社内恋愛はじめました。

柊 いつき

文字の大きさ
上 下
163 / 199
【spin-off】bittersweet first love

3

しおりを挟む
俺はバレー、田山はバスケット、吉岡は野球とそれぞれ違う部に所属していたが、同じクラスなので時間が合えば3人で連んで帰ることが多かった。今日は田山が帰りに小腹が空いたと騒ぐので学校最寄駅近くのファーストフードに立ち寄る。この駅には俺たちの学校の他にも幾つかの学校があり、平日の夕方のこの時間帯は高校生らでごった返していた。

「お、あそこ空いてる!」

その中で何事にも目ざとい田山が空席を見つけ、俺と吉岡はトレイを持って追従。そして、席に着くなり田山に絡んだ。

「あのさぁ、何で高澤は俺にはいつもあんな態度なんだ?」

「何でって言われても、ねぇ??」

俺の怒りが継続中と察した田山は吉岡に助けを求めると、「さあ?」とそっぽを向かれ困っているが引き下がれない。

田山お前の彼女だろう?ちゃんと言っとけよ」

田山と高澤は小学校の時の同窓生で2人が付き合っているのから、当然、俺は邪魔者扱い。その為にあんな態度をいつもとられるのだと常々思っていたのだが。当の本人は「は??」と目を真ん丸くして驚き、吉岡はフライドポテトを口に入れたまま固まった。

2人の様子がおかしいと感じとった俺は一旦クールダウン。

「...違うのか?」

「あったりまえじゃん!!」「ありえねー」

何故か口を揃えて異口同音の嵐を喰らう。

「嘘だろ!?あんなにいつも2人でいるし。小学校からの付き合いで仲がいいって!!?」

慌てて知っている情報を並べ立ても形勢は一気に逆転した。

「俺と高澤は何もないって!!第一俺の好みじゃないし。藤澤はどこ見ていってんだよ、全く」

「それに田山の好みはこういうタイプ」

吉岡はたまたま持っていたグラビア雑誌をリュックから取り出し俺に開いてみせる。そこには某有名アイドルの水着姿が映っていた。そのアイドルはいま田山が夢中になっているのを俺も知っている。彼女は黒髪のロングヘアで田山は常々ロングヘアの女性が好きと公言していた。それに引き換え、高澤はショートヘア。俺が男女と陰口を叩く理由はそこにある。

「なるほど」

吉岡の提示した雑誌の1ページ目で簡単に納得。その俺の手から、田山は雑誌をかっさらってゆく。

「うわー、これまだ買っていなかった!!あ、愛ちゃんが特集じゃん。いつ見ても可愛いわ♡いつかこんな子としたいよな...」

雑誌を見食い入るように見る田山の大きな独り言をコーラを飲みながら疑問に思う。

「何をしたいって?」

この質問に吉岡の方が噴き出した。

「ぶはっ!!藤澤本気で聞いてんの?!だってこいつ彼女なし歴=年齢だぞ?」

田山を指差して笑う吉岡に対し田山は顔を真っ赤にして。

「そ、それを言うなら藤澤だってっ!!」

どういう訳か俺が巻き添えをくらう。それでもどうにも要領の得ない俺に対し吉岡が小声でゆっくりと口を開いた。

「田山、ド、ウ、テ、イだし」

...あぁ、セックスそれ

頭の中で一発変換。田山は人当たりも良く学校でも人気があったのだが、好きなタイプの女子にはアプローチ下手なのである。そこへ彼女持ちでおそらく経験済みの吉岡がおかしな都市伝説を披露した。

「そうそう、30歳になるまで経験ないと魔法が使えるようになるらしいぞ?(笑)」

「どんな魔法だよ?(笑)」

2人で談笑していると田山だけは青ざめる。

「...も、もしかして、藤澤はもう?」

「あー...」

ハッキリした返事を言いにくくて目を泳がすと、吉岡が俺の代わりに口を挟む。

「ばぁか。藤澤こいつの場合は彼女持ちでなくても入れ食いだろうよ。どんだけモテるか分かってんだろ?」

否定も肯定もしなかった俺に、全てを悟った田山は「裏切り者っ!!」と叫んだ。

入れ食いとは心外なと思ったのだが特定の彼女がいなくとも相手さえいれば経験出来なくはない。田山と違う所はそこだけだ。

俺の場合は単なる好奇心と年相応の性衝動。
実際に女性を抱いて愛とか恋とかそんな余計な感情は派生する事はなかった。

だから、田山の気持ちは純粋だし、彼女持ちの吉岡は俺とは違う感情を伴い彼女を抱いていると思うと少し羨ましい気持ちもある。

「やらずの20歳ハタチにならないよう健闘を祈る!」

田山をからかいながら、ふと、そんな事を思うのだ。
しおりを挟む
感想 60

あなたにおすすめの小説

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

デキナイ私たちの秘密な関係

美並ナナ
恋愛
可愛い容姿と大きな胸ゆえに 近寄ってくる男性は多いものの、 あるトラウマから恋愛をするのが億劫で 彼氏を作りたくない志穂。 一方で、恋愛への憧れはあり、 仲の良い同期カップルを見るたびに 「私もイチャイチャしたい……!」 という欲求を募らせる日々。 そんなある日、ひょんなことから 志穂はイケメン上司・速水課長の ヒミツを知ってしまう。 それをキッカケに2人は イチャイチャするだけの関係になってーー⁉︎ ※性描写がありますので苦手な方はご注意ください。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。 ※この作品はエブリスタ様にも掲載しています。

ドSな彼からの溺愛は蜜の味

鳴宮鶉子
恋愛
ドSな彼からの溺愛は蜜の味

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...