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158.誰が為に鐘は鳴る⑭
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鈴木さんが藤澤さんと入れ違うような格好になったいきさつ。
それは至って単純なことの成り行きだった。
一向に私からの連絡のなかった藤澤さんに自分から会いに行けと私の元上司の田山さんは言ったらしい。それでも時間的に非常識で無理だと渋り諦めかけていた彼に対し、同じ女性である鈴木さんなら私はドアを開けるだろうとわざわざ自分の奥さんを呼んでくれたのだ。そこまでされて流石に断るわけにはいかなかったというのが藤澤さんのから話。
彼の話を聞きながら以前にも二人の仲が拗れて、別れ話まで発展しそうな雰囲気だったことをふと思い出す。その時も上司だった田山さんに二人で話し合う機会を与えられた。
...また、助けられちゃった。
今は上司ではないけれど、気にかけてもらえた事に感謝している。でも、それは私の為だけじゃなくて寧ろ藤澤さんの為だと思えた。
「...田山さんと藤澤さんって本当に仲良しですね」
「うーん、仲良しというか腐れ縁?...あいつとは大学よりも以前から知り合いだったからね。だから俺が...その」
ちらりと私の顔を見たかと思うと彼は眼をそらす仕草。その後とてもとても話にくそうに。。
「優里に...その...未練たらたらだって、すぐバレ、ました...」
私に話した後の藤澤さんの困りようったらない。初めて見る彼の照れた顔とその言葉の意味を頭の中で咀嚼すると彼の照れが私にも伝染した。
「ほ、本当、す、す、素敵な人ですね。た、田山さんは...」
すると間近に迫った彼の瞳。あっと小さく息を飲むと唇が再び重なる。そして、唇に熱を感じても それがキスなのだとはしばらく気がつかなかった 。上唇をチュツと食んだ後彼の唇が離れていく。
「...俺の前で田山を褒めるのはちょっと(笑)」
微笑みながらも再度近づいてくる瞳を見て私は再びキスをされるのだと今度は明確に悟ると、意思よりも本能が先に動いていてしまう。自然に顔が上を向き 、無意識のうちに彼の唇を迎えに行くと、目を閉じる。重なり合った唇は 一度目よりも長く同じ場所にいた 。
お互いの唇の形を確認するかのように。
離れてゆく唇は名残惜しくも距離を置き、代わりに身体をきつく抱きしめられていた。首筋には藤澤さんの熱い吐息がかかる。
「まずいなぁ、止まらなくなる...」
1人ごちに呟く彼の言葉にはある熱情が孕んでいる事に気がついていたけれど、ぎゅっと抱きしめられている余韻からは逃れられない。彼の背に手を添えるとそれだけで安心できた。でも、藤澤さんは違っていた。しばらく無言で私の身体を抱きしめてくれていたけれど。
「もう、そろそろ...」
ゆっくりと私の身体を解放する。それもそのはず。彼がこの部屋に来たのは日付が変わる少し前で、とうの昔に日付は変わっている。藤澤さんはいつも睡眠時間を長めに必要としていた私の事を覚えていて帰ろうとしてくれていた。
「じゃあ、おやすみ...また明日にでも」
彼は明日の予定を私に伝え、チュッと唇にキスを軽く落としていく。そして、ソファーから立ち上がるために彼の手は離れていこうとしたけれども、私は離さなかった。
「優里?」
「...や、です」
「え?」
繋ぎとめられた手に困り、もう一度ソファーに座ってこちらの様子を伺う藤澤さんは明らかに困惑している。私は彼の手をそれでも離せずにいた。
「...今日はこのまま、ずっと一緒に、いて下さい...」
「それは、その...」
必死で引き留めようとする私に彼は言葉が続かない。なんでここで引き止められているのか分からないみたいだ。自分でも変な事を言っている自覚はある。
再会して、想いが通じて、プロポーズまでされて。
それなのに彼を引き止めてしまったのは、別れた時の事をずっと忘れられなかったから。
最初に別れようと言われてしまったから、本当の気持ちが言えなかった。
「行かないで、下さい...」
あの時、本当はそう言いたかった。
