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第六章

129話

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 エルヴィスを牢から出した後、子供達を起こしに行った。
 起こした際に大きな声を出されると困るので口を塞いで1人ずつ起こしていった。
 起こされた子供はその状況に慌てていたが、同じく牢に入れられていたエルヴィスを見ると大人しくなりこちらの話を聞いてくれるようになった。
 一緒に脱出しようと話をしたが3人とも首を横に振り、ここから出ないと言ってきた。

「どうしてここから逃げないのか教えてくれる?」

 3人の中でも1番身長が高い少年が答えてくれた。

「僕たちこれがあるからここから逃げられないんだ」

 そう言って見せてくれたのは、首に浮かび上がる奴隷紋。

「ここから逃げ出すことは禁止事項として言われてるんだ。だからここから逃げ出せばこれに苦しめられることになるんだ」

 少年は忌々しげに自分の首にある奴隷紋を手でなぞった。

 主人の指示に反した行動をとった場合、奴隷紋の力により死ぬギリギリの苦しみを与え続けられてしまう。
 それから逃れるにはその行動をやめるか死ぬしかない。

「朝になると逃げ出したことがばれる。そうなると僕たちも聞かれるから喋らざるをなくなるから、逃げるなら早く行った方がいい」

 牢屋の出入り口を指差してそう言ってきた少年を、エルヴィスは苦悶の表情で見ていた。

 朝の見回りか……。
 感覚から見て、日の出までは1時間ちょっとくらいか。
 雲もあるから明るくなるまでには少し時間がかかるはず。
 ならば、その間に……。

「ねぇ、君達の主人は誰になっているの?」
「ケルッコっていう男」
「ケルッコ?ここのボス?」

 俺の問いに頷いた。

「そっか。ケルッコが継承者は誰かわかる?奴隷契約したときに、主人が死んだ時どうするかってあったと思うんだけどわかる?」

 奴隷契約には主人が誰で、その主人が死亡した際の奴隷の取り扱い方についても決めることになっている。
 因みに、リアナは俺が死亡した際は奴隷から解放されるような内容になっている。
 まぁ、その前に奴隷解放する予定だ。

「リクハルドって言ってた」
「そいつはどんな奴なの?」
「知らない。見たことないけど、ケルッコの部下とかだと思うよ。リクハルドにしておけって呼び捨てにして奴隷商人に言っていたから」

 そんな適当に決めることあるんだろうか。
 チラッとエルヴィスを見ると頷いていた。

「我が家にも奴隷がいるが、主は父になっている。もしもの時には兄が受け継ぐことになっているんだ。ここのボスなら奴隷を解放するなんて事はしないだろう。ならば部下の名前にすることは十分考えられる」

 なるほどね。
 ここは人族至上主義のヴォルトゥイア帝国だ。虐げている亜人を解放するわけがないなわ。

「先ずはケルッコか。ねぇ、ケルッコってどこにいるかわかる?」
「1番大きな建物の中にいるはず。あそこは偉い人しか入れないって言ってたのを聞いたことがあるから」

 やっぱりあの大きな建物が幹部用か。

「エルヴィスさん、ケルッコには会いましたか?」
「あぁ、そういうことか。ケルッコならここに入れられた後に会った。こういう場所を任されるだけあって体は鍛え上げられていたな」

 エルヴィスは俺が何をしようとしているのかわかったようだ。

「ただ……」
「ただ?」
「何というか、あまり近づきたくないというか、体が奴に近付くなと警告してくる気がするんだ」
「……はい?」
「いや、見た目は恐らく軍関係者で間違いないが……何と言っていいのかわからないんだ。兎に角会うのは会った」

 よくわからないが、取りあえずエルヴィスからケルッコの容貌を聞いた。
 その容貌に似た人物を捜そう。
 リクハルドはケルッコが奴隷契約の時に名前を出すくらいの人物だ。ここのナンバー2くらいの奴だろう。
 俺とエルヴィスが話を進めていると少年が何をするのか聞いてきた。

「まずケルッコを捜してリクハルドが誰なのかを聞く、聞いた後は用済みなので処分するよ。勿論リクハルドもね。その2人がこの世から消えると、君達は……」
「無理だよ!ここには何十人っているんだ。普段は普通の装備をしているけど、出かけるときはいつもと違う防具や武器を身につけてる。特にいきなり爆発する武器はヤバい。俺達もアレで逃げられなくなって捕まったんだ」

 爆発?
 あの子供が持っていたような奴か?

