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【spin-off】bittersweet first love
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自分が予想していた通りこの殺伐とした予備校での知り合いは高澤だけだった。もともと集団行動が得意でない俺にはそのくらいが丁度良く、彼女は文系クラスだったので同じ講座を受講する事は殆どなかった。そんな遠くから見かける程度の間柄で、今日は授業が終了後にたまたま鉢合わせる。
「...今、帰り?」
「ああ、高澤も?」
「うん、終わりー!」
よほど授業が嫌な教科だったのだろうか?屈託のない彼女の笑顔を初めて見る。いつも嫌味を言われたりしていた俺は普段からそんな笑顔でいれば良いのになんておくびにも出さず、出口へと向かう。すると数人の人間が出口で佇み空を見上げており、つられて見上げてしまうと小雨がふっている。
...確か予報は10%。さしずめ低い確率の予報で雨が降って雨宿り中ってとこ、か。
彼らが佇んでいた理由を知り、リュックに折り畳み傘が入っていたのを思い出した俺は、傘を開きながら隣の高澤見てみる。彼女は空を見上げてため息をついていた。
「あーあ、降っちゃった。今日、傘持っていないのに」
彼女も傘を持っていなかったらしい。もう少ししたらこの雨は止みそうだったが、一足先に軒から出た俺は傘をさす。
さしずめここから駅まで10分...と、少し迷いながらも。
「入れば?最寄り駅まででよければ送る」
ぶっきらぼうに誘うと俺の普段の態度が悪いからか、高澤は懐疑的な目でこちら見る。
「...なんか魂胆があるの?」
流石にその言い草に少しムッとした。
「ないよ。そんなこと言うなら先に行く。じゃあな」
彼女に言い残し、踵を返して予備校を後にすると、後ろから走ってくる足音がした。振り返ると先ほど別れた高澤だった。
「ごめんっ、やっぱり入れて」
呆れつつも怒ってはいなかった俺は彼女の方にさしていた傘を傾ける。
「...バーカ。人の好意は素直に受け取れ」
「すみません」
嫌味を言われながらも、彼女は思いの外素直だった。その殊勝な態度にこの後どんな嫌味を言ってやろうかと思っていた気持ちは削げてしまう。
...何か、調子狂うな。
今日は彼女に対して今までにない変な感情を抱きっぱなしだ。それがどうしてなのか分からないままに駅へと向かった。
「○○の講座取ってる?あの先生分かりやすいよ」
「それは取ってない。考えてみるよ」
いくら高澤と2人きりで歩いていても、道すがら話すことは予備校や受験の事ばかりだったが、話は尽きない。そのおかげで駅まであっという間だった。改札口に着くと互いの電車は反対方向だと初めて知り、名残おしい気持ちが若干、生まれる。
「あのさ...」
全く引き止める気はなかったくせに結果的に彼女を引き止めることになり、俺は焦って話題を振った。
「...外部受験のこと、黙っててくれてありがとう」
予備校で高澤と会ってしまった時てっきり言いふらされていると思っていたのだが、先日吉岡から女子部の子にはばれていない事を知ったのだ。俺の外部受験はごく身近な人間にしか知らせておらず、高澤に知られてしまったのは完璧なイレギュラー。口止めするのも忘れていたくらいだったのでこればかりは彼女に感謝していた。最初俺から礼を言われてキョトンとしていた高澤は、少し間をおいてふふっと小さく笑う。
「当たり前じゃない。私たち数少ない仲間みたいなものだし」
...俺たちが仲間?
