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「リリア・ヴェルザード、ローズ嬢を階段から突き落としたのは事実か?」
 
「いいえ、違います」
 レオンハルト様の青い瞳から目を離さず断言する。後ろめたい事は一切しておりませんもの。





「アーシェス、ローズ嬢の怪我をリリアが負わせたという事実の裏取りをしたのか?」

「え、いえ。でもローズは嘘を吐く子ではないよ」

「では、リリアは嘘を吐くと?」

「え、」

 アーシェス様が少し慌て始めましたわ。
 アーシェス様とは二学年離れておりますので、三年間の学園生活で関わったとすれば一年間だけ。
 母鳥ローズさんに付いてばかりの雛鳥アーシェス様と、わたくしほぼ会話をした事ありません。


 しかも、わたくしは令嬢達の相談にお答えしていたり、現生徒会の執務のフォローなどでローズさん達とほぼ交流を交わしておりませんもの。

 ローズさんを追いかけ回し、婚約者のコーネリア様との関係が悪化しているアーシェス様がわたくしの人と成りを知るはずがない。



「レオンハルト様、俺もローズが嘘を吐くと思えない。それに怪我をした事実は誤魔化せないだろう」
 ガドウィン様の根拠の無い後押しにアーシェス様が少しホッとした顔をなされていますわね。


「ふむ、ついでだから問おう。シルヴェスト、お前の意見は?」

「・・・ローズは純真です。素直で率直に気持ちを伝えてくれます。リリアは殿下のお気持ちが離れたと思ってローズを邪魔に思い暴挙に出たと推測出来ます。ただ階段の件は今聞かされたので裏付けは必要ではないかと」




「そうか。ローズ嬢、もしリリアがローズ嬢をおびやかし虚言を吐く加害者として罰するとするならば何を望む?」 


 撓垂れ掛かるローズさんをやんわり離し、見る者を蕩けさせるような極上の微笑で問う。それなのに、ローズさんは怪訝そうに顔を顰めて



「え、何か違くない?リリアは婚約破棄からの断罪に国外追放だけど、レオンの台詞が違う。やっぱりリリアが転生者?」



 混乱されているのか、あろうことかレオンハルト様を呼び捨てにするなど周囲の強い非難の目がローズさんに寄せられておりますが、この会話に割り込む豪胆な方はいないようです。
 




「国外追放を望むのだな」

 レオンハルト様は、ローズさんの言葉から勝手に結論づけられました。




 流石に酷くないでしょうか?
 万が一、わたしが階段から突き落としたとしてもせいぜい骨折ではないでしょうか。学園にも保健医や治癒魔法を使える方はおりますし、大事に至らないと思われます。

 望む処罰が重すぎません?
 わたくし、実際口頭注意程度で何もしておりませんのに国から追放されますの?



 侯爵令嬢の婚約破棄だけでも令嬢本人と家にかなりのダメージを与えます。
 嫉妬に駆られて、男爵令嬢に怪我を負わせたという醜聞は退屈さを紛らす話として面白可笑しく吹聴される事でしょう。
 これだけでも、充分罰と思われます。
 良縁など結びたがる家もなく、もしかしたら後家にとお父様と同じ年代の方に嫁がされるかもしれません。



 わたくしの場合は家から出して貰えない気が致します。
 家族のわたくしに対する評価が異常に高いので、あの方達は喜んで閉じ込める気が何故かするのです。
 



 それにしても、恥を晒した上に国外追放なんて。
 
 国内に居られないから国外へ嫁に行けというせめてもの情けなのかしら?
 

 
 
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