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第六章
148話
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ダンジョン開発局の局長を務めているフランチシェクは、自分の執務室で書類に目を通し、サインをして決済済みの書類箱にいれ、未決済箱から次の書類を取り出してまた目を通すという、いつも通りの職務をこなしていた。
夕日が窓から差し込むようになった頃、部下の1人がやって来た。
「失礼します。2号ダンジョンで異常が発生したと現場から連絡がありました。ダンジョン拡張時の現象が急に起こったそうです」
「なに?2号は数日前に拡張したばかりではなかったか?」
「はい、6日程前に拡張が確認されておりますので、本当に拡張するのであれば予定外の拡張ということになります」
「本当ならばな。……他に異常は見られないのか?」
フランチシェクは顎に手を当てて報告に来た部下を見る。
「第一報を受けたばかりですので、他のことはまだ何も。確認のために部下を派遣いたしましたので、その者が戻れば新たな情報が得られるかと」
「そうか。では詳しいことがわかり次第報告してくれ」
「畏まりました。では失礼いたします」
部下が出て行った後、書類から目を離して窓から差し込む夕日にふと目をやる。
「そろそろグスターボ様がいらっしゃる時期だ。トラブル発生は勘弁して欲しいな……」
夕日の茜色を浴びながら僅かに感じる胸騒ぎを頭の片隅に追いやり、未決済の書類の山と向き合う。
「今は考えていても仕方がない。今日はコレを終わらせなければ帰られないからな」
書類の山が片付いたのは夜も大分更けた頃だった。
◆◇◆◇◆◇
翌日。
寝起きしている役人用の宿舎でいつも通り朝御飯を食べて出勤したフランチシェクに、昨夜の報告があった。
報告によると、夜にはダンジョンに言っていた全員が帰ってきて、その後、ダンジョンに入る事はできなくなった。
これは月に一回ある通常の拡張時と同じだ。
全ての人間がダンジョンから退出して丸1日は誰も入ることができない。
そして再びダンジョンに入れるようになると、階層が追加されているのだ。
今回も通常の拡張時と同じであれば、明日の夜にはダンジョンに入れることになるはず。
さて、ダンジョンから出てきた兵士の証言では、ダンジョン内で何かが震えた音と振動を感じたといい、それがあった後に燈籠を使うと地上に移動させられたと。
今回の事態にその音と振動が関係しているとみて間違いないだろう。
だがその音と振動が何による物なのかがわからないし、どう影響を与えるのかも予測できない。
「……再開後は偵察隊を出して中の様子を探る方がいいのか?いや、中に入るのは一般人ではなく兵士だ。ならばそこまで気を付ける必要はないな。何かあれば自分達で対応するだろう。それに、再開後は皆一斉に入っていくから、中で何かあっても十分な戦力が応援として駆けつけるだろう」
ダンジョン再開を待っていた兵士達は、解放後に一気に中に入っていく。
現在は大体同じ階で活動している兵士が多く、特に一気に中に入る為に近くで活動してる兵士も多くなる。
内部で何かあっても自分達で解決できるだろう、とフランチシェクは判断していた。
そしてその日の夜。
閉鎖されてから丸1日経過したダンジョンは再び解放された。
これは予想されていた為に特に問題にはならない。
しかしその後に報告された内容は若干問題となりそうだった。
「どういう事だ?今までそんなことにはなっていなかっただろ」
「しかし、確認作業に協力してもらった兵士の方は現在13階をメインに活動されている方です。とても嘘をつかれているとは思えません」
「うむぅ。……となる、このまま朝を迎えれば入口前で騒動になりかねん…か。よし、入り口前に事態を説明する紙を貼っておくように。それと、人員をいつもより多く配置して兵士達に対応するように」
「わかりました。ではそのようにいたします」
フランチシェクの指示を受けた部下は、早朝から役人を配置するために急いで部屋から出て行った。
それを見送り、手元にある報告書を渋い顔をしながらもう一度読み直す。
その報告書には、ダンジョンの再開を兵士に協力してもらい確認したこと。そして、入口から移動できるのは1階のみでそれ以外の階には行けない、と書かれていた。
今までは閉鎖前の階層まで行くことが可能だったのに、今回は全員1階からとなっていた。