つい最近までいがみ合っていた彼女からの思いがけない言葉にどう返事を返して良いものやら。そうこうしているうちに電車の時間が迫り、高澤は小走りで反対のホームへと走ってゆく。俺は反対のホームに着いた彼女を見えなくなるまで目で追ってしまっていた。そして、少ししてから俺のホームの電車が到着した。
...仲間って響きは、悪くない。
電車の出口近くの隅に寄りかかるように立ち、思わずクスリとする。彼女の言葉は言い得て妙。先ほどまで抱いた高澤に抱いていた好意のようなものは、仲間意識。そう考えるとストンと何か腑に落ちた。それから暇つぶしに携帯の画面をスクロールしていると丁度高澤からメッセージが入る。
『受験、頑張ろう!!ファイト、藤澤!!』
...何だこれ??さっきまで一緒にいたのだから面と向かって言えば良いのに。
普段なら既読スルーしそうな内容だったが、俺も同じノリで返した。
『お前も受験頑張れ!ファイト、高澤!』
これが仲間意識というものだろう。
こうしてこの日を境に俺たちの距離は確実に縮まってゆく。
「...今、帰り?」
「ああ、高澤も?」
「うん、終わりー!」
よほど授業が嫌な教科だったのだろうか?屈託のない彼女の笑顔を初めて見る。いつも嫌味を言われたりしていた俺は普段からそんな笑顔でいれば良いのになんておくびにも出さず、出口へと向かう。すると数人の人間が出口で佇み空を見上げており、つられて見上げてしまうと小雨がふっている。
...確か予報は10%。さしずめ低い確率の予報で雨が降って雨宿り中ってとこ、か。
彼らが佇んでいた理由を知り、リュックに折り畳み傘が入っていたのを思い出した俺は、傘を開きながら隣の高澤見てみる。彼女は空を見上げてため息をついていた。
「あーあ、降っちゃった。今日、傘持っていないのに」
彼女も傘を持っていなかったらしい。もう少ししたらこの雨は止みそうだったが、一足先に軒から出た俺は傘をさす。
さしずめここから駅まで10分...と、少し迷いながらも。
「入れば?最寄り駅まででよければ送る」
ぶっきらぼうに誘うと俺の普段の態度が悪いからか、高澤は懐疑的な目でこちら見る。
「...なんか魂胆があるの?」
流石にその言い草に少しムッとした。
「ないよ。そんなこと言うなら先に行く。じゃあな」
彼女に言い残し、踵を返して予備校を後にすると、後ろから走ってくる足音がした。振り返ると先ほど別れた高澤だった。
「ごめんっ、やっぱり入れて」
呆れつつも怒ってはいなかった俺は彼女の方にさしていた傘を傾ける。
「...バーカ。人の好意は素直に受け取れ」
「すみません」
嫌味を言われながらも、彼女は思いの外素直だった。その殊勝な態度にこの後どんな嫌味を言ってやろうかと思っていた気持ちは削げてしまう。
...何か、調子狂うな。
今日は彼女に対して今までにない変な感情を抱きっぱなしだ。それがどうしてなのか分からないままに駅へと向かった。
「○○の講座取ってる?あの先生分かりやすいよ」
「それは取ってない。考えてみるよ」
いくら高澤と2人きりで歩いていても、道すがら話すことは予備校や受験の事ばかりだったが、話は尽きない。そのおかげで駅まであっという間だった。改札口に着くと互いの電車は反対方向だと初めて知り、名残おしい気持ちが若干、生まれる。
「あのさ...」
全く引き止める気はなかったくせに結果的に彼女を引き止めることになり、俺は焦って話題を振った。
「...外部受験のこと、黙っててくれてありがとう」
予備校で高澤と会ってしまった時てっきり言いふらされていると思っていたのだが、先日吉岡から女子部の子にはばれていない事を知ったのだ。俺の外部受験はごく身近な人間にしか知らせておらず、高澤に知られてしまったのは完璧なイレギュラー。口止めするのも忘れていたくらいだったのでこればかりは彼女に感謝していた。最初俺から礼を言われてキョトンとしていた高澤は、少し間をおいてふふっと小さく笑う。
「当たり前じゃない。私たち数少ない仲間みたいなものだし」
...俺たちが仲間?
つい最近までいがみ合っていた彼女からの思いがけない言葉にどう返事を返して良いものやら。そうこうしているうちに電車の時間が迫り、高澤は小走りで反対のホームへと走ってゆく。俺は反対のホームに着いた彼女を見えなくなるまで目で追ってしまっていた。そして、少ししてから俺のホームの電車が到着した。
...仲間って響きは、悪くない。
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...何だこれ??さっきまで一緒にいたのだから面と向かって言えば良いのに。
普段なら既読スルーしそうな内容だったが、俺も同じノリで返した。
『お前も受験頑張れ!ファイト、高澤!』
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こうしてこの日を境に俺たちの距離は確実に縮まってゆく。
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