社内恋愛はじめました。

柊 いつき

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【spin-off】bittersweet first love

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それからというもの、女性に対しては来る者を拒まず、去る者は追わず。こんなスタンスだから、誰と付き合っても長続きはせず、耳のピアスが身体に馴染む頃には、女性にだらしないという形容詞がつくまでになる。田山と吉岡は呆れつつも友人付き合いをしてくれたおかげで、誰に何を言われても気にしないで学生生活を送れた。

だが、ある些細なきっかけでそんな自堕落な生活が不毛だと気がつく。

1つは女性関係で、田山の妹と付き合った事だ。昔から憧れていたと聞かされ、ちょうど決まった相手がいなかった俺は彼女を受け入れ付き合いを始めたのだが、指一本触れられず。「私のことなんて全然好きじゃないんでしょ?立ちゃんには他に好きな人がいるのね?」と泣きながら、別れの言葉を言われる。

もう一つは、大事な授業の単位を一つ落としそうになった事だ。何とか挽回したが、親の力で進学させてもらっている身分を考えれば、学業を疎かにできなかった。

これらがきっかけで、自堕落な学生生活に別れを告げることを決心し、サークルを辞める。この時、サーフィンはやめられなかったものの、以前のようにバイト、勉強、たまにサーフィンという地味な学生生活にもどった。

そして、大学3年になり、俺たちの目下の関心ごとは異性関係よりも就職活動へとシフトしてゆく。

今日も学部の違う俺たちがたまたま学食で顔を付き合せ、食後の話題はもちろん就職先の事。

四年生になって決めるのは遅い!と好きなデザートのプリンもそこそこに田山が力説する。最近の彼の愛読書は、赤本ならぬ業界地図。その意気込みは本に付けてあるたくさんの付箋に表れていた。

その勢いに押され、悠然と構えていた吉岡も焦ったらしく、大まかな業界は決めたようだった。

「俺さあ、できたらココとココあたりを受けるわ」

吉岡が田山の愛読書から指し示した会社は商社の2つ。学部から言えば順当な選択だ。田山はというと。

「...俺はねえ、ここ。サークル先輩がOBっぽくって、うちの大学からは結構行ってるって話」

「へぇー、メーカー?でも、前はコンサルっていってなかったっけ?」

彼は経営学に興味を持っているので、その進路先は想像つかなかった。

「ふーん」

俺と吉岡はその方面には疎いので関心示さなかったのが、田山には不服だったらしい。仕事ってのは学閥が大事なんだよと、したり顔で語っていた。

...結構、就活って奥が深い。

そんな的外れな事を考え、興味深く2人の話の聞き役に徹する。すると、自分の事を話そうとしない俺を吉岡が無理やり引っ張り出した。

「で、藤澤はどうなん?お前は語学できるし、俺と同じ商社か?」

「...商社ねぇ」

はっきりと言わずに口を濁すと、何故か田山が俺の代わりに答えた。

「藤澤は商社なんて無理無理。第一、こいつは『名前覚えられない症候群』じゃん!」

「あ、そっか。じゃ、営業なんかとても無理だわ」

勝手に聞いておいて、勝手に納得されるなんてなんで理不尽。ただ、この件に関してだけはどうも分が悪い。田山の言う病名は実際には存在しないだろうが、『名前覚えられない症候群』はなかなか上手い事を言っていると思う。俺は興味がない人間の名前は殆ど覚えられなかった。逆に言えば興味が有れば覚えると言う事になるが、興味のある人間が少ないので、相対的に覚えられないということになる。

そんな言い訳をしても論破されそうなので、自分に不利な話題を変えるために、持参してきたノートパソコンを開く。

「...田山のとこ、研究職募集してる」

「へぇ、じゃあ藤澤は俺と同じとこくればいいじゃん。業界では大きいほうだし。どれどれ...」

田山が俺のノートパソコンの画面を嬉々としてを覗き見るが。

「あ、だめじゃん。からだ」

そうなのだ。研究職というものは院卒条件が多い。俺はその事を知っていたので、2人みたいな就職は決めかねていた。

「...まあ、殆どの研究職は院卒だから俺も院には行くけど、行きたいのはうちの大学じゃない」

大学受験の時に師事しようとした大学の教授が京都にいると風の便りで聞いていた。だから、また、そちらの方へ行こうかと考えていたのだ。

「え?」

「マジか?」

初めて聞く俺の進路先に2人は目をまん丸くして驚くが、流石、悪友。どうでもいい事が気になるらしい。

「...それにしてもどんだけその教授が好きなのさ?」

「は?」

「そうそう。お前はホモなのか?」

「おいっ!?俺は純粋に教えを乞いにだなぁ...」

そこで田山が妙な合いの手を叩いた。

「あ、分かった!藤澤はその人のストーカーだ!!」

「お前らなぁ...」


口々に悪態をつく2人。彼らともうすぐお別れなのは少し寂しいが仕方ない。否定するのは億劫なので好き勝手に言わせておく。

...ここには嫌な想い出があるしな。

多少なりとも不純な動機が含まれていた事は、自分の胸の中に留めた。










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