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【spin-off】bittersweet first love
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女生徒と教室で盛り上がっている田山たちに先に帰ると告げ、廊下をうろつくと屋上への入り口を見つけた。常識的に考えると部外者は立ち入り禁止な場所である。それを踏まえてドアノブに手をかけると施錠が掛かっていなかった。それはたまたまの事だと思われたが、1人になりたい俺にとっては好都合。誰に咎められるわけもなく、屋上へと続くドアを開けると頰にひんやりと冷たい空気が当たる。その冷たさに我に返った。
...何やってんだか。
屋上の手すりにもたれかかるようにその場にしゃがみこむと、はぁと小さなため息が漏れる。らしくない事をするものではないなとリュックからある物を取り出した。そして、今、左手の中にあるものはというと高澤の合格祈願のために手に入れた御守り。俺は自分の大学受験が終わった後、2人で行った神社に1人で訪れ、手に入れていたのだ。
田山や吉岡程親しければこのくらいの事はしていたかもしれないが、家族以外の異性にこんなに心を砕いた事は1度もなかった。
これが彼女に抱いた仲間意識というものだろうか?
思うままに左手の御守りに問うても、何も答えは出ずに寧ろ自分の行動の女々しさに呆れる。
「...戻るか」
渡す事さえ出来なかった御守りは縁起が悪い。後日処分しようとポケットにしまい、立ち上がりかけると、不意に誰かが屋上のドアを開けるのが見えた。遠目だか腕の腕章と制服姿で見回り巡回だろうと気づき、しらばっくれた方が良さそうだと気がつかなかったふりをする。
「すみません、道に迷ってしまって...」
「ここ、立ち入り禁止ですよ」
間髪入れず遠くで強めの注意を受けるが、それでも帰ろうとしないこちらの言う事が信用できないのか女生徒は近づいてくる。軽く注意だけだろうとタカを括っていたが、ここで揉めても仕方ないとリュックを背負い直し、帰ろうとするとお互いの顔が初めて直視された。その探していた顔に安堵するが会えた事に素直に喜べず、以前みたいな憎まれ口を叩いた。
「...なんだ、高澤かよ」
「なんだとは失礼ね。っていうか、藤澤がうちの文化祭に来るなんてどういう風の吹き回し?」
「どうって...」
わざわざ高澤に会いに来たなんて事を絶対言いたくない俺は。
「田山の付き添い。彼女を作る絶好のチャンスだしな」
心にもない苦し紛れの言い訳で核心から逃れようとすると、その言い訳を鵜呑みにした高澤の顔が少し顔を曇らせたかのように見えた。
「気分でも悪いのか?」
「...ううん、別に。それより、ここは立ち入り禁止!」
彼女は委員の仕事をこなそうとして、強い口調で言い放ち、俺を屋上から追い出しにかかる。あれだけ人の事を無視したのに一言もはないのかと喉まで出かかったが、文句を言う為にこんな所まで来たわけではない。渡すものがあってきたのだとポケットを探し、先ほど渡す事を諦めかけた御守りを高澤に。
「...ちょうどよかった。やるよ、これ。もう俺には必要ないから」
「あ、ありがとう...」
わざとぶっきらぼうに渡したのは一種の照れ隠し。それを受け取った彼女はさっきまでの威勢は何処へやら、両手で大事そうに包み込み無言で御守りを眺める。その間、言葉を発しない彼女が気になり、つい口を開いてしまった。
「...余計な事したか?」
その問いに頭を横に振り「違う」と意思表示する彼女は俯き加減で、こちらからは表情が分からない。表情を伺うように覗き込むと、どういう訳か瞳が潤んでいる。
今にも泣きそうになっている高澤の顔を見るのは初めての事だった。しかも泣かせたのは自分ではないかという事実にひどく狼狽えてしまう。
「あ、あ、う、うん。大したものじゃないから。そんなに...」
顔をまともに見る事が出来ずに、泣くほど驚かなくてもと言いかけると、「嬉しい」と小さく呟く声が聞こえた。
...嬉しい??こんな些細なものが???
予想外の言葉に耳を疑い、キュと御守りを握り締めて小さく微笑む彼女が視線の端に止まる。その柔らかな笑みに心を奪われ、1分1秒たりとも目を離すことができず見つめ続けてしまうと、あからさまな視線を浴び続けた高澤が不審がるのも無理はなかった。
「...ふじ..さ...わ?」
名前を呼ばれ、少しだけ開かれた唇に視線が落ちる。その唇がひどく艶かしく扇情的で、視線を上げれば見慣れているはずの黒い瞳が不安気に揺れ、ひどく儚気で庇護欲をそそった。
今、俺の目の前にいる彼女は自分の知っている高澤ではない、全く知らない女性だ。
明らかに俺は高澤を女性として意識し始めていた。だが、それを当の本人に悟られまいと必死で。だから、敢えて言葉少なでいると、今度は高澤の方が俺を慮る。
「...急に、どうしたの?」
心配そうにこちらを伺い見る彼女はほんの少し背伸びをしたようだった。俺たちはわりと身長差があるので彼女が背伸びした分だけ、普段よりも距離が近づく。俺は初めての距離感の中で視線が合うと、蜜に誘われる蝶の如く自分からも距離を縮めるように身を屈めた。
と同時に、微かなリップ音を発す。
その行為は時間にしてほんの数秒、微々たる出来事だったのだが。
「ん?」「え?」
思いがけない行為の衝撃に、触れ合った唇から互いに驚きの声が漏れた。
...何やってんだか。
屋上の手すりにもたれかかるようにその場にしゃがみこむと、はぁと小さなため息が漏れる。らしくない事をするものではないなとリュックからある物を取り出した。そして、今、左手の中にあるものはというと高澤の合格祈願のために手に入れた御守り。俺は自分の大学受験が終わった後、2人で行った神社に1人で訪れ、手に入れていたのだ。
田山や吉岡程親しければこのくらいの事はしていたかもしれないが、家族以外の異性にこんなに心を砕いた事は1度もなかった。
これが彼女に抱いた仲間意識というものだろうか?