「爆発する武器ってどんな感じ?」
「これくらいの大きさで、見た感じガラスの玉みたいだった。手に持ってるのを見たから間違いないよ」

 3人の中で唯一の女の子が示した大きさは、ソフトボールくらいの大きさだった。
 掴まったときの状況を詳しく聞く時間的余裕はないので、どういう状況で見たのかわからないが、それが爆発物であると考えていいだろう。
 しかし倉庫か……。
 木箱は沢山あったからその中に入っている可能性もあるな。
 いや、普段からアイテムボックスに入れている可能性も……。
 それなら俺が倒した奴らの所持品の中にガラス玉があるはずだ。
 いや、全員が持っているとも限らないか……。
 どっちにしろ注意はしないといけないな。

 爆発物は兎も角、防具は同じような物が倉庫に沢山あった。
 俺はその防具をアイテムボックスから取り出して子供達に見せた。

「もしかして、出かけるときの防具はこれ?」
「そう、これこれ。なんでお兄さんが持ってるの?」
「これが置いてあった倉庫の物は根こそぎもらってきたからね。その爆発する武器はわからないけど、木箱は沢山あったからその中に混じってる可能性もある。それに、ここに来るまでにいた奴らは皆処理してきたからね。それだけの強さはあるんだよ」

 子供達は目を大きく見開いて驚いていたが、少しずつ希望が見えたのか表情に笑みが含まれるようになってきた。

「で、どうするんだ。このままここにいれば侵入者に気が付くだろう」
「はい、ですので、先ずはエルヴィスさんと子供達をこの砦から逃がします。そして申し訳ないのですが、森の中で待っていてください。武器は……これと、これ。防具はこれでいいですかね


 そう言ってアイテムボックスから奪った防具と剣、短剣をエルヴィスに渡した。
 そして雨具として外套を4人に渡した。
 子供サイズは持っていないが濡れるよりマシだろう。

「あぁ、全て持って行かれたからな、助かるよ。それで、どうやってこの砦から出るんだ?
入口にはこの辺りより多くの敵がいるぞ?」

 ここは砦の中でも山頂に近い辺りだが、ここよりも下に宿舎と思しき建物がある。
 現在は就寝中なのだろう。その辺り一帯が危険察知スキルによって真っ赤に染まっている。
 真面に出入り口から出るなんて自殺行為以外の何物でも無い。
 出るときも入ってきたところから出る。
 つまりマリンに乗ってもらうことになる。

 マリンに事前に聞いたところ、俺が乗ってきたサイズで5人共十分運べるとの事だった。

「私が入ってきた方法で出ます。ただ驚かれることと思いますがあまり言い広めないでいただけたら助かります。君達もね」
「相変わらずドルテナには秘密が多いな。よし、早速出よう。こんな所に長居はしたくない」
「では行きましょう。君達、決して俺達から離れるなよ?」

 子供達が頷いたのを確認して牢屋から出た。

 俺が歩いてきた道をそのまま逆に戻り、山側の櫓の下まで来た。
 櫓の見張りが倒されたこともまだ発覚していないようだ。
 一旦止まり、周りを見渡して危険察知に反応している者がいないか再確認し、マリンに全員で跨がるようにして乗った。

「このまま上昇します。決して驚いて声を出さないように。行きますよ。マリン、頼む」
『はい、ご主人様』

 スウッと上昇して塀の遙か上空を越えてそのまま壁を越えた。
 飛行機のないこの世界では考えられない体験をして4人は目をキラキラと輝かせていた。
 誰1人として高所恐怖症がいなかったことは幸いだった。

「ドルテナは何でもありだな……」

 と、エルヴィスが呟いていたが聞こえていないことにした。

 5人を乗せたマリンはそのまま要塞を迂回するように飛び、俺達が最初に砦を眺めた場所まで連れて来た。
 この辺りには危険察知スキルに反応する対象はいない事を確かめておく。

「雨の中申し訳ないのですが、暫くここで待機していてください」
「わかった。ここなら直ぐに見つかることもないだろう」
「はい。この辺りには魔物などもいません。しかし万が一がありますので十分にお気を付けて」
「そうだな。子供達もいることだ、気を付けよう」
「よろしくお願いします。それでは行ってきます」

 エルヴィスが腰の剣に手を添えて無言で頷くのを確認し、マリンと共に空を駆ける。
 後ろを振り向くと子供達が心配そうに手を振っているのが見えた。

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