つまり、先に進んでいたアドバンテージがゼロになったということだ。
そうなると、また1階からゴブリンを相手にしながら進んで行くしか手がない……か。
折角先に進んで利益を沢山得られていたのに、と兵士は文句を言いそうだな。
文句を言われても、こちらでどうにかできる話ではないんだがな。
でも浅い階層までは完全な地図が出来上がっているし、奥も次の階へ繋がる道はわかっているから、少し時間がかかるが直ぐに解決できるだろう。
多少は魔石等が一時的に減少するが、大した影響も出ないな。
そう考えたフランチシェクは、僅かに残っている書類に目を通して宿舎へ帰って床についた。
◆◇◆◇◆◇
翌日。
ダンジョン再開と1階から再スタートという事態に対応するために、いつも以上の役人がダンジョンで兵士の対応に当たっていた。
集まっている兵士には予め1階から再スタートと言うことを伝え、混乱しないようにした。
殆どの者は不満顔だったが、それを役人に言った所でどうにかなる訳ではないとわかっているので、特に何か言うことはなかったが、それでも数人は役人に詰め寄ることがあった。
そんな中、朝の鐘の音と共にダンジョンへの手続きを開始すると、兵士達は次々と手続きを済ませてダンジョンの中に我先にと入っていった。
フランチシェクはいつもより早い時間に執務室へ来ていた。
いつもとはちょっと違うダンジョン再開為、不測の事態に対応するためだ。
朝の鐘の音が聞こえ、ダンジョンの再開手続きの開始時刻を知らせてきた。
執務室からではダンジョンの入口は見えないが、フランチシェクは何となく窓の外に目をやった。
兵士達はまた1階からで大変だろうが、あの洞窟のゴブリンなら取るに足らない魔物だからな。
苦労する者はいないだろう。
1階から再スタートとなった兵士を多少気の毒に思いながら机に座り、今日の仕事に取りかかる。
それから1時間もしないうちに、昨夜ダンジョンの異変を知らせてきた部下が飛び込んできた。
「フランチシェク様!」
「っ!?な、何事ですか!ノ、ノックくらいしなさい」
書類に集中していたフランチシェクは、ノックもなしに扉が開けられて、一瞬ビクッ!となってしまった。
恥ずかしさと怒りで顔を赤くしているフランチシェクに、部下は構わず話を続ける。
「ダンジョンが、ダンジョンが変化しました!」
フランチシェクは部下が言っている意味がわからず聞き返した。
「解放されたら階が増えるのですから変化していて当たり前です。何を今更い ── 」
呆れた表情で話しているフランチシェクの言葉を遮るように部下が言った。
「違います!ダンジョンの内部が、道が変わっているんです。地図と全く違う道になってしまっています。それと、魔物溜まりが1階から確認されています」
魔物溜まりとは、モンスターハウスの事である。
再開したダンジョンは、内部を一新して、新しいダンジョンに生まれ変わっていた。
そしてより人間を吸収するためにモンスターハウスを増設し、階層も大幅に増やした。
なぜこのようなことになったのかというと、ドルテナがモンスターハウスで大量の人間の死体を遺棄したことに端を発する。
ダンジョンコアは己の力で月1階のペースで階層を増やしていた。
しかし本来の姿は、外部からの侵入者を吸収(取り込み)し、それを養分として拡張するしていくが、人工的に作られているダンジョンはそういった本能の部分が何故か抜け落ちていた。
だが、モンスターハウスで魔物がやられた後、その場所から大量の養分、つまり人間の死体を得ることに成功した。
コレにより、養分を効率よく摂取する方法に目覚めたダンジョンコアは、ドルテナが遺棄した死体から得た養分でダンジョンを一新させたのだ。
その結果、ダンジョン内部の通路を変更し、モンスターハウスを増やし、多少無理をすることになるが複数の階層を一気に増やすことにしたのだ。
無理をしても今まで以上に養分を摂取できると思っているダンジョンコアだったのだが、それを知る者はいない。
そうとは知らないフランチシェクは、部下からの報告に頭を抱えていた。
「このままでは魔石の量が大幅に減少してしまう。初期のように地図に協力してくれる兵士を至急募るのだ!報酬も上積みしておけよ」
「はい!」
部下は大慌てで部屋から、出て新しい地図の作製に協力してくれる兵士を確保するため、再びダンジョンに向かった。
「一体ダンジョンに何が起こったというのだ。こんなこと今まで一度も起きなかったのに。早く処理しないとグスターボ様に知られてしまうぞ」
