社内恋愛はじめました。

柊 いつき

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151.誰が為に鐘は鳴る⑦藤澤視点

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すると、どこからかチャイムの音がする。それに部屋の外の方からノックをする音も聞こえた。
こんな時間に誰だよ?と、スコープで確かめもせずドアを開けると、そこには招かざる客の姿が。挙式を終えたばかりの田山である。

「やった、起きてた」

そう独り言を呟く彼は缶ビールを袋に入れて持ち、やや、酔っ払い気味。この部屋に来るまでしこたま飲まされたのが容易に推測でき、自室に戻らずこの部屋に来た事に呆れた。

「お前、二次会はどうした?」

「そんなのとっくに終わったさ。それよりも...今、三浦さんが中にいるとか?」

優里に再会する理由イミを唯一知っているこの男。事の顛末が気になって仕方がないらしい。

「気になるなら自分で確かめれば?」

肩越しに部屋の中を覗き込もうする田山を制して、説明するのがいちいち面倒くさい。詳しい話を説明するよりも事実を見せたほうが早いと部屋に招き入れると「悪いよ」なんて言いながらも、酔っ払いの田山は図々しい。彼は大して躊躇わずにすんなりと中へと入ったのだが、誰かがいた気配が全くない部屋に首を傾げたかと思うと持ってきた缶ビールとともに部屋のソファーに我が物顔でふんぞり返る。

「で、三浦さんに何をやらかしたわけ?」

「おい、ちょっと待て!何で俺がやらかしたって決めつけるんだよ?」

何事にも敏い田山の指摘に対し、図星だった俺はバツが悪かったので歯向かうのだが。

「じゃあ、彼女の方?」

彼の咄嗟の切り返しには口籠り左手のリングを見られて誤解された事を話すと、それはそれは大袈裟なため息をつかれた。

「...相変わらず、お前は頭いいくせに人の気持ちに鈍感なんだな」

「なんだよ、それ?」

「そのまんまの意味。で、これからどうするの?」

彼は持ってきたビールを1本開け、もう一本をこちらに投げつけた。俺はそのビールを受け取りはしたものの、飲む気になれず脇に置く。

「...どうって、どうもしない。明日、予定通り帰るさ」

「ふうん...そんなに藤澤が物分りがいいなんて信じられないけど」

田山がビールを一口飲んだあとの言葉には何故かカチンときて、語気を強めた。

「仕方がないだろ。話すらさせてもらえないんだから!お前に何が分かる?」

当事者でない彼に当たっても仕方のない事だと分かっているが、つい、責めるような口調になってしまう。言ってしまった後は、後悔しか残らなかった。

「...悪い、言い過ぎた」

項垂れるように頭を下げると、田山はどこ吹く風とケラケラと声を出して笑った。

「藤澤がこんな風に感情むき出しになるのは久々に見た気がする。しかも、女性関係で」

「変なところ見せて悪かった...」

「いや、全然。寧ろ、もっと感情的になれば?普段変なとこ冷静ですかしてんだから」

こういう飄々とした性格の田山と話していたら不思議と気持ちが軽くなるのを感じる。彼といるといつもいつの間にかペースを持っていかれ調子が狂う事が多い。それでも、付き合っていけるのは、きっと波長が合うからなのだろう。

そのおかげで鬱屈した感情は和らいだ気がする。でも、根本的に状況は全く変わっておらず、その事は2人とも薄々気がついていた。だから、田山は自分の腕時計の時間を確認し。

「まだ気になるなら諦めずに三浦さんの部屋まで行って、話せばいいじゃん」

「...名刺渡して連絡欲しいと伝えて今まで連絡がないんだぞ。それが彼女の返事だろうし拒否られるに決まっている」

「でも、直接行けば流石に三浦さんも...」

「優里はいい意味でも悪い意味でも潔癖な所があるから、無理だろうな」

彼女の性格を淡々と分析して論破していくと呑気に話を聞いていた田山は、最後には悔しくなったのかムキになった。

「ちょ、ちょっと、まて!なんだ、その明らかに諦めた態度は!?披露宴の間ずっと何してたんだよ?お前の中身は中学生か?それとも今流行りの厨二病か?」

「俺だって余興に駆り出されていたりして、何かと忙しかったんだよ」

田山はそんな俺の言い分なんか少しも聞いちゃくれない。それどころか、手を額につけて考える人のみたいなポーズで、大袈裟なため息をついてみせた。

「藤澤は本気になった女の前だとどうしようもなくヘタレだな」

...チュウニビョウ、ヘタレってなんだ?

大分失礼な事を言われていたようだが、意味が分からず。何も言い返せないでいると。

「見た目がいいとかえって始末が悪い見本だよ、藤澤は」

ますます褒められた気がしないのは絶対に気のせいではない。だが、この状況を作りだしてしまった俺に反論する資格はない事くらいは何となく知っている。

「何のために俺がここまでお膳立てしたと思ってんだよ」

情けない声で訴えてくる田山に俺はまるで他人事のように同意していた。

「本当だな」

田山が2本目の缶ビールを開けるとほぼ同じくらいに、俺も初めて缶ビールを開ける。プシュッと小気味良い音とともに別れた時の優里の顔がどういうわけだか頭に浮かんで離れない。

空港では泣きじゃくる彼女に「これが最後ではないから泣かないで」と懇願して。
そういう俺はこれで最後だと知りながら、演技をして旅立った。



あの時の俺は、どんな顔を彼女に向けていたのだろう?

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