181 / 199
【spin-off】bittersweet first love
21
しおりを挟む
自分の腕の中の高澤の温もりが嬉しくて、なかなか開放してあげられなかった。それどころか、ますます想いは募るばかり。
...これが、落ちる?
ふと誰かに言われた「恋はするものではなく、落ちるもの」という言葉を思い出す。その感覚を自覚してしまうと、無意識に腕に力が入ってしまったらしい。ずっと無言で俺の腕の中にいた高澤の身体がみじろぎ、呻き声が聞こえる。
「...ふじ、さ、わ、くる...し」
咄嗟に慌てて腕の力を抜くと、するりと彼女の身体が俺から少しだけ離れてしまう。その距離感が先程までの気持ちの昂りを冷却し、どうしよもない照れを生み出した。
「あ、悪い...」
「...ううん、気にしないで」
こんなやり取りでさえ、なんだか、こそばゆくて気まずさを覚える。実際、女性とこんな雰囲気になった場面はいくらでもあったが、ここまで場の雰囲気が読めないことは初めてだった。いつもなら、阿吽の呼吸でなし崩しに一夜を共にする事は俺にとっては造作もない事で躊躇はしないだろう。ただ、今夜の俺はそんな風になるわけがないと薄々感じている。相手が高澤だというだけで、こんなに調子が狂うものかと初めての体験に戸惑っていたからだ。
彼女はというと、帰る素振りも見せずにじっと俺の顔を見つめ続けている。こちらの出方を待っているようにも見えた。
...このまま、彼女と別れてしまっていいのだろうか?
今の俺たちは曖昧で刹那的で、確固たるものがなにもないに等しい。その真実が俺にやり切れない気持ちを持たせた。だが、初めて誰かを好きになった弊害なのか、行動が雁字搦めになり、ギクシャクしてしまう。相手が高澤だとここまでスマートにできないものかと考えあぐねていると、空から何かが落ちてきた。
「...雨?」
2人でほぼ同時に上を向き気がつくと、ポツリポツリと落ちてきた点の雨は、やがて線になり激しさをましてゆく。
「マズイ、走るぞ!」
傘を持っていない俺たちは慌てて花火の後片付けもそこそこに手に手を取り合い、駅へと走る。そして、駅に着いた頃には、本降りの雨模様。幸い、タイミングがよかったのか、殆ど濡れずに駅舎に雨宿りできた。
「...今日は雨なんて降る予報じゃなかったのに」
「まあ、天気予報だって外れることはあるさ」
まるで、先ほどまでの熱量が嘘みたいにいつもの口調に戻り、恨めしげに空を見上げる。ただ、どちらからともなく繋がれた手は離せずにいた。俺は彼女から離したら離そうと思いながらも。
...このまま、帰したくないな。
建前と本音のせめぎあいで、絡める指に変な力が入らないように最新の注意を払う。どう、伝えたら彼女を繋ぎ止められるかとらしくない事を思い、言葉少なになってしまった俺の手が他者の力でピクリと動いた。
「...どうした?」
呼ばれたと思い、高澤の反応で我に帰ると、彼女は俯いてこちらを見ていない。でも、俺にしか聞こえない小さな声が聞こえた。
「雨が止むまで一緒にいて?」
疑問系であったのは、彼女の自身もそこまで言うことに躊躇いがあったのだろう。その奥ゆかしさに高澤の新たな一面を垣間見れて嬉しくもあり、ますます落ちてゆく。
Down, down, down.
はなれたくない。
はなしたくない。
この願いに、嘘はなかった。
...これが、落ちる?
ふと誰かに言われた「恋はするものではなく、落ちるもの」という言葉を思い出す。その感覚を自覚してしまうと、無意識に腕に力が入ってしまったらしい。ずっと無言で俺の腕の中にいた高澤の身体がみじろぎ、呻き声が聞こえる。
「...ふじ、さ、わ、くる...し」
咄嗟に慌てて腕の力を抜くと、するりと彼女の身体が俺から少しだけ離れてしまう。その距離感が先程までの気持ちの昂りを冷却し、どうしよもない照れを生み出した。
「あ、悪い...」
「...ううん、気にしないで」
こんなやり取りでさえ、なんだか、こそばゆくて気まずさを覚える。実際、女性とこんな雰囲気になった場面はいくらでもあったが、ここまで場の雰囲気が読めないことは初めてだった。いつもなら、阿吽の呼吸でなし崩しに一夜を共にする事は俺にとっては造作もない事で躊躇はしないだろう。ただ、今夜の俺はそんな風になるわけがないと薄々感じている。相手が高澤だというだけで、こんなに調子が狂うものかと初めての体験に戸惑っていたからだ。
彼女はというと、帰る素振りも見せずにじっと俺の顔を見つめ続けている。こちらの出方を待っているようにも見えた。
...このまま、彼女と別れてしまっていいのだろうか?
