社内恋愛はじめました。

柊 いつき

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142.turnover②藤澤視点

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田山は結婚の先輩である吉岡になんだかんだと結婚についての相談し始めてしまったので、俺は口を挟めず蚊帳の外。結婚式の会場だの、親への挨拶だのと、独身の俺には確かに話にはついていけなかった。

「結婚式はするのか?」

「うん、まぁ。披露宴もするかな。6月あたりがいいんだけど相談中。これがなかなか難しくてさ」

「あー、6月はなんか縁起がいいらしいぞ」

「そうなんだ。でも、2人とも決まったら出席してくれるんだよな?」

6月の予定は空けてくれと、もう一度念を押され、2人とも快諾。それと言うのも特に俺は遠距離だから、今回、予定を組んでくれという意味合いで早めに教えてくれたらしかった。

「場所はどこ?」

「良子の出身が神奈川だから、一応、横浜か鎌倉あたりを考えてる」

そこで、田山は『良子』と普段の呼び名を呼んでしまい、吉岡にそれを目ざとくからかわれて。

「へー、良子って呼んでるんだ。神奈川が実家なら俺に会わせろよ。俺んちに近いんだし」

「まあ、そのうちにね」

田山は吉岡には気の無い返事をして、ビールを飲みながら俺の方をチラリ。

「本当は藤澤の方に会って欲しいんだけどな」

「なんでだよ?」

「いろいろ面白いから」

そんなよく分からないことに付き合ってられるかと憮然としていたら話は、また結婚に関するものに戻り、吉岡からのアドバイスが続く。

「あちこちから呼ぶと祝儀は集まるけど収拾つかなくなるから気をつけろよ」

吉岡は自分の経験談から意外にも真面目なアドバイスをしており、それには田山も素直に頷いていた。

「本当、それ分かるわ。誰を呼ぶか揉める。良子は仕事を辞めたばかりだから会社で仲よかった子を少しは呼びたいだろうし。俺の場合は会社は2社に跨ってるけど彼女とダブる人間もいるしなぁ...」

大きなため息をついているところを見るとそれはなかなか骨の折れる作業らしい。

「面倒くさそ...」

つい興味のない俺の口が滑りシラけた風に言ってしまうと、そこに同じ苦労を経験したであろう吉岡がケチをつける。

「独身貴族は気楽で良いやね。田山、お前も幸せな結婚をして藤澤を羨ましがらせろ。命令だ」

2人してタッグを組んできて、「お前は一生独身だ」と囃し立ててくる始末。そんなの言われなくても、分かってるわ!と、心の中で反論しつつも一抹のやり切れなさが残る。

別に俺は家庭を持ちたくないわけじゃないが、優里以上で、優里以外の相手に巡り合わない。
このままだと、また、歳を重ねるごとに臆病でつまらない大人になりそうだ。

だが、ふと。

もっとつまらない人間になる前にもう少しだけ、抗ってみようか?
そんな考えが頭をもたげた。

「そういえば田山の嫁さんになる人って、ゆ...三浦さんと仲よかったんだ?」

「そうだよ、同じ課だったし。それがどうした?」

さっきまで全く興味のなかった結婚話とやらにさりげなく乗っかり、田山の動向に探りを入れると、俺の思惑は瞬く間に2人にバレてしまう。

「うわっ、藤澤、三浦さんに未練タラタラじゃん」

「こんな藤澤君、見た事ないわー。楽しー」

「うるせー、うるせー!黙れ!!」

2人の囃し立てに手で払うそぶりをみせるものの、それでも。

「悪い、田山。お前に1つ頼みがある」

「俺の貸しは高いよー(笑)」

「分かってる。後で何でもいう事を聞いてやるし、奢ってやるよ」

結局、俺の提案を面白がった田山はこちらの望みをすんなりと聞いてくれた。それには吉岡の悪ノリもあったのだが。




こんな具合に後先考えずに行動を起こしたのは、いつ以来のことだろう?
賽は投げられた。
吉と出るか凶と出るかそれは神のみぞ知るのだが、こんなに勝算のない勝負をするのは初めてだった。
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