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【spin-off】bittersweet first love
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「...学歴ロンダリング、か。馬鹿馬鹿しい」
梶さんと別れた後、進路を閉ざしてくれた言葉を自分で呟き、自然と笑いがこみ上げる。これで進路において2度目の挫折を味わったわけだが、大学受験の時と違い、前向きに思考が働く。1度目の挫折の時には、それなりに人知れず落ち込んだ。だが、今回は高澤との別離という大学受験失敗の時より、苦くて辛い経験を経ているせいか、心のダメージは少ない。
...組織に組み込まれた後では身動き取れなかっただろうし。
高澤と別れた後、自暴自棄になり、マイナスの感情を引きずって行くことは自分にとっていかに無駄な時間かという事を身を以て知っていた俺は、梶さんの忠告は好意的に受け止めている。
...就職、考えないとな。
この切り替えの早さも、あの時に身につけた。どんな些細なものでもチャンスは逃すまいという貪欲さも。だから、俺には梶さんの2つの言葉を肝に銘じていた。
『学閥』と『もっと広い世界』
この2つの言葉を自分なりに昇華してゆく。そのおかげで閉鎖的な大学組織の中で生きていくことよりも、学閥とやらを逆に利用し、海外で働くという選択肢を見据えた。
一方、梶さんの方は俺に進学を断念させてしまった負い目があるようで、俺の就職先には非常に心を砕いてくれ、当時、就職氷河期にもかかわらず、教授推薦の枠がもらえ、簡単に内定を勝ち取った。それに何度も俺の存在を惜しんでくれた梶さんに心を救われた。この人に認められたという誇りが進学を挫折しても腐らなかった理由の一つだ。就職先が決まっても、何かあったら今後も相談に乗るよと渡されたプライベートの連絡先は何年経っても後生大事に持ち続けた。そのくらい、ここで彼に出会えた事が大きな財産になっていた。今度会う時、梶さんはもっと手の届かない存在になっているのは明白で、もしかしたらもう会う機会はないかもと京都を離れる時は彼との別れを惜しんだ。
そんな彼から推薦された会社は、偶然にも田山が就職していた会社だった。気心が知れた人間がいるのは梶さんの配慮だったのかは、今となっては分からない。だが、対して気を負わずに入社出来たことは田山の存在が大きかった。
入社の一報を入れた田山は自分のことのように喜んでくれ、大学院を卒業後、入社までに実家で暇を持て余していた俺に就職祝いの席を設けてくれた。ちゃんと吉岡にも声をかけて。そして、田山の選ぶ店はなかなか良い店が多い。流石、名の知れた企業の営業職は違うといつも感心したものだ。
今夜、田山たちと待ち合わせたのは場末のバー。隠れ家のような扉を開けると、何度か来たことがあった為か、バーテンダーには顔が知れていた。
「いらっしゃいませ、お連れ様がお待ちですよ」
促されて中央より少し外れたテーブル席を見ると田山と吉岡が既に来ている。通り際にカウンターでビールを注文すると、席に着くなり、五分も経たないうちにビールと乾き物がテーブルに置かれた。
「...では、改めまして。藤澤の就職を祝ってカンパーイ」
むかし通っていた居酒屋とは数段おしゃれさが上の店だったので、発声の田山の声は小さく、俺たちも小さくグラスを傾ける。
「わざわざどーも」
駆けつけ1杯ならぬ、一口。都合が合わずこんな風に3人で会うのは数ヶ月ぶりだが、気心知れた仲間なのでタイムラグはさして気にならない。
梶さんと別れた後、進路を閉ざしてくれた言葉を自分で呟き、自然と笑いがこみ上げる。これで進路において2度目の挫折を味わったわけだが、大学受験の時と違い、前向きに思考が働く。1度目の挫折の時には、それなりに人知れず落ち込んだ。だが、今回は高澤との別離という大学受験失敗の時より、苦くて辛い経験を経ているせいか、心のダメージは少ない。
...組織に組み込まれた後では身動き取れなかっただろうし。
高澤と別れた後、自暴自棄になり、マイナスの感情を引きずって行くことは自分にとっていかに無駄な時間かという事を身を以て知っていた俺は、梶さんの忠告は好意的に受け止めている。
...就職、考えないとな。
この切り替えの早さも、あの時に身につけた。どんな些細なものでもチャンスは逃すまいという貪欲さも。だから、俺には梶さんの2つの言葉を肝に銘じていた。
『学閥』と『もっと広い世界』
この2つの言葉を自分なりに昇華してゆく。そのおかげで閉鎖的な大学組織の中で生きていくことよりも、学閥とやらを逆に利用し、海外で働くという選択肢を見据えた。
一方、梶さんの方は俺に進学を断念させてしまった負い目があるようで、俺の就職先には非常に心を砕いてくれ、当時、就職氷河期にもかかわらず、教授推薦の枠がもらえ、簡単に内定を勝ち取った。それに何度も俺の存在を惜しんでくれた梶さんに心を救われた。この人に認められたという誇りが進学を挫折しても腐らなかった理由の一つだ。就職先が決まっても、何かあったら今後も相談に乗るよと渡されたプライベートの連絡先は何年経っても後生大事に持ち続けた。そのくらい、ここで彼に出会えた事が大きな財産になっていた。今度会う時、梶さんはもっと手の届かない存在になっているのは明白で、もしかしたらもう会う機会はないかもと京都を離れる時は彼との別れを惜しんだ。
そんな彼から推薦された会社は、偶然にも田山が就職していた会社だった。気心が知れた人間がいるのは梶さんの配慮だったのかは、今となっては分からない。だが、対して気を負わずに入社出来たことは田山の存在が大きかった。
入社の一報を入れた田山は自分のことのように喜んでくれ、大学院を卒業後、入社までに実家で暇を持て余していた俺に就職祝いの席を設けてくれた。ちゃんと吉岡にも声をかけて。そして、田山の選ぶ店はなかなか良い店が多い。流石、名の知れた企業の営業職は違うといつも感心したものだ。
今夜、田山たちと待ち合わせたのは場末のバー。隠れ家のような扉を開けると、何度か来たことがあった為か、バーテンダーには顔が知れていた。
「いらっしゃいませ、お連れ様がお待ちですよ」
促されて中央より少し外れたテーブル席を見ると田山と吉岡が既に来ている。通り際にカウンターでビールを注文すると、席に着くなり、五分も経たないうちにビールと乾き物がテーブルに置かれた。
「...では、改めまして。藤澤の就職を祝ってカンパーイ」
むかし通っていた居酒屋とは数段おしゃれさが上の店だったので、発声の田山の声は小さく、俺たちも小さくグラスを傾ける。
「わざわざどーも」
駆けつけ1杯ならぬ、一口。都合が合わずこんな風に3人で会うのは数ヶ月ぶりだが、気心知れた仲間なのでタイムラグはさして気にならない。
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