思うままに左手の御守りに問うても、何も答えは出ずに寧ろ自分の行動の女々しさに呆れる。
「...戻るか」
渡す事さえ出来なかった御守りは縁起が悪い。後日処分しようとポケットにしまい、立ち上がりかけると、不意に誰かが屋上のドアを開けるのが見えた。遠目だか腕の腕章と制服姿で見回り巡回だろうと気づき、しらばっくれた方が良さそうだと気がつかなかったふりをする。
「すみません、道に迷ってしまって...」
「ここ、立ち入り禁止ですよ」
間髪入れず遠くで強めの注意を受けるが、それでも帰ろうとしないこちらの言う事が信用できないのか女生徒は近づいてくる。軽く注意だけだろうとタカを括っていたが、ここで揉めても仕方ないとリュックを背負い直し、帰ろうとするとお互いの顔が初めて直視された。その探していた顔に安堵するが会えた事に素直に喜べず、以前みたいな憎まれ口を叩いた。
「...なんだ、高澤かよ」
「なんだとは失礼ね。っていうか、藤澤がうちの文化祭に来るなんてどういう風の吹き回し?」
「どうって...」
わざわざ高澤に会いに来たなんて事を絶対言いたくない俺は。
「田山の付き添い。彼女を作る絶好のチャンスだしな」
心にもない苦し紛れの言い訳で核心から逃れようとすると、その言い訳を鵜呑みにした高澤の顔が少し顔を曇らせたかのように見えた。
「気分でも悪いのか?」
「...ううん、別に。それより、ここは立ち入り禁止!」
彼女は委員の仕事をこなそうとして、強い口調で言い放ち、俺を屋上から追い出しにかかる。あれだけ人の事を無視したのに一言もはないのかと喉まで出かかったが、文句を言う為にこんな所まで来たわけではない。渡すものがあってきたのだとポケットを探し、先ほど渡す事を諦めかけた御守りを高澤に。
「...ちょうどよかった。やるよ、これ。もう俺には必要ないから」
「あ、ありがとう...」
わざとぶっきらぼうに渡したのは一種の照れ隠し。それを受け取った彼女はさっきまでの威勢は何処へやら、両手で大事そうに包み込み無言で御守りを眺める。その間、言葉を発しない彼女が気になり、つい口を開いてしまった。
「...余計な事したか?」
その問いに頭を横に振り「違う」と意思表示する彼女は俯き加減で、こちらからは表情が分からない。表情を伺うように覗き込むと、どういう訳か瞳が潤んでいる。
今にも泣きそうになっている高澤の顔を見るのは初めての事だった。しかも泣かせたのは自分ではないかという事実にひどく狼狽えてしまう。
「あ、あ、う、うん。大したものじゃないから。そんなに...」
顔をまともに見る事が出来ずに、泣くほど驚かなくてもと言いかけると、「嬉しい」と小さく呟く声が聞こえた。
...嬉しい??こんな些細なものが???
予想外の言葉に耳を疑い、キュと御守りを握り締めて小さく微笑む彼女が視線の端に止まる。その柔らかな笑みに心を奪われ、1分1秒たりとも目を離すことができず見つめ続けてしまうと、あからさまな視線を浴び続けた高澤が不審がるのも無理はなかった。
「...ふじ..さ...わ?」
名前を呼ばれ、少しだけ開かれた唇に視線が落ちる。その唇がひどく艶かしく扇情的で、視線を上げれば見慣れているはずの黒い瞳が不安気に揺れ、ひどく儚気で庇護欲をそそった。
今、俺の目の前にいる彼女は自分の知っている高澤ではない、全く知らない女性だ。
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「...急に、どうしたの?」
心配そうにこちらを伺い見る彼女はほんの少し背伸びをしたようだった。俺たちはわりと身長差があるので彼女が背伸びした分だけ、普段よりも距離が近づく。俺は初めての距離感の中で視線が合うと、蜜に誘われる蝶の如く自分からも距離を縮めるように身を屈めた。
と同時に、微かなリップ音を発す。
その行為は時間にしてほんの数秒、微々たる出来事だったのだが。
「ん?」「え?」
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