165 / 199
【spin-off】bittersweet first love
5
しおりを挟む
田山も吉岡も俺の外部受験を聞いた時は驚きはしたが、食べるのは止め、まるで自分のことのように真摯に耳を傾けてくれた。
「違う大学に行っても、たまには遊ぼうな!」
田山はもう俺が合格したかのように寂しがり、吉岡は冷静に現実を見ている。
「で、親には言ったのか?」
吉岡がそういうのも無理はなかった。俺たちが未成年である以上、そこは避けては通れない進路だからだ。
「...それが意外と反対されなかった」
話す前は反対されるかと内心ビクビクしていたのだが、考え抜いて決めた事なら最後までやり遂げろと言われた。うちの両親は、もともと子供に対し考えを尊重して個を重んじる。周りがなんと言おうと俺の意見を聞いてくれた。その代わり言ったからにはの重圧は半端ないが。
「藤澤の両親って話分かんな。うちの親なんか頭がガッチガチ」
田山がポテトを食べながら、親の事をうるさいだの愚痴るのを目の当たりにすると自分がいかに恵まれているか思い知る。自分も親になった時はなどと考えるのは、後、十数年先の事になるが。
「...残る問題は塩爺だよな」
俺以外の2人も同じ事を思ったのだろう。テーブルに置かれたままの進路志望調査票が皆の視線を集める。俺には担任の顔が浮かんできた。
...まあ、なんとかなるだろう。生徒の希望をきくのがこの紙なのだから。
※※※
進路志望調査票を提出した数日後、塩爺こと担任の塩原に名指しで放課後呼ばれる。呼ばれた先は進路指導室。俺はさして驚きもせず予想通りの展開だった。先に部屋に入っててくれと塩爺から鍵を受け取り、その鍵で中に入ると物珍しくスチール製の本棚を眺めた。
...進路指導室なんて初めて入った。結構、赤本揃ってるじゃん。
赤本とは大学、学部別の過去問題集。俺も最近手に取ってみたのだが、内部進学生が殆どのうちでこんなに揃っているとは予想できなかった。もしかしたら自分みたいな生徒も結構な数がいるのではないかと想像する。そして、案外、進路志望調査票の話は自分の思い通りに進むのではないかと思っていた矢先、遅れてきた塩爺の第一声に耳を疑う。
「藤澤、悪い事は言わん。外部受験受けるのはやめとけ。時間の無駄だ」
ガンと無防備な後頭部を金づちで殴られたような威力。だが、俺の成績はそこまでいわれるほど悪いとは思わないし、外部受験が無駄だと言われる根拠が分からない。
「...それはどういう、事、でしょうか?」
塩爺は面倒くさそうに持ってきたファイルを開く。そこからプリント資料を取り出し、こちらに見えるよう放る。
「見てみろ、この惨憺たる結果を。他の私大ならともかく、うちからここを受けるなんて無謀だ。1年浪人するなら話は別だが」
見せられた資料には過去の進路データがあり俺が希望する大学は志望者は数人いたものの、過去5年現役での合格者は皆無。俺がそのプリントを食い入るように見つめているとを塩爺は追い打ちをかけてくる。
「藤澤の成績ならは理系科目はクリアできると思うが、なんせ文系が弱い。センターなら必ず足切りに引っかかる。それでも受けるのか?」
1年の頃から担任の塩爺は俺の弱点を的確に攻め、すぐさま反論できない。確固たる実績がないと覆る事ない事を感じた俺は無言を貫き時間を稼ごうとするが、塩爺は待ってはくれなかった。
「ま、悪い事は言わん。考え直せ」
こちらからの反論がないのをいい事に話を強制的に終わらせようと、ファイルを閉じ席を立とうとする。全く聞く耳を持たずといった塩爺を追いすがろうとした時、あるポスターが目に入った。
「...ちょ、ちょっと待ってください。一度だけ、チャンスをくれませんか?」
「チャンス?」
聞きなれない言葉に眉をひそめる塩爺は動きを止める。その隙に思考をフル回転させ、閃いた俺は塩爺の後ろに掲示してあったポスターを指差し提案した。
「あの夏の模試でA判定を取ったら、外部受験を認めてもらえませんか?」
塩爺が振り返る先には誰が貼ったのか大手予備校の模試のポスター。形だけとはいえここは進路指導室。その試験を受ける事を止める教師はいないだろう。
「...そこまで言うなら待つが。その代わりA判定だぞ?」
「分かっています」
こうして、俺の首の皮1枚繋がった。
「違う大学に行っても、たまには遊ぼうな!」
田山はもう俺が合格したかのように寂しがり、吉岡は冷静に現実を見ている。
「で、親には言ったのか?」
吉岡がそういうのも無理はなかった。俺たちが未成年である以上、そこは避けては通れない進路だからだ。
「...それが意外と反対されなかった」
話す前は反対されるかと内心ビクビクしていたのだが、考え抜いて決めた事なら最後までやり遂げろと言われた。うちの両親は、もともと子供に対し考えを尊重して個を重んじる。周りがなんと言おうと俺の意見を聞いてくれた。その代わり言ったからにはの重圧は半端ないが。