今の俺たちは曖昧で刹那的で、確固たるものがなにもないに等しい。その真実が俺にやり切れない気持ちを持たせた。だが、初めて誰かを好きになった弊害なのか、行動が雁字搦めになり、ギクシャクしてしまう。相手が高澤だとここまでスマートにできないものかと考えあぐねていると、空から何かが落ちてきた。
「...雨?」
2人でほぼ同時に上を向き気がつくと、ポツリポツリと落ちてきた点の雨は、やがて線になり激しさをましてゆく。
「マズイ、走るぞ!」
傘を持っていない俺たちは慌てて花火の後片付けもそこそこに手に手を取り合い、駅へと走る。そして、駅に着いた頃には、本降りの雨模様。幸い、タイミングがよかったのか、殆ど濡れずに駅舎に雨宿りできた。
「...今日は雨なんて降る予報じゃなかったのに」
「まあ、天気予報だって外れることはあるさ」
まるで、先ほどまでの熱量が嘘みたいにいつもの口調に戻り、恨めしげに空を見上げる。ただ、どちらからともなく繋がれた手は離せずにいた。俺は彼女から離したら離そうと思いながらも。
...このまま、帰したくないな。
建前と本音のせめぎあいで、絡める指に変な力が入らないように最新の注意を払う。どう、伝えたら彼女を繋ぎ止められるかとらしくない事を思い、言葉少なになってしまった俺の手が他者の力でピクリと動いた。
「...どうした?」
呼ばれたと思い、高澤の反応で我に帰ると、彼女は俯いてこちらを見ていない。でも、俺にしか聞こえない小さな声が聞こえた。
「雨が止むまで一緒にいて?」
疑問系であったのは、彼女の自身もそこまで言うことに躊躇いがあったのだろう。その奥ゆかしさに高澤の新たな一面を垣間見れて嬉しくもあり、ますます落ちてゆく。
Down, down, down.
はなれたくない。
はなしたくない。
この願いに、嘘はなかった。
0
お気に入りに追加
1,079
あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語
六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

美人な姉と『じゃない方』の私
LIN
恋愛
私には美人な姉がいる。優しくて自慢の姉だ。
そんな姉の事は大好きなのに、偶に嫌になってしまう時がある。
みんな姉を好きになる…
どうして私は『じゃない方』って呼ばれるの…?
私なんか、姉には遠く及ばない…

おじさんは予防線にはなりません
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「俺はただの……ただのおじさんだ」
それは、私を完全に拒絶する言葉でした――。
4月から私が派遣された職場はとてもキラキラしたところだったけれど。
女性ばかりでギスギスしていて、上司は影が薄くて頼りにならない。
「おじさんでよかったら、いつでも相談に乗るから」
そう声をかけてくれたおじさんは唯一、頼れそうでした。
でもまさか、この人を好きになるなんて思ってもなかった。
さらにおじさんは、私の気持ちを知って遠ざける。
だから私は、私に好意を持ってくれている宗正さんと偽装恋愛することにした。
……おじさんに、前と同じように笑いかけてほしくて。
羽坂詩乃
24歳、派遣社員
地味で堅実
真面目
一生懸命で応援してあげたくなる感じ
×
池松和佳
38歳、アパレル総合商社レディースファッション部係長
気配り上手でLF部の良心
怒ると怖い
黒ラブ系眼鏡男子
ただし、既婚
×
宗正大河
28歳、アパレル総合商社LF部主任
可愛いのは実は計算?
でももしかして根は真面目?
ミニチュアダックス系男子
選ぶのはもちろん大河?
それとも禁断の恋に手を出すの……?
******
表紙
巴世里様
Twitter@parsley0129
******
毎日20:10更新
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる