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【spin-off】bittersweet first love
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4月1日、晴天なり。その神々しいくらいの明るさに眩暈がしそうだ。
...眠い。
先日引っ越したものの、荷解きは殆ど出来ず、昨夜遅くまでかかった。今日は式の手伝いの後、時間があれば以前の職場にトンボ帰りの予定...考えただけでも、今日の殺人スケジュールが完遂できるか心配というか、完遂したら廃人になっていそうで恐ろしい。
ただ、一つ助かったのは今回の異動は配属は違えど、当分の間は両方に俺の椅子があるという事で、行き来は可能。そのおかげで期日までに完全に異動ではなく、中途半端でも許された。まあ、それは人の2倍働けという上司の緩いプレッシャーに他ならないが。
「あ、藤澤。いたいたー」
諸悪の根源の田山が爽やかな笑顔と共に軽快にひょっこりと顔を出す。すぐさま、今日一緒に行動するメンバーを紹介するからと強引に引っ張られた。
「今日はこの人と組んでね」
紹介されたのは眼鏡をかけた女子社員。聞けば田山と同期入社だそう。
「藤澤です。何かと不慣れな点はあると思いますが、本日はよろしくお願いします」
「鈴木です。こちらこそよろしくお願いします」
よく見れば、割と顔の整っている美人な部類に入る彼女は田山の好みだ。
...さては、彼女の前でいい格好したな。
分かりやすい田山の思惑に乗るのは癪に触るが、車海老の恩があるし、今日は自分が何をしていいかさっぱり分からない。ここは田山の顔を立て、裏方に徹しようと、受付業務では表に出ず面倒くさそうな地味な作業ばかりをした。
そして、あらかた受付が終わると鈴木さんから受付は大丈夫と言われ、会場の隅へと移動。受付の間、携帯の電源をオフにしていたので少し時間があるなと、電源をオンにすると着信履歴がズラリ。
...うわっ、なんだこれ!?
履歴は以前の職場の後輩の松田のみ。まさに鬼電というやつで、これはのっぴきならない状態では?と慌ててかけ直した。
「悪い、電源切ってた。何か問題でも?」
『藤澤さーん、良いところに!!』
予想通り、トラブル発生。松田は慣れないトラブルにテンパってしまい、要領得ない説明だったがどうにか落ち着かせて、内容を聞き出す。
その内容は研究所に戻ってからじっくり自席で作業すべき案件だと思われたが、あいにく今日は戻る時間がなさそうだ。持参してきたノートパソコンで出来ない事もないが、式が始まる今は無理。その代わり、式の間対処方法を考える事にした。
「それなら大丈夫だけど、念のため、修正箇所教えろ」
『お忙しいところすみませんが、助かります!』
こちらが対処する事に松田は安堵したらしく、口も滑らかだ。だが、俺の方はメモ帳を鞄に忘れてきてしまい、緊急性があるので、携帯を耳に挟みながら右手の甲に数字や文字を書き入れる。書きづらかったが何とか書き終え、松田にこれからの指示を出しているところで、田山が時計を指差して俺にジェスチャーした。
...やばっ、始まる時間。
「悪い、また後でかけ直す」
こちらも慌ただしく携帯を切る。すると手元が疎かになり、左手に持っていたボールペンが手から滑り落ちてしまう。
「げっ!?」
そのボールペンは意図せずパイプ椅子の方へ転がった。俺は急いで拾いに行こうとしたのだが、新入社員が続々と着席を始めると、行手を阻まれ、探しに行く事ができなくなる。そして、そのまま、立ち去る事も出来ず、パイプ椅子の席が新入社員で埋まっていくのを呆然と見ていると、再度促された。
「藤澤、時間だからそんな所いないで端っこに寄って!」
邪魔だと言われ、渋々その場を離れたもののボールペンの行方が気になって仕方がない。