グスターボは、ダンジョンの事に関しては全て人任せで、どのような事を研究するようになどといった指示はあまり行わない。
しかし、自分の実績に繋がることに対しては非常に神経質になる傾向がある。
グスターボは非常に短絡的な面があり、このまま行けば自分が物理的な意味でクビが飛ぶ可能性もある。
「……部下に任せてもし万が一のことがあれば取り返しが付かなくなるな。やはり渡しも行って現場で直接指揮を執る方が良さそうだ」
フランチシェクは無意識に自分の首を触りながら執務室を出て行ったのだった。
夕日が窓から差し込むようになった頃、部下の1人がやって来た。
「失礼します。2号ダンジョンで異常が発生したと現場から連絡がありました。ダンジョン拡張時の現象が急に起こったそうです」
「なに?2号は数日前に拡張したばかりではなかったか?」
「はい、6日程前に拡張が確認されておりますので、本当に拡張するのであれば予定外の拡張ということになります」
「本当ならばな。……他に異常は見られないのか?」
フランチシェクは顎に手を当てて報告に来た部下を見る。
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報告によると、夜にはダンジョンに言っていた全員が帰ってきて、その後、ダンジョンに入る事はできなくなった。
これは月に一回ある通常の拡張時と同じだ。
全ての人間がダンジョンから退出して丸1日は誰も入ることができない。
そして再びダンジョンに入れるようになると、階層が追加されているのだ。
今回も通常の拡張時と同じであれば、明日の夜にはダンジョンに入れることになるはず。
さて、ダンジョンから出てきた兵士の証言では、ダンジョン内で何かが震えた音と振動を感じたといい、それがあった後に燈籠を使うと地上に移動させられたと。
今回の事態にその音と振動が関係しているとみて間違いないだろう。
だがその音と振動が何による物なのかがわからないし、どう影響を与えるのかも予測できない。
「……再開後は偵察隊を出して中の様子を探る方がいいのか?いや、中に入るのは一般人ではなく兵士だ。ならばそこまで気を付ける必要はないな。何かあれば自分達で対応するだろう。それに、再開後は皆一斉に入っていくから、中で何かあっても十分な戦力が応援として駆けつけるだろう」
ダンジョン再開を待っていた兵士達は、解放後に一気に中に入っていく。
現在は大体同じ階で活動している兵士が多く、特に一気に中に入る為に近くで活動してる兵士も多くなる。
内部で何かあっても自分達で解決できるだろう、とフランチシェクは判断していた。
そしてその日の夜。
閉鎖されてから丸1日経過したダンジョンは再び解放された。
これは予想されていた為に特に問題にはならない。
しかしその後に報告された内容は若干問題となりそうだった。
「どういう事だ?今までそんなことにはなっていなかっただろ」
「しかし、確認作業に協力してもらった兵士の方は現在13階をメインに活動されている方です。とても嘘をつかれているとは思えません」
「うむぅ。……となる、このまま朝を迎えれば入口前で騒動になりかねん…か。よし、入り口前に事態を説明する紙を貼っておくように。それと、人員をいつもより多く配置して兵士達に対応するように」
「わかりました。ではそのようにいたします」
フランチシェクの指示を受けた部下は、早朝から役人を配置するために急いで部屋から出て行った。
それを見送り、手元にある報告書を渋い顔をしながらもう一度読み直す。
その報告書には、ダンジョンの再開を兵士に協力してもらい確認したこと。そして、入口から移動できるのは1階のみでそれ以外の階には行けない、と書かれていた。
今までは閉鎖前の階層まで行くことが可能だったのに、今回は全員1階からとなっていた。
つまり、先に進んでいたアドバンテージがゼロになったということだ。
そうなると、また1階からゴブリンを相手にしながら進んで行くしか手がない……か。
折角先に進んで利益を沢山得られていたのに、と兵士は文句を言いそうだな。
文句を言われても、こちらでどうにかできる話ではないんだがな。
でも浅い階層までは完全な地図が出来上がっているし、奥も次の階へ繋がる道はわかっているから、少し時間がかかるが直ぐに解決できるだろう。
多少は魔石等が一時的に減少するが、大した影響も出ないな。
そう考えたフランチシェクは、僅かに残っている書類に目を通して宿舎へ帰って床についた。
