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【spin-off】bittersweet first love
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「藤澤君って博士とるん?それでウチに残るって教授に聞いたんやけど」
俺は現在、修士過程。そのままここで継続して博士を取り、その後任期付き研究員として残ろうと思っていた。そうすればここでの教員の道が開かれるだろうし、目の前の梶さんもその道を辿り、今の地位にいると聞いている。
「はい、できたらここに残って梶さんの下で学びたいです。確かに倍率は厳しいとは思いますが...」
ここの大学院に入学した時は教授に心酔していた俺も梶さんと出会い、考えが一変した。殆ど接点のない教授よりも、彼の下で学ぶ事が数倍も俺にとっては有益なものだったからだ。あくまでもここの責任者は教授なので、先日進路の事を聞かれて、ここの教員希望だと言うことは話しておいた。それを知った梶さんが確認の意味で直接尋ねてきたと思われたのだが。
「...うん、それは全然悪くはない進路やと思うし、藤澤君が残ってくるのは俺としては嬉しい限りやけどな」
いつもはっきり白か黒かいう物言いが歯切れ悪い。梶さんらしくないと思った。
「けど、とは?」
「うーん、それなんやけどな...」
他愛のない話をしている時と違い、梶さんの表情が少し険しい。
...募集人員が少ないのだろうか?
彼の浮かない表情からあまり風向きがいいものではないと読み取れた。
「どうしたんですか?梶さんらしくないですよ。何か俺に不利な事が有れば教えてください。教えてもらえる範囲で構いませんから」
教えて貰えばこちらも努力のしようがあるものというもの。この大学に残りたかった俺は、彼からの助言、或いは苦言をどんな些細な事でもうけいれようと思っていた。だが、それは思っていた以上に厳しいものだった。
「ほな、はっきり言うわ。藤澤君はうちに残るのはやめた方がええ」
「...はい?何の冗談ですか?」
本当に冗談かと思った。だか、梶さんの顔が笑っておらず、寧ろその真剣な眼差しに冗談ではないと悟る。
「俺、もしかして気がつかないうちに何かしでかしましたか?」
「...いや、藤澤君が悪いわけや無いよ。ただ、ここの大学のカラーに合わないというか、多分、残っていくとしたら藤澤君にとってデメリットでしかない」
...デメリット?
己が希望している進学、就職先にデメリットが生じるなんて事があるのだろうか?それは自分が望まない場合の話ではとないだろうか?
きっと梶さんは何かを勘違いしているのだろうと、自分の中で無理矢理結論づけたのだが。
「...変なこと言うけどな。藤澤君って外様やろ?」
...トザマ?トザマって何だ??
聞き慣れない言葉が頭の中を駆け巡り、その間、困惑が顔に出ていたらしい。梶さんはプッと小さく吹き出した。
「ごめん、ごめん。藤澤君は帰国子女やったもんな。ちょい、表現が古かったわ。わかりやすく言うとな、君はうちの叩き上げやないやろ?藤澤君は他大学出身だけど、最終学歴はうちの大学になるんや。そういう、いわゆる学歴ロンダリングってやつをうちの頭のかたーいお偉いさんは嫌うって事や」
学歴ロンダリング、程度のあまり良くない大学を卒業したのち、格上の大学院に進学する。大学院は大学入試よりは容易く、最終学歴は格上の大学院卒に上書きされるという事を揶揄した単語だとは理解していたのだが、自分がまさにそれを狙ってうちの大学院に進学したと思われたとは。
だが、実際に第三者から見れば俺の進学方法は、同じ穴のムジナにしか見えない。どんなに言葉を尽くしてそんなつもりはなかったと弁明しても、梶さんが話している頭のかたい教授達には通用しそうにないというのは梶さんの様子を見て分かった。
「俺はそんなつもりじゃ...本当にここで学びたくて」
「...うん、藤澤君はそうやろな。でも、ここの連中は上辺で判断する人間ばかりや。だから、こんな閉鎖的な場所より、もっともっと広い世界の方が君にはきっと合ってると思う」
コーヒーを飲み干した彼の苦い顔と言葉の一つ一つが、心の中に重くのし掛かってゆく。その中で「残念だ、勿体ない」と何度も言ってくれる彼の言葉で少し救われた俺は、笑顔を顔に貼り付け、
「...ご忠告、ありがとうございました」
頭を下げながら、拳を小さく握り締める事しかできなかった。
そして、この日の悔しい思いと大学への失望感から素直に彼の進言を受け入れ、博士課程に進む事を諦めた。
俺は現在、修士過程。そのままここで継続して博士を取り、その後任期付き研究員として残ろうと思っていた。そうすればここでの教員の道が開かれるだろうし、目の前の梶さんもその道を辿り、今の地位にいると聞いている。
「はい、できたらここに残って梶さんの下で学びたいです。確かに倍率は厳しいとは思いますが...」
ここの大学院に入学した時は教授に心酔していた俺も梶さんと出会い、考えが一変した。殆ど接点のない教授よりも、彼の下で学ぶ事が数倍も俺にとっては有益なものだったからだ。あくまでもここの責任者は教授なので、先日進路の事を聞かれて、ここの教員希望だと言うことは話しておいた。それを知った梶さんが確認の意味で直接尋ねてきたと思われたのだが。
「...うん、それは全然悪くはない進路やと思うし、藤澤君が残ってくるのは俺としては嬉しい限りやけどな」
いつもはっきり白か黒かいう物言いが歯切れ悪い。梶さんらしくないと思った。
「けど、とは?」
「うーん、それなんやけどな...」
他愛のない話をしている時と違い、梶さんの表情が少し険しい。
...募集人員が少ないのだろうか?