たかがボールペン、されどボールペン。
長年手に馴染んでいたソレは今となっては貴重で、手に入らないものだった。
...眠い。
先日引っ越したものの、荷解きは殆ど出来ず、昨夜遅くまでかかった。今日は式の手伝いの後、時間があれば以前の職場にトンボ帰りの予定...考えただけでも、今日の殺人スケジュールが完遂できるか心配というか、完遂したら廃人になっていそうで恐ろしい。
ただ、一つ助かったのは今回の異動は配属は違えど、当分の間は両方に俺の椅子があるという事で、行き来は可能。そのおかげで期日までに完全に異動ではなく、中途半端でも許された。まあ、それは人の2倍働けという上司の緩いプレッシャーに他ならないが。
「あ、藤澤。いたいたー」
諸悪の根源の田山が爽やかな笑顔と共に軽快にひょっこりと顔を出す。すぐさま、今日一緒に行動するメンバーを紹介するからと強引に引っ張られた。
「今日はこの人と組んでね」
紹介されたのは眼鏡をかけた女子社員。聞けば田山と同期入社だそう。
「藤澤です。何かと不慣れな点はあると思いますが、本日はよろしくお願いします」
「鈴木です。こちらこそよろしくお願いします」
よく見れば、割と顔の整っている美人な部類に入る彼女は田山の好みだ。
...さては、彼女の前でいい格好したな。
分かりやすい田山の思惑に乗るのは癪に触るが、車海老の恩があるし、今日は自分が何をしていいかさっぱり分からない。ここは田山の顔を立て、裏方に徹しようと、受付業務では表に出ず面倒くさそうな地味な作業ばかりをした。
そして、あらかた受付が終わると鈴木さんから受付は大丈夫と言われ、会場の隅へと移動。受付の間、携帯の電源をオフにしていたので少し時間があるなと、電源をオンにすると着信履歴がズラリ。
...うわっ、なんだこれ!?
履歴は以前の職場の後輩の松田のみ。まさに鬼電というやつで、これはのっぴきならない状態では?と慌ててかけ直した。
「悪い、電源切ってた。何か問題でも?」
『藤澤さーん、良いところに!!』
予想通り、トラブル発生。松田は慣れないトラブルにテンパってしまい、要領得ない説明だったがどうにか落ち着かせて、内容を聞き出す。
その内容は研究所に戻ってからじっくり自席で作業すべき案件だと思われたが、あいにく今日は戻る時間がなさそうだ。持参してきたノートパソコンで出来ない事もないが、式が始まる今は無理。その代わり、式の間対処方法を考える事にした。
「それなら大丈夫だけど、念のため、修正箇所教えろ」
『お忙しいところすみませんが、助かります!』
こちらが対処する事に松田は安堵したらしく、口も滑らかだ。だが、俺の方はメモ帳を鞄に忘れてきてしまい、緊急性があるので、携帯を耳に挟みながら右手の甲に数字や文字を書き入れる。書きづらかったが何とか書き終え、松田にこれからの指示を出しているところで、田山が時計を指差して俺にジェスチャーした。
...やばっ、始まる時間。
「悪い、また後でかけ直す」
こちらも慌ただしく携帯を切る。すると手元が疎かになり、左手に持っていたボールペンが手から滑り落ちてしまう。
「げっ!?」
そのボールペンは意図せずパイプ椅子の方へ転がった。俺は急いで拾いに行こうとしたのだが、新入社員が続々と着席を始めると、行手を阻まれ、探しに行く事ができなくなる。そして、そのまま、立ち去る事も出来ず、パイプ椅子の席が新入社員で埋まっていくのを呆然と見ていると、再度促された。
「藤澤、時間だからそんな所いないで端っこに寄って!」
邪魔だと言われ、渋々その場を離れたもののボールペンの行方が気になって仕方がない。
たかがボールペン、されどボールペン。
長年手に馴染んでいたソレは今となっては貴重で、手に入らないものだった。
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