の仕事に対する真摯な姿勢が垣間見えた気がした。
「はじめまして、藤澤です」
他の人に渡している彼の声を俯きながら聞き、その間、粗相があってはならないと待っていると、私の番になる。
そこで田山さんが声高らかに宣言する。
「じゃ、ラスト。三浦さんと藤澤ね」
流石にここは俯いたままでは失礼だと判断して、ありったけの勇気を振り絞り顔を上げた。
すると、真正面から初めて見る藤澤さんの顔が。
しかも笑顔で名刺を差し出してくれていた。
「はじめまして、藤澤です。本日は宜しくお願いいたします」
「は、はい、三浦です。こちらこそ...宜しく...お願い、いたし、します」
うん!吃ったけれど、ちゃんを言えた。
それからすぐ恥ずかしくて俯いてしまったけれど、受け取った名刺を手元で素早く確認。
その名刺には当たり前だけれど、研究所での肩書きと名前が書いてあり、知りたかった名前部分に、【タツル】とルビが振ってあった。
...リツ、さんじゃなくて、タツル、さん。
今日の大収穫!と、内心、ホクホク喜んでいると、目の前の素敵な人がなにやらぶつぶつ言っているのが聞こえた。
「ら、ゆり...みうら、ゆり...」
...私の名前?
それには思わず挙手をしてしまった。
「はい!私に何か?」
その突飛な行動に、視線が一同に注ぐのは無理はなく。
後先を考えずに手を挙げてしまったものだから、隣の美波ちゃんに不審がられた。
「どうかした?手なんか挙げちゃって?」
「いや、これは、その...」
挙げた手をどうやって引っ込めようかとモジモジしていると。
「はい!」
そこへ挙手、第二弾!
しかもその手を挙げたのは藤澤さんだった。
今度は田山さんが首を傾げている。
「お前までなんだよ?」
すると、藤澤さんは挙動不審で言葉に詰まった私と違い、不穏になりそうだった空気を快活に笑い飛ばしてくれた。
「あ、ごめん。三浦さんは俺のせい!俺が名前を口に出して言ったから。三浦さんの優里っていう名前が良い名前だなと思って、つい、ね...」
そんな彼のフォローで一気に場が和む。
「やだー!藤澤さんったら、お茶目!」
「なんで女の子の名刺もらって名前なんか呼んでるんですかぁー。やらしー」
「うるさい、うるさい!」
注目が私から彼に集まってくれて、また、俯いていても許される群集に戻ることができた。
それには助かったけれど、私には自分の名前が藤澤さんに呼ばれたことの衝撃の方が遥かに大きくて。
...良い名前って言ってくれた。
いつも自分は平凡だと思っていたけれど、この時ばかりは名前とこの名前をつけてくれた両親に感謝。
...ど、どうしよう。
私の緊張とは裏腹に、皆の準備が出来たのを見計らい、早速、藤澤さんは、手慣れた手つきで近い方から順に名刺を配り始めている。
しかも、こんな所でわざわざ名前まで名乗ってくれて、実践さながらの名刺交換だった。それは田山さんの意図を汲んでのことなのだろう。
彼の仕事に対する真摯な姿勢が垣間見えた気がした。
「はじめまして、藤澤です」
他の人に渡している彼の声を俯きながら聞き、その間、粗相があってはならないと待っていると、私の番になる。
そこで田山さんが声高らかに宣言する。
「じゃ、ラスト。三浦さんと藤澤ね」
流石にここは俯いたままでは失礼だと判断して、ありったけの勇気を振り絞り顔を上げた。
すると、真正面から初めて見る藤澤さんの顔が。
しかも笑顔で名刺を差し出してくれていた。
「はじめまして、藤澤です。本日は宜しくお願いいたします」
「は、はい、三浦です。こちらこそ...宜しく...お願い、いたし、します」
うん!吃ったけれど、ちゃんを言えた。
それからすぐ恥ずかしくて俯いてしまったけれど、受け取った名刺を手元で素早く確認。
その名刺には当たり前だけれど、研究所での肩書きと名前が書いてあり、知りたかった名前部分に、【タツル】とルビが振ってあった。
...リツ、さんじゃなくて、タツル、さん。
今日の大収穫!と、内心、ホクホク喜んでいると、目の前の素敵な人がなにやらぶつぶつ言っているのが聞こえた。
「ら、ゆり...みうら、ゆり...」
...私の名前?
それには思わず挙手をしてしまった。
「はい!私に何か?」
その突飛な行動に、視線が一同に注ぐのは無理はなく。
後先を考えずに手を挙げてしまったものだから、隣の美波ちゃんに不審がられた。
「どうかした?手なんか挙げちゃって?」
「いや、これは、その...」
挙げた手をどうやって引っ込めようかとモジモジしていると。
「はい!」
そこへ挙手、第二弾!
しかもその手を挙げたのは藤澤さんだった。
今度は田山さんが首を傾げている。
「お前までなんだよ?」
すると、藤澤さんは挙動不審で言葉に詰まった私と違い、不穏になりそうだった空気を快活に笑い飛ばしてくれた。
「あ、ごめん。三浦さんは俺のせい!俺が名前を口に出して言ったから。三浦さんの優里っていう名前が良い名前だなと思って、つい、ね...」
そんな彼のフォローで一気に場が和む。
「やだー!藤澤さんったら、お茶目!」
「なんで女の子の名刺もらって名前なんか呼んでるんですかぁー。やらしー」
「うるさい、うるさい!」
注目が私から彼に集まってくれて、また、俯いていても許される群集に戻ることができた。
それには助かったけれど、私には自分の名前が藤澤さんに呼ばれたことの衝撃の方が遥かに大きくて。
...良い名前って言ってくれた。
いつも自分は平凡だと思っていたけれど、この時ばかりは名前とこの名前をつけてくれた両親に感謝。
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