184 / 199
【spin-off】bittersweet first love
24
しおりを挟む
それから2人で二度寝してしまい、本格的に目覚めたのはお昼過ぎ。長時間寝ない事が当たり前な日常の中でかなりレアな出来事だ。
...あー、寝たな。
そのわりには気持ちが充実して身体が軽い。すっきりした頭で上半身を起こすと隣で寝ていた高澤も少し覚醒しつつあったが、まだ寝ぼけているようにも見えた。
...まだ寝てる。(笑)
いつもしっかりしているように見えて、家族にしか見せないであろう素の高澤の意外な一面を垣間見た。こんな彼女はもしかしたら家族以外は俺だけしか知らないかもしれないと思うと、自然と口元が緩む。そして、上機嫌のまま、もう少しだけ寝かせてやるかと忍び足でベッドからおり、昨夜脱ぎ散らかした自分の衣類を洗濯カゴへ放り込み、シャツとジーンズに着替える。ついでに顔を洗って戻ってくると、高澤はすでに起きており、俺に背を向けた形でワンピースのファスナーを上げているところだった。だが、なかなか後ろ手がファスナーに届かないらしく苦戦している。悪戯心が芽生えた俺は背後から近づき彼女の指先より的確にファスナーをつまみあげる。
「きゃっ?やだ、なに??」
背後の気配に全く気がつかなかった高澤は、なんとも可愛らしい悲鳴を小さく上げ、こちらを振り返ろうとした。俺はそれを制止するかのように後ろから抱きしめる。
衣服の上からでも感じる彼女の柔らかさ。その白い首筋には昨夜の事が決して夢ではないという印が赤く存在しているのを知っていた俺は、その場所にもう一度軽く口づける。
「ん...、なに...?」
こんなありふれた言葉も、今はくすぐったいような甘い空気を纏う。これは2人の関係性が明らかに変化した証拠で彼女も俺と同じ感情で接してくれている事が嬉しかった。
「...身体、辛くないか?」
女性の初めては多少なりとも苦痛が伴うらしい。その原因が自分だと思うと先ほどまでの浮かれ気分が瞬く間に、彼女の心配へとスライドする。それを肌で感じ取った彼女は回された腕をゆっくりとほどき、振り返りながら。
「....大丈夫だから。それより...」
藤澤と一緒にいられたのが嬉しいと、はにかむような笑顔で返された。その愛らしい唇に吸い寄せられるように、自分の唇を重ねてしまう。本当だったらもう少し一緒にいたいと言いたかったのだが、明日は月曜日。彼女の学校はカリキュラムがびっしりと詰まっているらしいと、世間話程度に聞いて覚えていた俺は引き止める事ができなかった。ただ、腰に手を回し、軽い口づけを数回繰り返してゆく。だが、昨日まで友人であった俺が、こんなに下手な恋人のような真似をする事に高澤は少し戸惑いを見せた。
「ちょっ...藤澤、やめっ...」
小さく口元に笑みを浮かべていたので本気で嫌がっているわけではないと思われたが、嫌われたら困ると唇は離したものの、腰に回した腕は外せない。自分でもまさかこんな説明のつかない感情があるなんてと、彼女と離れがたい気持ちを持て余してしまう。
普段と違う自分に己ですら不思議なのだから、当然、高澤も?と、彼女の言動の1つ1つが気になっている。また、彼女と会えなくなるのではないかという不安が頭をもたげたていたからだ。それだけ今の俺たちの関係は危ういもの。男女として培ってきたものが1つもない。
「...こんな俺は嫌か?」
顔が緊張で強ばり、自信がないから自然と口に出る。その言葉で、高澤は大きな黒い瞳を細めた。
「ううん、全然。ただ、いつもと違う藤澤に驚いただけ」
「...そうか?」
心なしホッとした俺に高澤も安心しただろう。口が滑らかになり...。
「そうだよ。いつも喜怒哀楽をあまり出さない藤澤が豹変するんだもん。実は藤澤って付き合うとこんなに感情豊かになるんだ?もしかして、奈々ちゃんにも...」
倉科の名前が唐突に出て、今までの緩やかな雰囲気がピシッと崩れる。昨日再会した時から彼女の名前は2人の間で暗黙の了解のうちに禁句になっていたからだ。その禁を破った高澤はとてもすまなそうにしていた。
「...ごめん、こんな時に」
「いや、いいよ。元はと言えば俺が悪い。倉科の事は俺の責任だから、ちゃんとする。だから、高澤には待っていてほしい」
「うん...」
自分でも都合の良い事だという事は分かっていたが、今は彼女を繋ぎ止めることしか考えられなかった。
俺は少し気まずい雰囲気ながらも、帰ろうとする彼女から強引に連絡先を交換し、玄関ドアを開け、空を見上げる。先程まで晴天だったはずの空は、曇天となっており、今にも雨が降りそうだ。
「また、雨が降られると困るからこの傘貸して」
高澤は昨夜コンビニで買ったビニール傘に目をつけ、それを手に取る。俺はついでだからと最寄り駅まで彼女を送る事に。
「...藤澤が帰る時に雨降らないといいね」
「大丈夫だろ、うち近いし...」
さりげなく高澤の手に触れようとして、躊躇う。昨夜は道すがらずっと手を繋いでいたが、こんな関係になってしまった今、指一本、触れる事が許されない気がしていた。
...あー、寝たな。
そのわりには気持ちが充実して身体が軽い。すっきりした頭で上半身を起こすと隣で寝ていた高澤も少し覚醒しつつあったが、まだ寝ぼけているようにも見えた。
...まだ寝てる。(笑)
いつもしっかりしているように見えて、家族にしか見せないであろう素の高澤の意外な一面を垣間見た。こんな彼女はもしかしたら家族以外は俺だけしか知らないかもしれないと思うと、自然と口元が緩む。そして、上機嫌のまま、もう少しだけ寝かせてやるかと忍び足でベッドからおり、昨夜脱ぎ散らかした自分の衣類を洗濯カゴへ放り込み、シャツとジーンズに着替える。ついでに顔を洗って戻ってくると、高澤はすでに起きており、俺に背を向けた形でワンピースのファスナーを上げているところだった。だが、なかなか後ろ手がファスナーに届かないらしく苦戦している。悪戯心が芽生えた俺は背後から近づき彼女の指先より的確にファスナーをつまみあげる。
