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第六章
112話
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男の後に付いて暫く歩くと、男は冒険者ギルドに近い所で道端に立つ1人の少年に声をかけた。
「約束通りに1人連れて来たぞ。俺の武器を返してくれ」
「武器はリーダーの所まで来たら返す。付いてこい」
歩き出した少年に付いて行くと、表通りから脇道に入り、更にその脇道へと歩き続けると、やがて人通りが殆どなくなった。
すると少年が立ち止まり1つの脇道へ入るように言ってきた。
俺と男は少年が指差す道に歩いて行くと、そこは袋小路になっており、数名の男が立っていた。
「やっと連れて来たか。ん?そいつまだガキじゃねえのか?」
待っていた男達の中でも一番体格のいい男が俺を見て訝しんだ。。
「そんなことはない。確かに講習会に参加していた奴だ。ほら、約束通り連れて来たんだ。俺の武器を返してくれ!」
「こいつか?どう見てもまだ見習い冒険者にしか見えねぇぞ?」
うむ。残念ながら13歳の俺は普通なら見習い冒険者だろう。だがさっき一般冒険者になったのだが、そんなことをこの男が分かるはずもない。
「おい、おまえ一般冒険者講習会を受けてたのか?」
「受けたが、それが何か?」
「本当なのかよ。どう見ても15歳には見えんぞ?まぁいい、俺達は ── 」
「あぁ、ちょっと待て。彼に武器を返すのが先だ。それから話を聞いてやる」
男がさっさと話を進めようとするが、先に俺を連れて来た男の武器を返しもらうことが先決だ。
そうでなければこの後自由に動けないから、話の途中だが構わず声をかけた。
「ったく。人の話は最後まで聞くもんだぜ。これだから新人は、なぁ」
男が周りを見渡すと、周囲にいる男達が「そうそう」とか「だよなぁ」などと頷いている。
「あんたはこの人と約束をしたんだろ?誰かを連れて来たら武器を返すと。それならまず約束を守るべきだと思うが?約束を守らない相手と話をするつもりはこちらにはないんでな」
「っけ!話したのかよ。ほらよ、おまえんだ」
男は俺を連れて来た男へ向かって剣を鞘ごと投げた。
それを受け取った男は直ぐにこの場を去ろうとして、再び声をかけられた。
「おいおい、どこへ行く。俺達≪狼の眼≫が新人冒険者としてのイロハを教えてやろってんだ。まさか帰ろうとしてるんじゃねえよな?」
「だって、誰か連れて来たらいいって言ったじゃないか!」
「俺は、武器は返してやると言っただけだぜ?おまえとおまえが連れて来た奴は、俺達が一般冒険者としてやっていけるように手解きしてやるからありがたく受けろ」
「そ、そんなぁ」
俺を連れて来た男は、剣を抱きしめた状態でその場に座り込んでしまった。
話を聞いていると詐欺集団としか思えない。よくこいつらが捕まらずに冒険者として活動できているか不思議でならない。
「よぉし、話を戻すぞ。俺はランクEパーティーの≪狼の眼≫でリーダーをしているギーダだ。俺達は一般冒険者講習会を受けた新人に、冒険者としてのイロハを教えてやっている。今回はお前達2人だ。半年頑張ったら卒業させてやる。お礼は成功報酬の6割だ」
目の前のギーダは好き勝手なことをほざいている。
頼みもしていない事を押し付け、更に依頼の成功報酬の6割を渡せと。
よく今まで捕まらなかった物だとつくづく思ってしまった。
「さて、俺達≪狼の眼≫に手解きを受けられる名誉な奴の名前を聞こうか。おい、名前を言え」
ギーダは剣をいまだ抱えている男へ声をかけた。
「ヒッ!ア、アガペトです」
「次、隣の奴」
ギーダが俺を指差してきた。偽名でもいいかとも思ったが、後で何かあった場合、偽名を使っていたせいで変な疑いをもたれてもかなわないから、素直に教えてやることにした。
「……ドルテナだ。それで、≪狼の眼≫は何を教えてくれる?成功報酬の6割を要求するんだ、それなりの物なんだろ?」
「おい、俺は≪狼の眼≫のリーダーだぞ?冒険者ランクはDだ。新人冒険者の低ランクがランクDの俺に偉そうな口をきくんじゃねぇ。ったく、おまえには自分より上位ランク者に対する口の利き方から教える必要がありそうだな」