◆◇◆◇◆◇
翌日。
ダンジョン再開と1階から再スタートという事態に対応するために、いつも以上の役人がダンジョンで兵士の対応に当たっていた。
集まっている兵士には予め1階から再スタートと言うことを伝え、混乱しないようにした。
殆どの者は不満顔だったが、それを役人に言った所でどうにかなる訳ではないとわかっているので、特に何か言うことはなかったが、それでも数人は役人に詰め寄ることがあった。
そんな中、朝の鐘の音と共にダンジョンへの手続きを開始すると、兵士達は次々と手続きを済ませてダンジョンの中に我先にと入っていった。
フランチシェクはいつもより早い時間に執務室へ来ていた。
いつもとはちょっと違うダンジョン再開為、不測の事態に対応するためだ。
朝の鐘の音が聞こえ、ダンジョンの再開手続きの開始時刻を知らせてきた。
執務室からではダンジョンの入口は見えないが、フランチシェクは何となく窓の外に目をやった。
兵士達はまた1階からで大変だろうが、あの洞窟のゴブリンなら取るに足らない魔物だからな。
苦労する者はいないだろう。
1階から再スタートとなった兵士を多少気の毒に思いながら机に座り、今日の仕事に取りかかる。
それから1時間もしないうちに、昨夜ダンジョンの異変を知らせてきた部下が飛び込んできた。
「フランチシェク様!」
「っ!?な、何事ですか!ノ、ノックくらいしなさい」
書類に集中していたフランチシェクは、ノックもなしに扉が開けられて、一瞬ビクッ!となってしまった。
恥ずかしさと怒りで顔を赤くしているフランチシェクに、部下は構わず話を続ける。
「ダンジョンが、ダンジョンが変化しました!」
フランチシェクは部下が言っている意味がわからず聞き返した。
「解放されたら階が増えるのですから変化していて当たり前です。何を今更い ── 」
呆れた表情で話しているフランチシェクの言葉を遮るように部下が言った。
「違います!ダンジョンの内部が、道が変わっているんです。地図と全く違う道になってしまっています。それと、魔物溜まりが1階から確認されています」
魔物溜まりとは、モンスターハウスの事である。
再開したダンジョンは、内部を一新して、新しいダンジョンに生まれ変わっていた。
そしてより人間を吸収するためにモンスターハウスを増設し、階層も大幅に増やした。
なぜこのようなことになったのかというと、ドルテナがモンスターハウスで大量の人間の死体を遺棄したことに端を発する。
ダンジョンコアは己の力で月1階のペースで階層を増やしていた。
しかし本来の姿は、外部からの侵入者を吸収(取り込み)し、それを養分として拡張するしていくが、人工的に作られているダンジョンはそういった本能の部分が何故か抜け落ちていた。
だが、モンスターハウスで魔物がやられた後、その場所から大量の養分、つまり人間の死体を得ることに成功した。
コレにより、養分を効率よく摂取する方法に目覚めたダンジョンコアは、ドルテナが遺棄した死体から得た養分でダンジョンを一新させたのだ。
その結果、ダンジョン内部の通路を変更し、モンスターハウスを増やし、多少無理をすることになるが複数の階層を一気に増やすことにしたのだ。
無理をしても今まで以上に養分を摂取できると思っているダンジョンコアだったのだが、それを知る者はいない。
そうとは知らないフランチシェクは、部下からの報告に頭を抱えていた。
「このままでは魔石の量が大幅に減少してしまう。初期のように地図に協力してくれる兵士を至急募るのだ!報酬も上積みしておけよ」
「はい!」
部下は大慌てで部屋から、出て新しい地図の作製に協力してくれる兵士を確保するため、再びダンジョンに向かった。
「一体ダンジョンに何が起こったというのだ。こんなこと今まで一度も起きなかったのに。早く処理しないとグスターボ様に知られてしまうぞ」
グスターボは、ダンジョンの事に関しては全て人任せで、どのような事を研究するようになどといった指示はあまり行わない。
しかし、自分の実績に繋がることに対しては非常に神経質になる傾向がある。
グスターボは非常に短絡的な面があり、このまま行けば自分が物理的な意味でクビが飛ぶ可能性もある。
「……部下に任せてもし万が一のことがあれば取り返しが付かなくなるな。やはり渡しも行って現場で直接指揮を執る方が良さそうだ」
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