社内恋愛はじめました。

柊 いつき

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3.上司の友人

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「今日の午前中は山崎やまざきと三浦さん、2人とも一緒に俺と同行ね」

「はい、分かりました」

朝礼が終わると私と山崎さんは、営業職の直属の上司に当たる田山さんから直々に本日のスケジュールを言い渡される。これはこの課に配属になってから毎日の日課だった。

なぜなら、新入社員の私たちはある試験を受験して合格しないと一人前の営業職とは見なされず、1人でお得意先へと行けない身分だからだ。

その為、田山さんと山崎さんと私で3人で一緒に行動することもわりと多く、その間に仕事とは関係ない話をする事もある。

そのおかげで田山さんと山崎さんが同じ大学で過ごしていた事も、山崎さんが大学院卒だったので、同じ年度の入社の私よりも2つ歳上だという事も知った。

そんな流れから美波ちゃんに少しでも情報をと、今日も2人の会話に聞き耳をたてる私なのである。

3人で一緒にお得意先回りをする時は、田山さんのご指名で山崎さんが運転手。
田山さんはその日によって助手席に座ったり後部座席に座ったりで、私は必ず運転手の後ろの後部座席。世間様でいう社長席?
これは万が一にも事故とかで私に何かあってはいけないという、田山さんの配慮からなるもので、この席が1番危険から遠いと教えてもらう。

このさり気なさができる営業職の理由なのか、モテる所以りゆうなのか。
私はどちらの理由もうなづけた。

そして、今日の田山さんは後部座席の私の隣に。
それが分かってしまうと、一気に緊張感が増し背筋がピンと張り詰める。


...今日は私!?


男性慣れをしていない私には、田山さんが隣に座ることは緊張する一因ではあるけれど、それよりも何よりも、彼が車に乗ってお得意先へと行くまでの間に資料を読み込む間が怖かった。

そう、この後、隣に座った人間に対してそこから質問責めなのだ。

まあ、田山さんは優しいので答えられなくても「ちゃんと覚えておこうね」と、窘められる程度で済むけれど。

同期入社の大学の友人によると研究職はミスには容赦がないらしいので、こういう時は、心底、営業職で良かったと思う。因みに大学の後輩である山崎さんにも同様のことをする。

私と違い、答えられないと彼には流石に少し厳しいけれど、山崎さんは全然平気みたいで。

「そういえば、藤澤ふじさわさんが本社付きの研究所に配属になったって聞いたんですけど、本当ですか?入社してから一度も会社で会えないんですけど」


運転しながら、唐突に話題を変えた彼に田山さんが苦笑い。


「お前な、話を変えて質問を誤魔化すなよ」

「ははは。バレました?でも、藤澤さんに会いたいのは本当ですから」


そのうえ調子よくまだ話すものだから、田山さんも根負けして資料を鞄にしまった。

「藤澤なら今春からウチに配属になったようだけど、異動してから殺人的に忙しいみたいだから、入社式以来、俺も会っていないんだ。そんなに大事な用事なら伝えるだけ、伝えておこうか?」

「はい、是非!今度飲みに連れてってくださいって伝えて下さい!俺、昔からあの人と飲むの好きなんです」

無邪気に飲みの用事をお願いする山崎さんに、田山さんは呆れ顔で小さく息を吐く。

「あいつの忙しい時期にそんなこと言ってみろ。友人の俺ですら無茶苦茶怒られるよ」

時々、2人の会話に出てくる『藤澤』という名前の人は、どうやら田山さんのお友達のようだ。
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