≪狼の眼≫のリーダーって言われてもな。そんなパーティー今まで聞いたことなかったぞ。
呆れてしまって本当に物も言えないわ。
そんなことを思っていると、ギーダは横にいた仲間に何か指示を出し、その指示を受けた仲間がおら達の前に来て1枚の紙を取り出した。
「2人共それに名前を書いて血を垂らせ」
よく見るとその紙には「パーティー申込書」と書かれていた。
これは冒険者ギルドにパーティー編成を申し込んだり、追加メンバーを申請したりする正式な申込書だ。
これに名前と血を垂らして冒険者ギルドに提出すれば≪狼の眼≫に加入したことになる。
なるほど、これを使って抜け出せないようにしてから搾り取っていたのか。
隣にいるアガペトは、絶望の眼差しでその用紙を見つめていた。
それもそうだろう。これに血を垂らした時点で搾取される側に決定されるんだ。
「俺達のパーティーに入ったら依頼を受けて来るんだ。達成したら俺達がアドバイスをしてやるから、成功報酬の6割を持って俺の元へ来い。……おい、早くしろ!」
ギーダは俺達に名前を書かせて血を垂らすように急かしてくる。
そして、それが合図であったかのように周りにいた仲間達が俺達を取り囲み、少しずつ範囲を狭めていく。
無言のプレッシャーに耐えられなかったアガペトは、急いで申込書を手に取り名前を書き始めた。
名前を書き終えたアガペトが、俺を連れて来たことで取り返せた剣を使い指先を少し切って血を出そうとした。
このままだと本当に≪狼の眼≫に入ることになってしまうので、俺はアガペトから申込書を引ったくり破り捨てた。
ギーダや周りにいた仲間達は何が起きたのが一瞬理解できず、動きを完全に止めた。
「ッ!き、きさま!何をする!」
いち早く思考を再開させたギーダが怒りの声を上げたことで、周りの仲間もまたそれぞれに動き始めた。
「入りたくないパーティー申込書だったから破っただけだ。だろ?」
事態が飲み込めず、俺の隣でホケーっとしていたアガペトに声をかけた。
声をかけられたアガペトは俺の言葉を理解すると、水飲み鳥の何倍もの早さで首を縦に振りまくった。
「入りたくないだと!この俺が、この≪狼の眼≫が指導してやろってのに。俺達の善意を受けないだと!」
ギーダが文字通り青筋を立てながら怒鳴りまくった。
「……善意って。普通善意っていうなら無償でやるもんだろ。金を巻き上げておいて善意はないだろ」
「う、うるさい!低ランクが口答えするな!」
「それは俺のセリフだ。ランクの低い、たかだかランクEのパーティーに指導を受ける必要はない」
「な、なんだとぉ!ランクFかGか知らねぇが、自分よりランクが高い相手に喧嘩を売ればどうなるか分かってんのか!」
ランクが高ければそれだけ困難な依頼もこなせるということだ。それはその人の武力が高いことを示している。
そもそも戦闘力がなければランクF以上には上がらない。
だから自分よりランクが高い相手と喧嘩なんかしても勝てるわけがない。
「それも俺のセリフだ。ソックリそのままその言葉を返すよ。人と話すときは、特に冒険者と話すときは相手のランクぐらい確認するべきだな」
「ふん!そんなことは百も承知だ。だが目の前のガキなら聞くまでもねぇだろ。人を見る目は確かなんでな。ガハハハ」
ギーダの汚い笑いに合わせて、仲間も笑い始める。
まるで小学生の学習発表会レベルだな。
……はぁ。こんな三文芝居に付き合ってる暇はない、そろそろ帰らせてもらおう。
「そうか?ならその曇った面玉を綺麗に洗った方がいいぞ。さてと、今日はこの後予定もあるからそろそろ帰らせてもらうぞ。アガペトはどうする?指導が必要なら俺よりランクが高い人を紹介するぞ?」
ルーベンはランクCだったから、連絡を取れば何とかなると思うんだけどな。
「さぁ、ここには用がないだろ?」
そう言ってアガペトを連れて歩き出そうとしたとき、鞘から剣を抜く音が聞こえた。
その音がした方を見ると、ギーダが立てた青筋を増やし、今にも頭から噴煙を上げそうなくらい顔を赤くしていた。
「おいおい、街中で抜刀するのはマズいぞ?」
「うるせぇ。なめた真似しやがって。生きて帰れると思うなよ」
「ほぉ、ランクEの冒険者がランクDの冒険者に喧嘩を売るのか?俺は買うぞ?普通なら街中で武器を使った喧嘩、いや戦闘は御法度だ。だがこれだけの人数に囲まれてたら俺は武器を使わざるを得ない。そうなると俺は罪に問われる可能性はほぼないからな。思う存分相手をしてやるぞ」
「この人数差で新人冒険者が勝てるわけないだろ!たかがランクD冒……ランクD……D……でぃー?!」
この時になって初めて俺のランクを知ったギーダは、目を丸くして掲げた剣を下に向けてしまった。
しかし、そんなこと信じられるかと思ったのか、首を左右に振って剣を掲げ尚した。
「そんなことあり得ない。嘘をつくならもう少し真面な嘘にするんだな!」
「ウソ?あれぇ、おかしいなぁ、このカードには確かにランクDと記載されてるぞぉ」
ふざけた口調で俺はカードをヒラヒラと見せびらかせた。
「お、おい、あのカードを見てこい」
ギーダの近くにいた仲間は、指示された通りに俺のカードを確認しにきた。
「このカードが目に入らぬかぁ!」
「……は?」
「あ、いや、気にしないでくれ。発作的なものだから。それよりも確認しに来たんだろ?」
1度やってみたかったんだよ、どこぞの御老公様みたいなことを。
俺の行動に呆気にとられながらもカードを確認した仲間は、小声で「嘘だろ」と呟きながらギーダの元へ帰って行った。
「おい、どうだったんだ?……ッ!間違いないんだな……そ、そうか」
仲間から俺が本当にランクDであることを告げられたギーダは、顔が青筋を立てた赤い顔から血の気の引いた青い顔へと変化させた。
「それで、どうする?ランクDの俺とやり合うか?ランクDになる為の条件くらい知ってるよな?」
ランクD、つまり対人戦を経験している冒険者。既に人を殺めることを経験している冒険者。
ランクEとDの差は、ただ単にランクが1つ違うと言うことだけではない。
そういう意味でこのランク差は大きいのだ。
「そ、その、あぁっと、あれだ、ちょっとこちらに手違いがあってようで、何というか……逃げろ!!」
「え?」
ギーダが逃げろと言った瞬間、まるで蜘蛛の子を散らすように≪狼の眼≫はバラバラに散って行った。
俺はその見事な逃げっぷりに呆然としてしまった。
本当に見事で、俺の横を抜けていく奴や仲間と協力して屋根に登ったり壁を越えて逃走したりもしていた。
そして俺とアガペトは、誰もいない袋小路の路地に2人で佇む事となった。
「約束通りに1人連れて来たぞ。俺の武器を返してくれ」
「武器はリーダーの所まで来たら返す。付いてこい」
歩き出した少年に付いて行くと、表通りから脇道に入り、更にその脇道へと歩き続けると、やがて人通りが殆どなくなった。
すると少年が立ち止まり1つの脇道へ入るように言ってきた。
俺と男は少年が指差す道に歩いて行くと、そこは袋小路になっており、数名の男が立っていた。
「やっと連れて来たか。ん?そいつまだガキじゃねえのか?」
待っていた男達の中でも一番体格のいい男が俺を見て訝しんだ。。
「そんなことはない。確かに講習会に参加していた奴だ。ほら、約束通り連れて来たんだ。俺の武器を返してくれ!」
「こいつか?どう見てもまだ見習い冒険者にしか見えねぇぞ?」
うむ。残念ながら13歳の俺は普通なら見習い冒険者だろう。だがさっき一般冒険者になったのだが、そんなことをこの男が分かるはずもない。
「おい、おまえ一般冒険者講習会を受けてたのか?」
「受けたが、それが何か?」
「本当なのかよ。どう見ても15歳には見えんぞ?まぁいい、俺達は ── 」
「あぁ、ちょっと待て。彼に武器を返すのが先だ。それから話を聞いてやる」
男がさっさと話を進めようとするが、先に俺を連れて来た男の武器を返しもらうことが先決だ。
そうでなければこの後自由に動けないから、話の途中だが構わず声をかけた。
「ったく。人の話は最後まで聞くもんだぜ。これだから新人は、なぁ」
男が周りを見渡すと、周囲にいる男達が「そうそう」とか「だよなぁ」などと頷いている。
「あんたはこの人と約束をしたんだろ?誰かを連れて来たら武器を返すと。それならまず約束を守るべきだと思うが?約束を守らない相手と話をするつもりはこちらにはないんでな」
「っけ!話したのかよ。ほらよ、おまえんだ」
男は俺を連れて来た男へ向かって剣を鞘ごと投げた。
それを受け取った男は直ぐにこの場を去ろうとして、再び声をかけられた。
「おいおい、どこへ行く。俺達≪狼の眼≫が新人冒険者としてのイロハを教えてやろってんだ。まさか帰ろうとしてるんじゃねえよな?」
「だって、誰か連れて来たらいいって言ったじゃないか!」
「俺は、武器は返してやると言っただけだぜ?おまえとおまえが連れて来た奴は、俺達が一般冒険者としてやっていけるように手解きしてやるからありがたく受けろ」
「そ、そんなぁ」
俺を連れて来た男は、剣を抱きしめた状態でその場に座り込んでしまった。
話を聞いていると詐欺集団としか思えない。よくこいつらが捕まらずに冒険者として活動できているか不思議でならない。
「よぉし、話を戻すぞ。俺はランクEパーティーの≪狼の眼≫でリーダーをしているギーダだ。俺達は一般冒険者講習会を受けた新人に、冒険者としてのイロハを教えてやっている。今回はお前達2人だ。半年頑張ったら卒業させてやる。お礼は成功報酬の6割だ」
目の前のギーダは好き勝手なことをほざいている。
頼みもしていない事を押し付け、更に依頼の成功報酬の6割を渡せと。
よく今まで捕まらなかった物だとつくづく思ってしまった。
「さて、俺達≪狼の眼≫に手解きを受けられる名誉な奴の名前を聞こうか。おい、名前を言え」
ギーダは剣をいまだ抱えている男へ声をかけた。
「ヒッ!ア、アガペトです」
「次、隣の奴」
ギーダが俺を指差してきた。偽名でもいいかとも思ったが、後で何かあった場合、偽名を使っていたせいで変な疑いをもたれてもかなわないから、素直に教えてやることにした。
「……ドルテナだ。それで、≪狼の眼≫は何を教えてくれる?成功報酬の6割を要求するんだ、それなりの物なんだろ?」
「おい、俺は≪狼の眼≫のリーダーだぞ?冒険者ランクはDだ。新人冒険者の低ランクがランクDの俺に偉そうな口をきくんじゃねぇ。ったく、おまえには自分より上位ランク者に対する口の利き方から教える必要がありそうだな」
≪狼の眼≫のリーダーって言われてもな。そんなパーティー今まで聞いたことなかったぞ。
呆れてしまって本当に物も言えないわ。
そんなことを思っていると、ギーダは横にいた仲間に何か指示を出し、その指示を受けた仲間がおら達の前に来て1枚の紙を取り出した。
「2人共それに名前を書いて血を垂らせ」
よく見るとその紙には「パーティー申込書」と書かれていた。
これは冒険者ギルドにパーティー編成を申し込んだり、追加メンバーを申請したりする正式な申込書だ。
これに名前と血を垂らして冒険者ギルドに提出すれば≪狼の眼≫に加入したことになる。
なるほど、これを使って抜け出せないようにしてから搾り取っていたのか。
隣にいるアガペトは、絶望の眼差しでその用紙を見つめていた。
それもそうだろう。これに血を垂らした時点で搾取される側に決定されるんだ。
「俺達のパーティーに入ったら依頼を受けて来るんだ。達成したら俺達がアドバイスをしてやるから、成功報酬の6割を持って俺の元へ来い。……おい、早くしろ!」
ギーダは俺達に名前を書かせて血を垂らすように急かしてくる。
そして、それが合図であったかのように周りにいた仲間達が俺達を取り囲み、少しずつ範囲を狭めていく。
無言のプレッシャーに耐えられなかったアガペトは、急いで申込書を手に取り名前を書き始めた。
名前を書き終えたアガペトが、俺を連れて来たことで取り返せた剣を使い指先を少し切って血を出そうとした。
このままだと本当に≪狼の眼≫に入ることになってしまうので、俺はアガペトから申込書を引ったくり破り捨てた。
ギーダや周りにいた仲間達は何が起きたのが一瞬理解できず、動きを完全に止めた。
「ッ!き、きさま!何をする!」
いち早く思考を再開させたギーダが怒りの声を上げたことで、周りの仲間もまたそれぞれに動き始めた。
「入りたくないパーティー申込書だったから破っただけだ。だろ?」
事態が飲み込めず、俺の隣でホケーっとしていたアガペトに声をかけた。
声をかけられたアガペトは俺の言葉を理解すると、水飲み鳥の何倍もの早さで首を縦に振りまくった。
「入りたくないだと!この俺が、この≪狼の眼≫が指導してやろってのに。俺達の善意を受けないだと!」
ギーダが文字通り青筋を立てながら怒鳴りまくった。
「……善意って。普通善意っていうなら無償でやるもんだろ。金を巻き上げておいて善意はないだろ」
「う、うるさい!低ランクが口答えするな!」
「それは俺のセリフだ。ランクの低い、たかだかランクEのパーティーに指導を受ける必要はない」
「な、なんだとぉ!ランクFかGか知らねぇが、自分よりランクが高い相手に喧嘩を売ればどうなるか分かってんのか!」
ランクが高ければそれだけ困難な依頼もこなせるということだ。それはその人の武力が高いことを示している。
そもそも戦闘力がなければランクF以上には上がらない。
だから自分よりランクが高い相手と喧嘩なんかしても勝てるわけがない。
「それも俺のセリフだ。ソックリそのままその言葉を返すよ。人と話すときは、特に冒険者と話すときは相手のランクぐらい確認するべきだな」
「ふん!そんなことは百も承知だ。だが目の前のガキなら聞くまでもねぇだろ。人を見る目は確かなんでな。ガハハハ」
ギーダの汚い笑いに合わせて、仲間も笑い始める。
まるで小学生の学習発表会レベルだな。
……はぁ。こんな三文芝居に付き合ってる暇はない、そろそろ帰らせてもらおう。
「そうか?ならその曇った面玉を綺麗に洗った方がいいぞ。さてと、今日はこの後予定もあるからそろそろ帰らせてもらうぞ。アガペトはどうする?指導が必要なら俺よりランクが高い人を紹介するぞ?」
ルーベンはランクCだったから、連絡を取れば何とかなると思うんだけどな。
「さぁ、ここには用がないだろ?」
そう言ってアガペトを連れて歩き出そうとしたとき、鞘から剣を抜く音が聞こえた。
その音がした方を見ると、ギーダが立てた青筋を増やし、今にも頭から噴煙を上げそうなくらい顔を赤くしていた。
「おいおい、街中で抜刀するのはマズいぞ?」
「うるせぇ。なめた真似しやがって。生きて帰れると思うなよ」
「ほぉ、ランクEの冒険者がランクDの冒険者に喧嘩を売るのか?俺は買うぞ?普通なら街中で武器を使った喧嘩、いや戦闘は御法度だ。だがこれだけの人数に囲まれてたら俺は武器を使わざるを得ない。そうなると俺は罪に問われる可能性はほぼないからな。思う存分相手をしてやるぞ」
「この人数差で新人冒険者が勝てるわけないだろ!たかがランクD冒……ランクD……D……でぃー?!」
この時になって初めて俺のランクを知ったギーダは、目を丸くして掲げた剣を下に向けてしまった。
しかし、そんなこと信じられるかと思ったのか、首を左右に振って剣を掲げ尚した。
「そんなことあり得ない。嘘をつくならもう少し真面な嘘にするんだな!」
「ウソ?あれぇ、おかしいなぁ、このカードには確かにランクDと記載されてるぞぉ」
ふざけた口調で俺はカードをヒラヒラと見せびらかせた。
「お、おい、あのカードを見てこい」
ギーダの近くにいた仲間は、指示された通りに俺のカードを確認しにきた。
「このカードが目に入らぬかぁ!」
「……は?」
「あ、いや、気にしないでくれ。発作的なものだから。それよりも確認しに来たんだろ?」
1度やってみたかったんだよ、どこぞの御老公様みたいなことを。
俺の行動に呆気にとられながらもカードを確認した仲間は、小声で「嘘だろ」と呟きながらギーダの元へ帰って行った。
「おい、どうだったんだ?……ッ!間違いないんだな……そ、そうか」
仲間から俺が本当にランクDであることを告げられたギーダは、顔が青筋を立てた赤い顔から血の気の引いた青い顔へと変化させた。
「それで、どうする?ランクDの俺とやり合うか?ランクDになる為の条件くらい知ってるよな?」
ランクD、つまり対人戦を経験している冒険者。既に人を殺めることを経験している冒険者。
ランクEとDの差は、ただ単にランクが1つ違うと言うことだけではない。
そういう意味でこのランク差は大きいのだ。
「そ、その、あぁっと、あれだ、ちょっとこちらに手違いがあってようで、何というか……逃げろ!!」
「え?」
ギーダが逃げろと言った瞬間、まるで蜘蛛の子を散らすように≪狼の眼≫はバラバラに散って行った。
俺はその見事な逃げっぷりに呆然としてしまった。
本当に見事で、俺の横を抜けていく奴や仲間と協力して屋根に登ったり壁を越えて逃走したりもしていた。
そして俺とアガペトは、誰もいない袋小路の路地に2人で佇む事となった。
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