でも、大好きな彼の前では聞き分けのいいフリをするしかなかった。
だから、お願い。もう私をひとりにしないで。
それは至って単純なことの成り行きだった。
一向に私からの連絡のなかった藤澤さんに自分から会いに行けと私の元上司の田山さんは言ったらしい。それでも時間的に非常識で無理だと渋り諦めかけていた彼に対し、同じ女性である鈴木さんなら私はドアを開けるだろうとわざわざ自分の奥さんを呼んでくれたのだ。そこまでされて流石に断るわけにはいかなかったというのが藤澤さんのから話。
彼の話を聞きながら以前にも二人の仲が拗れて、別れ話まで発展しそうな雰囲気だったことをふと思い出す。その時も上司だった田山さんに二人で話し合う機会を与えられた。
...また、助けられちゃった。
今は上司ではないけれど、気にかけてもらえた事に感謝している。でも、それは私の為だけじゃなくて寧ろ藤澤さんの為だと思えた。
「...田山さんと藤澤さんって本当に仲良しですね」
「うーん、仲良しというか腐れ縁?...あいつとは大学よりも以前から知り合いだったからね。だから俺が...その」
ちらりと私の顔を見たかと思うと彼は眼をそらす仕草。その後とてもとても話にくそうに。。
「優里に...その...未練たらたらだって、すぐバレ、ました...」
私に話した後の藤澤さんの困りようったらない。初めて見る彼の照れた顔とその言葉の意味を頭の中で咀嚼すると彼の照れが私にも伝染した。
「ほ、本当、す、す、素敵な人ですね。た、田山さんは...」
すると間近に迫った彼の瞳。あっと小さく息を飲むと唇が再び重なる。そして、唇に熱を感じても それがキスなのだとはしばらく気がつかなかった 。上唇をチュツと食んだ後彼の唇が離れていく。
「...俺の前で田山を褒めるのはちょっと(笑)」
微笑みながらも再度近づいてくる瞳を見て私は再びキスをされるのだと今度は明確に悟ると、意思よりも本能が先に動いていてしまう。自然に顔が上を向き 、無意識のうちに彼の唇を迎えに行くと、目を閉じる。重なり合った唇は 一度目よりも長く同じ場所にいた 。
お互いの唇の形を確認するかのように。
離れてゆく唇は名残惜しくも距離を置き、代わりに身体をきつく抱きしめられていた。首筋には藤澤さんの熱い吐息がかかる。
「まずいなぁ、止まらなくなる...」
1人ごちに呟く彼の言葉にはある熱情が孕んでいる事に気がついていたけれど、ぎゅっと抱きしめられている余韻からは逃れられない。彼の背に手を添えるとそれだけで安心できた。でも、藤澤さんは違っていた。しばらく無言で私の身体を抱きしめてくれていたけれど。
「もう、そろそろ...」
ゆっくりと私の身体を解放する。それもそのはず。彼がこの部屋に来たのは日付が変わる少し前で、とうの昔に日付は変わっている。藤澤さんはいつも睡眠時間を長めに必要としていた私の事を覚えていて帰ろうとしてくれていた。
「じゃあ、おやすみ...また明日にでも」
彼は明日の予定を私に伝え、チュッと唇にキスを軽く落としていく。そして、ソファーから立ち上がるために彼の手は離れていこうとしたけれども、私は離さなかった。
「優里?」
「...や、です」
「え?」
繋ぎとめられた手に困り、もう一度ソファーに座ってこちらの様子を伺う藤澤さんは明らかに困惑している。私は彼の手をそれでも離せずにいた。
「...今日はこのまま、ずっと一緒に、いて下さい...」
「それは、その...」
必死で引き留めようとする私に彼は言葉が続かない。なんでここで引き止められているのか分からないみたいだ。自分でも変な事を言っている自覚はある。
再会して、想いが通じて、プロポーズまでされて。
それなのに彼を引き止めてしまったのは、別れた時の事をずっと忘れられなかったから。
最初に別れようと言われてしまったから、本当の気持ちが言えなかった。
「行かないで、下さい...」
あの時、本当はそう言いたかった。
でも、大好きな彼の前では聞き分けのいいフリをするしかなかった。
だから、お願い。もう私をひとりにしないで。
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