彼の浮かない表情からあまり風向きがいいものではないと読み取れた。
「どうしたんですか?梶さんらしくないですよ。何か俺に不利な事が有れば教えてください。教えてもらえる範囲で構いませんから」
教えて貰えばこちらも努力のしようがあるものというもの。この大学に残りたかった俺は、彼からの助言、或いは苦言をどんな些細な事でもうけいれようと思っていた。だが、それは思っていた以上に厳しいものだった。
「ほな、はっきり言うわ。藤澤君はうちに残るのはやめた方がええ」
「...はい?何の冗談ですか?」
本当に冗談かと思った。だか、梶さんの顔が笑っておらず、寧ろその真剣な眼差しに冗談ではないと悟る。
「俺、もしかして気がつかないうちに何かしでかしましたか?」
「...いや、藤澤君が悪いわけや無いよ。ただ、ここの大学のカラーに合わないというか、多分、残っていくとしたら藤澤君にとってデメリットでしかない」
...デメリット?
己が希望している進学、就職先にデメリットが生じるなんて事があるのだろうか?それは自分が望まない場合の話ではとないだろうか?
きっと梶さんは何かを勘違いしているのだろうと、自分の中で無理矢理結論づけたのだが。
「...変なこと言うけどな。藤澤君って外様やろ?」
...トザマ?トザマって何だ??
聞き慣れない言葉が頭の中を駆け巡り、その間、困惑が顔に出ていたらしい。梶さんはプッと小さく吹き出した。
「ごめん、ごめん。藤澤君は帰国子女やったもんな。ちょい、表現が古かったわ。わかりやすく言うとな、君はうちの叩き上げやないやろ?藤澤君は他大学出身だけど、最終学歴はうちの大学になるんや。そういう、いわゆる学歴ロンダリングってやつをうちの頭のかたーいお偉いさんは嫌うって事や」
学歴ロンダリング、程度のあまり良くない大学を卒業したのち、格上の大学院に進学する。大学院は大学入試よりは容易く、最終学歴は格上の大学院卒に上書きされるという事を揶揄した単語だとは理解していたのだが、自分がまさにそれを狙ってうちの大学院に進学したと思われたとは。
だが、実際に第三者から見れば俺の進学方法は、同じ穴のムジナにしか見えない。どんなに言葉を尽くしてそんなつもりはなかったと弁明しても、梶さんが話している頭のかたい教授達には通用しそうにないというのは梶さんの様子を見て分かった。
「俺はそんなつもりじゃ...本当にここで学びたくて」
「...うん、藤澤君はそうやろな。でも、ここの連中は上辺で判断する人間ばかりや。だから、こんな閉鎖的な場所より、もっともっと広い世界の方が君にはきっと合ってると思う」
コーヒーを飲み干した彼の苦い顔と言葉の一つ一つが、心の中に重くのし掛かってゆく。その中で「残念だ、勿体ない」と何度も言ってくれる彼の言葉で少し救われた俺は、笑顔を顔に貼り付け、
「...ご忠告、ありがとうございました」
頭を下げながら、拳を小さく握り締める事しかできなかった。
そして、この日の悔しい思いと大学への失望感から素直に彼の進言を受け入れ、博士課程に進む事を諦めた。
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