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145.誰が為に鐘は鳴る①藤澤視点
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6月某日。
おそらく、この日は結婚に際して縁起のいい日なのだろう。
俺は神奈川のとあるホテルで、予定通り旧友の田山の挙式に参列していた。
挙式の参加はほぼ親族のみのようで新郎側の友人の出席は俺と吉岡くらい。そんな俺たちは目立たぬよう末席の隅で田山と花嫁の厳かな儀式を見守る。何度か挙式に参列した事はあるが、独身仲間の最後の砦と思っていた彼が結婚するのを目の当たりにすると、なかなか感慨深いものがあった。
羨ましいかといえば、そうでもない。
さみしいかといえば、それほどでも。
独身男が結婚式を見て思うことはこんな事ぐらいで。だが、今まで出席したどの結婚式よりも緊張の度合いと意味合いが違うのは、この後の披露宴で会えるかもしれない彼女を心待ちにしているせいか。だからこそ何かが胸に響いたのだと思えた。
そして、気がつくと式は終盤を迎え、片言の神父が結婚宣言をしてから、田山らは式場を神妙な面持ちで退場。式の参列者が惜しみない拍手を送り、それを見届けた。その後はブーケトスや集合写真などなどの一通りのものが行われ、披露宴までのしばしの休憩を挟む。顔見知りである両親や田山の妹は何かと忙しそうだったので、わざわざ近づく事もなく、吉岡と共に行動することにした。
とりあえず休憩がてらホテルのロビーラウンジへ。人とすれ違う度に、俺たちと似たり寄ったりの服装の人間がやたらと目につく。
....そうか、他にも結婚式が。
居心地の良さそうなソファーに腰掛けると眠気に襲われる。挙式の緊張感から解放されたせいか、欠伸が出てしまい手で口を抑えた。その一連の仕草をタバコを一服中の吉岡に目撃されてしまう。
「前の日に徹夜でもしてきたのか?」
「いや、それはない。仕事を片付けてすぐこっちに来たから」
昨日は何時もよりも早く仕事を終えその足で新幹線に飛び乗り、このホテルには昨日から前泊している。ただ、疲れ切っていた為かそのままベッドで倒れこむようにして眠りこんだ。そのおかげでスッキリと朝早く目覚め、カーテンを開けると太陽の穏やかな陽射しが部屋へと注いでいた。俺はこんな天気のいい日に二度寝は勿体ないと早朝からのジョギングを経て、今を迎えていたのだ。その一部始終を聞き終えた吉岡は酒が一滴も入っていないのに絡む絡む。
「朝からジョギングだとぉ?この優雅な独身貴族様め!」
「お前の結婚幸せ自慢よりは健康的でマシだ。これからその愛する嫁さんと娘に俺を会わせるんだろ?」
2人でお互いの無い物ねだりなような会話をしながら、到着したコーヒーをいただく。少しして吉岡が思い出したように腕時計を確認する。
「もうそろそろ、来るはずなんだが」
まだ、披露宴には時間があったのだが、吉岡の家族は披露宴から出席する予定。もう少ししたらこちらに到着するというのでここで一服しながら待っていた。ただ、待てど暮らせどくる気配はなし。
「おっそいなぁ...藤澤に会うのウチのも楽しみにしてたのに」
大らかな見た目のわりに吉岡は昔から意外とせっかちだ。こんな日ぐらい、落ち着けよと内心思う。
「待ち合わせより遅くなるのは仕方がないんじゃないのか?子供が小さいんだし。それに、披露宴にはまだ時間がある。そう慌てるなよ」
なるべく穏便に事を済まそうとフォローしたつもりが、彼にはそれが通用せず却ってヤブヘビの結果に。
「フェミニストだかなんだか知らんけどお前は変なとこ、女性に理解あるよな。そのわりに結婚できないのは優柔不断なせいか?」
俺の左手のリングの経緯を詳しく知らない彼にはいつまでも結婚しないのは俺がフラフラしているせいだと思われているらしい。だから、その左手のリングに向かい、説教をされてほとほと疲れた。
「遊びたいから結婚する気がないとか勝手に決めつけるなよ。それにこのリングにはどちらかというと俺の方が縛られてる」
「は?なんだそれ?」
昔の旧友には気心が知れているせいか、つい、本音を漏らしてしまう。
「...悪い。今のはなし。忘れてくれ」
とりあえず、自分の女々しいの発言を誤魔化すために吉岡の妻子を探すふりをした。
「ほら、あの辺りにいそうじゃないか?」
「いるか?あんなとこに」
あたりを見渡すと、ちょうど宿泊客のチェックインのピークの時間帯。そのせいか、フロントに人が集まっているようだった。俺は顔をそちらに向け、先ほどの発言から吉岡の気をそらす作戦に出ると彼もつられるようにその方向を凝視する。わざわざ近くまで行って確認するのも面倒くさく、大の男2人してフロントに集まる人間を遠くから凝視する奇妙な図が出来上がったのだが。
...ん?
そんななか、人混みで気になる人間を見つける。考えるより先に身体が動くとはこの事だろう。
「悪い、用事ができた」
「おいっ!?」
さっきまでまったりと優雅に過ごしていた吉岡が戸惑うのは無理はない。だが、今の俺には説明している時間すら惜しく、その遠ざかりそうになる後ろ姿を考えなしに一目散に追いかけていた。
おそらく、この日は結婚に際して縁起のいい日なのだろう。
俺は神奈川のとあるホテルで、予定通り旧友の田山の挙式に参列していた。
挙式の参加はほぼ親族のみのようで新郎側の友人の出席は俺と吉岡くらい。そんな俺たちは目立たぬよう末席の隅で田山と花嫁の厳かな儀式を見守る。何度か挙式に参列した事はあるが、独身仲間の最後の砦と思っていた彼が結婚するのを目の当たりにすると、なかなか感慨深いものがあった。
羨ましいかといえば、そうでもない。
さみしいかといえば、それほどでも。
独身男が結婚式を見て思うことはこんな事ぐらいで。だが、今まで出席したどの結婚式よりも緊張の度合いと意味合いが違うのは、この後の披露宴で会えるかもしれない彼女を心待ちにしているせいか。だからこそ何かが胸に響いたのだと思えた。
そして、気がつくと式は終盤を迎え、片言の神父が結婚宣言をしてから、田山らは式場を神妙な面持ちで退場。式の参列者が惜しみない拍手を送り、それを見届けた。その後はブーケトスや集合写真などなどの一通りのものが行われ、披露宴までのしばしの休憩を挟む。顔見知りである両親や田山の妹は何かと忙しそうだったので、わざわざ近づく事もなく、吉岡と共に行動することにした。
とりあえず休憩がてらホテルのロビーラウンジへ。人とすれ違う度に、俺たちと似たり寄ったりの服装の人間がやたらと目につく。
....そうか、他にも結婚式が。
居心地の良さそうなソファーに腰掛けると眠気に襲われる。挙式の緊張感から解放されたせいか、欠伸が出てしまい手で口を抑えた。その一連の仕草をタバコを一服中の吉岡に目撃されてしまう。
「前の日に徹夜でもしてきたのか?」
「いや、それはない。仕事を片付けてすぐこっちに来たから」
昨日は何時もよりも早く仕事を終えその足で新幹線に飛び乗り、このホテルには昨日から前泊している。ただ、疲れ切っていた為かそのままベッドで倒れこむようにして眠りこんだ。そのおかげでスッキリと朝早く目覚め、カーテンを開けると太陽の穏やかな陽射しが部屋へと注いでいた。俺はこんな天気のいい日に二度寝は勿体ないと早朝からのジョギングを経て、今を迎えていたのだ。その一部始終を聞き終えた吉岡は酒が一滴も入っていないのに絡む絡む。
「朝からジョギングだとぉ?この優雅な独身貴族様め!」
「お前の結婚幸せ自慢よりは健康的でマシだ。これからその愛する嫁さんと娘に俺を会わせるんだろ?」
2人でお互いの無い物ねだりなような会話をしながら、到着したコーヒーをいただく。少しして吉岡が思い出したように腕時計を確認する。
「もうそろそろ、来るはずなんだが」
まだ、披露宴には時間があったのだが、吉岡の家族は披露宴から出席する予定。もう少ししたらこちらに到着するというのでここで一服しながら待っていた。ただ、待てど暮らせどくる気配はなし。
「おっそいなぁ...藤澤に会うのウチのも楽しみにしてたのに」
大らかな見た目のわりに吉岡は昔から意外とせっかちだ。こんな日ぐらい、落ち着けよと内心思う。
「待ち合わせより遅くなるのは仕方がないんじゃないのか?子供が小さいんだし。それに、披露宴にはまだ時間がある。そう慌てるなよ」
なるべく穏便に事を済まそうとフォローしたつもりが、彼にはそれが通用せず却ってヤブヘビの結果に。
「フェミニストだかなんだか知らんけどお前は変なとこ、女性に理解あるよな。そのわりに結婚できないのは優柔不断なせいか?」
俺の左手のリングの経緯を詳しく知らない彼にはいつまでも結婚しないのは俺がフラフラしているせいだと思われているらしい。だから、その左手のリングに向かい、説教をされてほとほと疲れた。
「遊びたいから結婚する気がないとか勝手に決めつけるなよ。それにこのリングにはどちらかというと俺の方が縛られてる」
「は?なんだそれ?」
昔の旧友には気心が知れているせいか、つい、本音を漏らしてしまう。
「...悪い。今のはなし。忘れてくれ」
とりあえず、自分の女々しいの発言を誤魔化すために吉岡の妻子を探すふりをした。
「ほら、あの辺りにいそうじゃないか?」
「いるか?あんなとこに」
あたりを見渡すと、ちょうど宿泊客のチェックインのピークの時間帯。そのせいか、フロントに人が集まっているようだった。俺は顔をそちらに向け、先ほどの発言から吉岡の気をそらす作戦に出ると彼もつられるようにその方向を凝視する。わざわざ近くまで行って確認するのも面倒くさく、大の男2人してフロントに集まる人間を遠くから凝視する奇妙な図が出来上がったのだが。
...ん?
そんななか、人混みで気になる人間を見つける。考えるより先に身体が動くとはこの事だろう。
「悪い、用事ができた」
「おいっ!?」
さっきまでまったりと優雅に過ごしていた吉岡が戸惑うのは無理はない。だが、今の俺には説明している時間すら惜しく、その遠ざかりそうになる後ろ姿を考えなしに一目散に追いかけていた。
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