「きゃっ?やだ、なに??」
背後の気配に全く気がつかなかった高澤は、なんとも可愛らしい悲鳴を小さく上げ、こちらを振り返ろうとした。俺はそれを制止するかのように後ろから抱きしめる。
衣服の上からでも感じる彼女の柔らかさ。その白い首筋には昨夜の事が決して夢ではないという印が赤く存在しているのを知っていた俺は、その場所にもう一度軽く口づける。
「ん...、なに...?」
こんなありふれた言葉も、今はくすぐったいような甘い空気を纏う。これは2人の関係性が明らかに変化した証拠で彼女も俺と同じ感情で接してくれている事が嬉しかった。
「...身体、辛くないか?」
女性の初めては多少なりとも苦痛が伴うらしい。その原因が自分だと思うと先ほどまでの浮かれ気分が瞬く間に、彼女の心配へとスライドする。それを肌で感じ取った彼女は回された腕をゆっくりとほどき、振り返りながら。
「....大丈夫だから。それより...」
藤澤と一緒にいられたのが嬉しいと、はにかむような笑顔で返された。その愛らしい唇に吸い寄せられるように、自分の唇を重ねてしまう。本当だったらもう少し一緒にいたいと言いたかったのだが、明日は月曜日。彼女の学校はカリキュラムがびっしりと詰まっているらしいと、世間話程度に聞いて覚えていた俺は引き止める事ができなかった。ただ、腰に手を回し、軽い口づけを数回繰り返してゆく。だが、昨日まで友人であった俺が、こんなに下手な恋人のような真似をする事に高澤は少し戸惑いを見せた。
「ちょっ...藤澤、やめっ...」
小さく口元に笑みを浮かべていたので本気で嫌がっているわけではないと思われたが、嫌われたら困ると唇は離したものの、腰に回した腕は外せない。自分でもまさかこんな説明のつかない感情があるなんてと、彼女と離れがたい気持ちを持て余してしまう。
普段と違う自分に己ですら不思議なのだから、当然、高澤も?と、彼女の言動の1つ1つが気になっている。また、彼女と会えなくなるのではないかという不安が頭をもたげたていたからだ。それだけ今の俺たちの関係は危ういもの。男女として培ってきたものが1つもない。
「...こんな俺は嫌か?」
顔が緊張で強ばり、自信がないから自然と口に出る。その言葉で、高澤は大きな黒い瞳を細めた。
「ううん、全然。ただ、いつもと違う藤澤に驚いただけ」
「...そうか?」
心なしホッとした俺に高澤も安心しただろう。口が滑らかになり...。
「そうだよ。いつも喜怒哀楽をあまり出さない藤澤が豹変するんだもん。実は藤澤って付き合うとこんなに感情豊かになるんだ?もしかして、奈々ちゃんにも...」
倉科の名前が唐突に出て、今までの緩やかな雰囲気がピシッと崩れる。昨日再会した時から彼女の名前は2人の間で暗黙の了解のうちに禁句になっていたからだ。その禁を破った高澤はとてもすまなそうにしていた。
「...ごめん、こんな時に」
「いや、いいよ。元はと言えば俺が悪い。倉科の事は俺の責任だから、ちゃんとする。だから、高澤には待っていてほしい」
「うん...」
自分でも都合の良い事だという事は分かっていたが、今は彼女を繋ぎ止めることしか考えられなかった。
俺は少し気まずい雰囲気ながらも、帰ろうとする彼女から強引に連絡先を交換し、玄関ドアを開け、空を見上げる。先程まで晴天だったはずの空は、曇天となっており、今にも雨が降りそうだ。
「また、雨が降られると困るからこの傘貸して」
高澤は昨夜コンビニで買ったビニール傘に目をつけ、それを手に取る。俺はついでだからと最寄り駅まで彼女を送る事に。
「...藤澤が帰る時に雨降らないといいね」
「大丈夫だろ、うち近いし...」
さりげなく高澤の手に触れようとして、躊躇う。昨夜は道すがらずっと手を繋いでいたが、こんな関係になってしまった今、指一本、触れる事が許されない気がしていた。
0
お気に入りに追加
1,079
あなたにおすすめの小説

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

社長室の蜜月
ゆる
恋愛
内容紹介:
若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。
一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。
仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。
デキナイ私たちの秘密な関係
美並ナナ
恋愛
可愛い容姿と大きな胸ゆえに
近寄ってくる男性は多いものの、
あるトラウマから恋愛をするのが億劫で
彼氏を作りたくない志穂。
一方で、恋愛への憧れはあり、
仲の良い同期カップルを見るたびに
「私もイチャイチャしたい……!」
という欲求を募らせる日々。
そんなある日、ひょんなことから
志穂はイケメン上司・速水課長の
ヒミツを知ってしまう。
それをキッカケに2人は
イチャイチャするだけの関係になってーー⁉︎
※性描写がありますので苦手な方はご注意ください。
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
※この作品はエブリスタ様にも掲載しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる