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第六章
111話
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「その話は私からしよう」
応接室に入ってきた男はそう言って俺の隣に座った。
「その前に、エルベルト様、こちらが冒険者カードとなります。くれぐれも紛失されぬよう、よろしくお願いいたします。お二人のもお渡ししておきます」
男は、エルベルトとその連れにカードを渡してから俺の方へ体を向けた。
「私はこの冒険者ギルドのギルドマスター、バレリオだ」
「ギルドマスター?!」
まさかギルドマスターとは思わなかった。
ここの最高に偉い人じゃないかよ……。
何でそんな人がここにいるんだよ!っあ……目の前にもっとお偉いさんがいたわ。
「えっと、冒険者のドルテナと申します」
「ドルテナの活躍は聞いているよ。さてと、エルベルト様が仰ったドルテナのランクだが、見習い冒険者から一般冒険者に変わるときはワンランクアップする、というのは知っているね」
それは見習い冒険者になるときに聞いたし、さっき受けた講習会でも説明があった。
「はい、知っています」
「ドルテナはランクE見習い冒険者から一般冒険者になったわけだから、ワンランクアップしてランクDとなったわけだ」
「でも今回は特例ということで一般冒険者にならせてもらってます。だから適用されないのでは?」
「特例であっても決まりは決まりだ。これけらの活躍を期待しているよ、ランクDのドルテナ君」
「えっと……頑張ります」
何か一気にランクアップして、ありがたみが半減してる気がする。
こう、なんつうのかな。達成感というか、やったぁ!的な物が一切ないんだけど。
あれ?待て待て、ランクDになる時って確か……。
「あの、記憶が正しければ、ランクDになる為にはランクアップ試験があるって聞いたのですが?」
ランクDからの受けられる依頼には護衛なども含まれており、対人戦に関して試験があったはずだ。
「あるが、ドルテナ君は既にその条件をクリアしているからな」
「えっと、何もした記憶が無いのですが?」
「知っているかも知れないが、ランクDの試験は対人戦かできるかどうかだ。獣や魔物は倒せても人間相手でも同じとは限らない。それを見極めるための試験だ。君は既に対人戦を経験しているだろ?自分が行ったその行為に押し潰されている様子もない。だから条件をクリアしていると見なされた」
エルビラに関係することで対人戦、つまり人を殺したことはある。
いくら身を守るためとはいえ、前世なら人を殺すなんて考えたことなかった。
時々顔を出す○キブリでさえ嫌だったのに……。
それなのに、人を殺めても気持ちが悪くなったり魘されたりということにはならなかった。
この世界の感覚のお陰なのか、はたまた転生した際に神様がその辺りを調整してくれたのかはわからない。
兎に角、俺にとってはありがたいことだ。
「ドルテナがランクDかぁ。昔色々と一緒に遊んだドルテナがなぁ。帰ったらミルファスにも聞かせてやろう。そうだ、ドルテナ、たまにはペリシアと一緒に遊びに来い。ミルファスもペリシアと会えれば喜ぶだろう」
「エルベルト様、それは無理が……。我々のような一般市民が、領主様の御子息様や御息女様と遊ぶために館へ伺えるわけがありません。お立場をお考えください」
「何、その様なこと気にするな。今は一般冒険者のエルヴィスだ。だから問題ないだろう」
態とらしく踏ん反り返った姿を演じてるエルベルトは、今の状況を楽しんでいるようだ。
「エルベルト様……」
ったく、この人は。
エルベルトは貴族なのに、こういう所は昔から貴族らしくないんだよな。
小さい頃とはいえ、貴族と一般人が遊ぶこと自体あり得ないのに。いや、だからこそこういう風に冒険者になってみようなんて思ったのかも知れないな。
それに付き合わされている他の2人にしてみれば、たまったもんじゃないだろうが。
「そんな顔をするな。昔は2人で色んな所に行ったではないか。例えば、メ ── 」
「うわぁうわぁ!わ、わかりましたから!それ以上は言わないでください!」
「そこまで慌てるような大したことではないではないか。まぁいい、私から呼び出せば2人で来られるだろ?」
メイドさんの更衣室や浴槽の中に隠れていたりとか……。子供だから悪戯ですんだんだろうけど。
そんなことをしてたって人に知られたらヤバいよ?
でもこの人、本気で俺達兄妹を呼び出しそうだな。
「はい、その時は妹共々伺わせていただきます。では、エルベルト様、私はこの辺で失礼いたします」
エルベルトとギルドマスター、そしてエルベルトの付き添いの2人に挨拶をして応接室を出た。
カウンターにいたアビーに声をかけて、更新されたカードを受け取った。
「ドルテナさん、こちらの書類もお持ちください。これはドルテナさんが一般冒険者であることを証明するための物で、領主様とギルドマスターから渡すように仰せつかっております。一般冒険者と証明が必要なときは、こちらを証明書として提示してください」
年相応の顔立ちの俺が一般冒険者って言っても信じてもらえんわな。
こういうアフターフォローは助かるけど、何だか準備万端過ぎて怖い。別の意図とかないよね?
「用意がいいんですね……わかりました、ありがとうございます。何かの際には使用させていただきます」
「はい、そうして下さい。ただ、通常はカードに記載されている内容を疑う人はいません。カードの偽造はほぼ不可能ですからね」
それでも疑う人は疑うんだろうな。
そんなことを気にしながらアビーに挨拶をしてギルドを出た。
どこかの屋台でお昼御飯を食べてから帰ろうと思い歩き始めると、横から男に声をかけられた。
「お、おい!おまえ、一般冒険者の講習会に出ててだろ」
なんだ?知り合いにこんな顔の男はいないが……。
いや、さっきの講習会にいたような気がする。たぶんこの男だと思うけど。
男は少し緊張、というより怯えているように見える。
俺の見た目は変わった服(戦闘服)を着ているだけで、誰かを威嚇しているわけではない。
顔立ちも年相応で、コワモテ顔でもない。
「私が何かしましたか?」
「は?いや、俺は何もされてない……そうじゃなくて!さっきの講習会にいたよな!ちょっと付いてこい!」
そう言うのが早いか、男はスタスタと歩いて行く。
そして俺はその男の後を付いて行かず、当初の目的のために歩き出した。
さてと、何を食べようかな。お、あの串焼きがうまそうだな。
「すみません、これとこの串焼きを下さい」
「あいよ!大銅貨5枚だ。まいど!」
「ありがとう、いただきます。(パク、モグモグ)ん、おいし ── 」
「お、おい!おまえ!(ハァハァ)どこ行ってんだよ!ってか、なにしてんだよ!」
俺が屋台で買った串焼きを食べていると、さっきの男が駆け寄ってきていきなり文句を言ってくる。
「え?ここの屋台の串焼き美味しいですよ。ハーブが丁度良く効いていて ── 」
「そうじゃねぇよ!なんで俺に付いてこなかったか聞いたんだ!」
「なんでって言われても、僕があなたに付いて行く理由がないじゃないですか」
「おまえに用があるから来いって言ってんだから付いてくるのが普通だろ!」
「私には用がないので付いて行く必要は無いと思いますが?それでもと言うのであれば、それ相応の話し方があると思いますけどね」
「な?!ぅぐぅぉ、い、いいから来い!おまえを呼んでいる人がいるんだ!頼むから来てくれ。おまえを連れて行かなければ俺がヤバいんだよ」
最初は威勢良く喋っていた男は、最後は泣きながら俺手を両手で握ってきた。それも両膝を地面に付けて。
そんな光景を目の当たりにした人々は、何事かと足を止めてこちらを見ている。
その視線が少しずつ多くなり、ちょっとした人だかりになってしまった。
このままこの男のことを放置できなくなった俺は、仕方なく相手をすることにした。
「話を聞きますから、この手を放して立ち上がってもらえます?」
「ありがとう、ありがとう!」
男は立ち上がり握っていた腕を上下に振り出した。
話を進めるために、俺はその腕の動きを止めて握られていた手をスルッと引き抜き手元に引き戻した。
すると、男は自分が振っていた腕を急に止められたことに驚いた様子だった。
それもそうだろう。
15歳の少年とはいえ見習い冒険者として頑張ってきたのだ。それなりに筋力には自信がある。
それなのに、今まで振っていた腕がピクリともしなくなった事が信じられなかったのだ。
俺は戦闘服のチートのお陰で肉体が強化されており、これくらいのことはできるようになっていた。
「それで、いったい誰が私を呼んでいるんですか?」
「おまえ、≪狼の眼≫っていうパーティーを知ってるか?」
なんだか怪しげなパーティー名が出てきたぞ。トラブルの臭いがするんだが……。
「≪狼の眼≫?聞いたことないですね。あなたのパーティーですか?」
ギルドで依頼を受けていないから、他の冒険者のことは殆ど知らない。ましてやPTとなれば尚更だ。
「いや、俺はパーティーには入っていない。そのパーティーは、新人冒険者に冒険者としてのイロハを教える事があるんだ」
「へぇ。それは無料で?」
「いや、それが……いくらか払うことになる…んだ」
あぁ、これはあれか?大して教えもしないで金をせしめようって奴らか?
「何となくわかりました。でも何故あなたも加担しているのですか?」
「うっ。俺は嫌だって言ったんだ。でも彼奴らに武器を取り上げられて……。誰か1人連れて来たら武器は返してくれるって」
その男の腰には確かに武器はなかった。
この世界にはアイテムボックスという便利な収納スペースがある。しかしそれは容量が限られており、基本的にはお金や服、冒険者の場合は保存食や薬といった物を入れる。
勿論容量に余裕があれば武具等を入れることも可能だが、身を守るための防具を休日でもないのに身につけていない冒険者はいない。
武器はアイテムボックスに入れている人もいるが、容量が小さい人はその余裕がないはずだ。
目の前の男が武器をアイテムボックスに入れていなかった理由が容量の問題なのか、仕事に向かっていた為なのかは分からない。
しかし武器を人質に取られてしまった男は≪狼の眼≫の指示に従うしかなかったのだろう。
武器がなければ冒険者として仕事はできない。諦めて新しい武器を買うとしてもそれだけの資金に余裕がある新人冒険者はいないだろう。武具は高いんだ。
「それで私を生け贄ですか?」
「悪いとは思ったけど、他に方法がないじゃないか!」
「ハァ~。……わかりました。付いて行きますよ」
絶対面倒くさことになるんだろうなぁ。
でもなぁ、毎月誕生する新人冒険者がそういう奴らの餌食になる可能性があるなら、なんとかしなきゃいけない。
俺がする必要はないかも知れないけど……しょうがない。
「本当か!よし、付いて来てくれ。今度はどこにも行くなよ?」
男は時々後ろを振り返りながら、俺が付いて来ているのを確認しつつ歩いて行った。
応接室に入ってきた男はそう言って俺の隣に座った。
「その前に、エルベルト様、こちらが冒険者カードとなります。くれぐれも紛失されぬよう、よろしくお願いいたします。お二人のもお渡ししておきます」
男は、エルベルトとその連れにカードを渡してから俺の方へ体を向けた。
「私はこの冒険者ギルドのギルドマスター、バレリオだ」
「ギルドマスター?!」
まさかギルドマスターとは思わなかった。
ここの最高に偉い人じゃないかよ……。
何でそんな人がここにいるんだよ!っあ……目の前にもっとお偉いさんがいたわ。
「えっと、冒険者のドルテナと申します」
「ドルテナの活躍は聞いているよ。さてと、エルベルト様が仰ったドルテナのランクだが、見習い冒険者から一般冒険者に変わるときはワンランクアップする、というのは知っているね」
それは見習い冒険者になるときに聞いたし、さっき受けた講習会でも説明があった。
「はい、知っています」
「ドルテナはランクE見習い冒険者から一般冒険者になったわけだから、ワンランクアップしてランクDとなったわけだ」
「でも今回は特例ということで一般冒険者にならせてもらってます。だから適用されないのでは?」
「特例であっても決まりは決まりだ。これけらの活躍を期待しているよ、ランクDのドルテナ君」
「えっと……頑張ります」
何か一気にランクアップして、ありがたみが半減してる気がする。
こう、なんつうのかな。達成感というか、やったぁ!的な物が一切ないんだけど。
あれ?待て待て、ランクDになる時って確か……。
「あの、記憶が正しければ、ランクDになる為にはランクアップ試験があるって聞いたのですが?」
ランクDからの受けられる依頼には護衛なども含まれており、対人戦に関して試験があったはずだ。
「あるが、ドルテナ君は既にその条件をクリアしているからな」
「えっと、何もした記憶が無いのですが?」
「知っているかも知れないが、ランクDの試験は対人戦かできるかどうかだ。獣や魔物は倒せても人間相手でも同じとは限らない。それを見極めるための試験だ。君は既に対人戦を経験しているだろ?自分が行ったその行為に押し潰されている様子もない。だから条件をクリアしていると見なされた」
エルビラに関係することで対人戦、つまり人を殺したことはある。
いくら身を守るためとはいえ、前世なら人を殺すなんて考えたことなかった。
時々顔を出す○キブリでさえ嫌だったのに……。
それなのに、人を殺めても気持ちが悪くなったり魘されたりということにはならなかった。
この世界の感覚のお陰なのか、はたまた転生した際に神様がその辺りを調整してくれたのかはわからない。
兎に角、俺にとってはありがたいことだ。
「ドルテナがランクDかぁ。昔色々と一緒に遊んだドルテナがなぁ。帰ったらミルファスにも聞かせてやろう。そうだ、ドルテナ、たまにはペリシアと一緒に遊びに来い。ミルファスもペリシアと会えれば喜ぶだろう」
「エルベルト様、それは無理が……。我々のような一般市民が、領主様の御子息様や御息女様と遊ぶために館へ伺えるわけがありません。お立場をお考えください」
「何、その様なこと気にするな。今は一般冒険者のエルヴィスだ。だから問題ないだろう」
態とらしく踏ん反り返った姿を演じてるエルベルトは、今の状況を楽しんでいるようだ。
「エルベルト様……」
ったく、この人は。
エルベルトは貴族なのに、こういう所は昔から貴族らしくないんだよな。
小さい頃とはいえ、貴族と一般人が遊ぶこと自体あり得ないのに。いや、だからこそこういう風に冒険者になってみようなんて思ったのかも知れないな。
それに付き合わされている他の2人にしてみれば、たまったもんじゃないだろうが。
「そんな顔をするな。昔は2人で色んな所に行ったではないか。例えば、メ ── 」
「うわぁうわぁ!わ、わかりましたから!それ以上は言わないでください!」
「そこまで慌てるような大したことではないではないか。まぁいい、私から呼び出せば2人で来られるだろ?」
メイドさんの更衣室や浴槽の中に隠れていたりとか……。子供だから悪戯ですんだんだろうけど。
そんなことをしてたって人に知られたらヤバいよ?
でもこの人、本気で俺達兄妹を呼び出しそうだな。
「はい、その時は妹共々伺わせていただきます。では、エルベルト様、私はこの辺で失礼いたします」
エルベルトとギルドマスター、そしてエルベルトの付き添いの2人に挨拶をして応接室を出た。
カウンターにいたアビーに声をかけて、更新されたカードを受け取った。
「ドルテナさん、こちらの書類もお持ちください。これはドルテナさんが一般冒険者であることを証明するための物で、領主様とギルドマスターから渡すように仰せつかっております。一般冒険者と証明が必要なときは、こちらを証明書として提示してください」
年相応の顔立ちの俺が一般冒険者って言っても信じてもらえんわな。
こういうアフターフォローは助かるけど、何だか準備万端過ぎて怖い。別の意図とかないよね?
「用意がいいんですね……わかりました、ありがとうございます。何かの際には使用させていただきます」
「はい、そうして下さい。ただ、通常はカードに記載されている内容を疑う人はいません。カードの偽造はほぼ不可能ですからね」
それでも疑う人は疑うんだろうな。
そんなことを気にしながらアビーに挨拶をしてギルドを出た。
どこかの屋台でお昼御飯を食べてから帰ろうと思い歩き始めると、横から男に声をかけられた。
「お、おい!おまえ、一般冒険者の講習会に出ててだろ」
なんだ?知り合いにこんな顔の男はいないが……。
いや、さっきの講習会にいたような気がする。たぶんこの男だと思うけど。
男は少し緊張、というより怯えているように見える。
俺の見た目は変わった服(戦闘服)を着ているだけで、誰かを威嚇しているわけではない。
顔立ちも年相応で、コワモテ顔でもない。
「私が何かしましたか?」
「は?いや、俺は何もされてない……そうじゃなくて!さっきの講習会にいたよな!ちょっと付いてこい!」
そう言うのが早いか、男はスタスタと歩いて行く。
そして俺はその男の後を付いて行かず、当初の目的のために歩き出した。
さてと、何を食べようかな。お、あの串焼きがうまそうだな。
「すみません、これとこの串焼きを下さい」
「あいよ!大銅貨5枚だ。まいど!」
「ありがとう、いただきます。(パク、モグモグ)ん、おいし ── 」
「お、おい!おまえ!(ハァハァ)どこ行ってんだよ!ってか、なにしてんだよ!」
俺が屋台で買った串焼きを食べていると、さっきの男が駆け寄ってきていきなり文句を言ってくる。
「え?ここの屋台の串焼き美味しいですよ。ハーブが丁度良く効いていて ── 」
「そうじゃねぇよ!なんで俺に付いてこなかったか聞いたんだ!」
「なんでって言われても、僕があなたに付いて行く理由がないじゃないですか」
「おまえに用があるから来いって言ってんだから付いてくるのが普通だろ!」
「私には用がないので付いて行く必要は無いと思いますが?それでもと言うのであれば、それ相応の話し方があると思いますけどね」
「な?!ぅぐぅぉ、い、いいから来い!おまえを呼んでいる人がいるんだ!頼むから来てくれ。おまえを連れて行かなければ俺がヤバいんだよ」
最初は威勢良く喋っていた男は、最後は泣きながら俺手を両手で握ってきた。それも両膝を地面に付けて。
そんな光景を目の当たりにした人々は、何事かと足を止めてこちらを見ている。
その視線が少しずつ多くなり、ちょっとした人だかりになってしまった。
このままこの男のことを放置できなくなった俺は、仕方なく相手をすることにした。
「話を聞きますから、この手を放して立ち上がってもらえます?」
「ありがとう、ありがとう!」
男は立ち上がり握っていた腕を上下に振り出した。
話を進めるために、俺はその腕の動きを止めて握られていた手をスルッと引き抜き手元に引き戻した。
すると、男は自分が振っていた腕を急に止められたことに驚いた様子だった。
それもそうだろう。
15歳の少年とはいえ見習い冒険者として頑張ってきたのだ。それなりに筋力には自信がある。
それなのに、今まで振っていた腕がピクリともしなくなった事が信じられなかったのだ。
俺は戦闘服のチートのお陰で肉体が強化されており、これくらいのことはできるようになっていた。
「それで、いったい誰が私を呼んでいるんですか?」
「おまえ、≪狼の眼≫っていうパーティーを知ってるか?」
なんだか怪しげなパーティー名が出てきたぞ。トラブルの臭いがするんだが……。
「≪狼の眼≫?聞いたことないですね。あなたのパーティーですか?」
ギルドで依頼を受けていないから、他の冒険者のことは殆ど知らない。ましてやPTとなれば尚更だ。
「いや、俺はパーティーには入っていない。そのパーティーは、新人冒険者に冒険者としてのイロハを教える事があるんだ」
「へぇ。それは無料で?」
「いや、それが……いくらか払うことになる…んだ」
あぁ、これはあれか?大して教えもしないで金をせしめようって奴らか?
「何となくわかりました。でも何故あなたも加担しているのですか?」
「うっ。俺は嫌だって言ったんだ。でも彼奴らに武器を取り上げられて……。誰か1人連れて来たら武器は返してくれるって」
その男の腰には確かに武器はなかった。
この世界にはアイテムボックスという便利な収納スペースがある。しかしそれは容量が限られており、基本的にはお金や服、冒険者の場合は保存食や薬といった物を入れる。
勿論容量に余裕があれば武具等を入れることも可能だが、身を守るための防具を休日でもないのに身につけていない冒険者はいない。
武器はアイテムボックスに入れている人もいるが、容量が小さい人はその余裕がないはずだ。
目の前の男が武器をアイテムボックスに入れていなかった理由が容量の問題なのか、仕事に向かっていた為なのかは分からない。
しかし武器を人質に取られてしまった男は≪狼の眼≫の指示に従うしかなかったのだろう。
武器がなければ冒険者として仕事はできない。諦めて新しい武器を買うとしてもそれだけの資金に余裕がある新人冒険者はいないだろう。武具は高いんだ。
「それで私を生け贄ですか?」
「悪いとは思ったけど、他に方法がないじゃないか!」
「ハァ~。……わかりました。付いて行きますよ」
絶対面倒くさことになるんだろうなぁ。
でもなぁ、毎月誕生する新人冒険者がそういう奴らの餌食になる可能性があるなら、なんとかしなきゃいけない。
俺がする必要はないかも知れないけど……しょうがない。
「本当か!よし、付いて来てくれ。今度はどこにも行くなよ?」
男は時々後ろを振り返りながら、俺が付いて来ているのを確認しつつ歩いて行った。
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