「藤澤の両親って話分かんな。うちの親なんか頭がガッチガチ」
田山がポテトを食べながら、親の事をうるさいだの愚痴るのを目の当たりにすると自分がいかに恵まれているか思い知る。自分も親になった時はなどと考えるのは、後、十数年先の事になるが。
「...残る問題は塩爺だよな」
俺以外の2人も同じ事を思ったのだろう。テーブルに置かれたままの進路志望調査票が皆の視線を集める。俺には担任の顔が浮かんできた。
...まあ、なんとかなるだろう。生徒の希望をきくのがこの紙なのだから。
※※※
進路志望調査票を提出した数日後、塩爺こと担任の塩原に名指しで放課後呼ばれる。呼ばれた先は進路指導室。俺はさして驚きもせず予想通りの展開だった。先に部屋に入っててくれと塩爺から鍵を受け取り、その鍵で中に入ると物珍しくスチール製の本棚を眺めた。
...進路指導室なんて初めて入った。結構、赤本揃ってるじゃん。
赤本とは大学、学部別の過去問題集。俺も最近手に取ってみたのだが、内部進学生が殆どのうちでこんなに揃っているとは予想できなかった。もしかしたら自分みたいな生徒も結構な数がいるのではないかと想像する。そして、案外、進路志望調査票の話は自分の思い通りに進むのではないかと思っていた矢先、遅れてきた塩爺の第一声に耳を疑う。
「藤澤、悪い事は言わん。外部受験受けるのはやめとけ。時間の無駄だ」
ガンと無防備な後頭部を金づちで殴られたような威力。だが、俺の成績はそこまでいわれるほど悪いとは思わないし、外部受験が無駄だと言われる根拠が分からない。
「...それはどういう、事、でしょうか?」
塩爺は面倒くさそうに持ってきたファイルを開く。そこからプリント資料を取り出し、こちらに見えるよう放る。
「見てみろ、この惨憺たる結果を。他の私大ならともかく、うちからここを受けるなんて無謀だ。1年浪人するなら話は別だが」
見せられた資料には過去の進路データがあり俺が希望する大学は志望者は数人いたものの、過去5年現役での合格者は皆無。俺がそのプリントを食い入るように見つめているとを塩爺は追い打ちをかけてくる。
「藤澤の成績ならは理系科目はクリアできると思うが、なんせ文系が弱い。センターなら必ず足切りに引っかかる。それでも受けるのか?」
1年の頃から担任の塩爺は俺の弱点を的確に攻め、すぐさま反論できない。確固たる実績がないと覆る事ない事を感じた俺は無言を貫き時間を稼ごうとするが、塩爺は待ってはくれなかった。
「ま、悪い事は言わん。考え直せ」
こちらからの反論がないのをいい事に話を強制的に終わらせようと、ファイルを閉じ席を立とうとする。全く聞く耳を持たずといった塩爺を追いすがろうとした時、あるポスターが目に入った。
「...ちょ、ちょっと待ってください。一度だけ、チャンスをくれませんか?」
「チャンス?」
聞きなれない言葉に眉をひそめる塩爺は動きを止める。その隙に思考をフル回転させ、閃いた俺は塩爺の後ろに掲示してあったポスターを指差し提案した。
「あの夏の模試でA判定を取ったら、外部受験を認めてもらえませんか?」
塩爺が振り返る先には誰が貼ったのか大手予備校の模試のポスター。形だけとはいえここは進路指導室。その試験を受ける事を止める教師はいないだろう。
「...そこまで言うなら待つが。その代わりA判定だぞ?」
「分かっています」
こうして、俺の首の皮1枚繋がった。
0
お気に入りに追加
1,079
あなたにおすすめの小説

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

社長室の蜜月
ゆる
恋愛
内容紹介:
若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。
一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。
仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。
デキナイ私たちの秘密な関係
美並ナナ
恋愛
可愛い容姿と大きな胸ゆえに
近寄ってくる男性は多いものの、
あるトラウマから恋愛をするのが億劫で
彼氏を作りたくない志穂。
一方で、恋愛への憧れはあり、
仲の良い同期カップルを見るたびに
「私もイチャイチャしたい……!」
という欲求を募らせる日々。
そんなある日、ひょんなことから
志穂はイケメン上司・速水課長の
ヒミツを知ってしまう。
それをキッカケに2人は
イチャイチャするだけの関係になってーー⁉︎
※性描写がありますので苦手な方はご注意ください。
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
※この作品はエブリスタ様にも掲載しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる