異世界と現代兵器 ~いや、素人にはちょっと~

霞草

文字の大きさ
上 下
88 / 155
第四章

87話

しおりを挟む
 狼達との死闘を制した俺達は、生き残った喜びを噛みしめながら皆その場に座り込んでいた。

 早朝に襲撃されて数時間戦いっ放し。
 皆クタクタで放心状態だ。喜びの声を上げる気力もない。

「皆、よくやった。疲れ切っているとは思うがもう一踏ん張り頼む。このまま狼共を放置すれば他の獣や魔物が血の匂いに引き寄せられてくるかも知れん。だから死体を処理するぞ」

 今回の討伐隊リーダーを任されているルーベンが、へたり込んでいる皆を見回しながら言った。
 確かにこのままの状況はよくない。
 俺ももう一働きしよう。

「ルーベンさん、狼達は俺がアイテムボックスに入れておきます。ここで剥ぎ取りとかするより戻ってからの方が安全ですから。皆さんはマイクさん達をお願いします」
「……そうだな。すまんが頼む」

 ルーベンはそう言って倒れているマイク達を運びに行った。
 俺は辺り一面に転がっている狼の死体を片っ端からアイテムボックスへ入れていった。

 普通種も魔物も全てアイテムボックスへ入れて、残すところはあの巨大なボス狼だけとなった。
 アイテムボックスへ入れるためにボスへ近づこうとした時、ルーベンに呼ばれた。

「どうしました? あっ、イレネさん!気が付いたんですね」
「えぇ、心配かけちゃったわね」

「すまんが、彼等もアイテムボックスへ入れてやって欲しいんだが、まだ余裕はあるか?」

 ルーベンは戦死したマイク達の方へ目をやりながら聞いていた。
 普通は遺体を持ち帰ることはなく、その場で火葬や土葬をする。遺体を持って帰るほどの余裕はないのだ。

 だが今は俺がいる。

 遺族だってギルドカード1枚で家族の死を告げられるより、遺体が帰ってきた方が納得できるというものだ。

「はい、任せてください」

 そう言って地面に横たわっているマイク達をアイテムボックスへ入れた。

「後はボスを回収したら終わりです」
「そうか。俺もボスを見ておくか。今回の全ての元凶だからな」
「俺も見させてもらうぞ」

 ルーベンだけでなく皆付いてくることになった。

 イレネの足取りもしっかりしている。大丈夫そうでよかった。
 いや、怪我をしていても治療薬があれば問題ないか。

 ボスを目の前にするとその巨体さに改めて驚かされる。
 足なんて俺の体より太そうだった。

「こう間近で見ると……」
「よくこんなのを一撃で倒せたな」
「あははは。でも一発食らって頭半分ない状態でも吠えましたからね」
「……そうだったな……」

 毛皮を触ってみたり吹き飛ばされなかった牙を見たりしていた。
 このままではいつまで経っても終わらない。

「すみません、そろそろいいですか?」
「お、おお。ほれ、皆離れろよ。 よし、ドルテナいいぞ」

 ルーベンが皆をボスから離れさせてくれたのでアイテムボックスへ入れ……あれ?

「ん?ドルテナ、もう入れてもいいぞ。……どうした?」
「あ、はい。それがですね。……アイテムボックスに入らないんですよ」
「何?容量オーバーか?」
「いえ、それはないです」

 そう。容量オーバーなんてなるわけがない。俺のアイテムボックスは容量無制限だからな。
 なら何でだ?
 アイテムボックスに入れられない訳……。
 入れられない物……。
 生き物……。
 ……。
 …。

 ッ!まさか?!

 俺は慌ててアイテムボックスに入れていたアサルトライフル【FN SCAR-H】を取り出し、レバーを引いていつでも発砲出来る状態でボスの死体へ向けた。
 いや、死体と思うものへ。

 俺がいきなり武器を構えたのを見た皆は一瞬ポカンとしたが、各々武器を構えたり距離を取ったりした。

「ドルテナ?」

 ルーベンが俺を見て説明を求めた。

「アイテムボックスの容量にはまだ余裕があります。このボスのデカさくらい問題ありません。なのにこいつを入れることが出来ない。アイテムボックスに入れられない物……つまり生きている物」

 そう、ボスがまだ死んでいない可能性大。
 でも危険察知は反応していない。何故だ?

 それを聞いたルーベンは直ぐに魔物の腹に耳を当てた。

「クソ!マジかよ!!心臓の音が聞こえやがる!」

 ルーベンは魔物の胸辺りから心臓に向けて剣を突き刺した。

ー ガギン! ー

 しかし変異種と言ってもおかしくないほどに巨大化した狼の皮膚は硬く、ルーベンの剣は弾き返された。

「ッな!どんだけ硬えんだよ!おい、心臓だ!心臓を止めろ!」
「おお!」
「せい!」

 それに答えて皆が剣を突き刺したり斬りかかったりするものの、ボスの皮膚を貫けられた人はいなかった。

「ダメだ。全然歯が立たねぇ。ドルテナ、頼んだ」
「わかりました!皆さん離れてください!」
 
 FN SCAR-Hから、ボスの頭を吹っ飛ばしたアンチマテリアルライフル【Barrett M82】に持ち替えた俺は、腰だめに構えて至近距離から心臓があると思う場所へ向けて発砲。
 これだけ近ければ狙いを付けなくても外れる訳がない。

ー ダンッ!! ー

 銃声と共にボスの胸の辺りがはじけ飛んだ。
 内臓と共に……。うげぇ。

 ルーベンが掛けより直弾地点を確認している。
 すると慌てて横たわっている胴体へ登り、両手で剣を持ちそのまま下に向かって思いっ切り突き刺した。
 突き刺した地点から勢いよく血が噴き出してルーベンを真っ赤に染めた。

 何だったんだ??

 皆で凝視しているとルーベンが腕を突き上げて叫んだ。
 取ったどぉぉ!
 あ、いや、違うな。

 ボスに近けば、アンチマテリアルライフル【Barrett M82】で吹き飛ばされた胸辺りがバックリと開いており、そこから剣が刺さった心臓が見えていた。

「これは?」
「ああ、俺が見たとき心臓がまだ動いてたんだ。で、トドメを刺したって訳だ」

 頭も吹き飛ばされて(半分だけと)内蔵も吹き飛んだのに心臓が動いてたとは……。

「じゃ今度こそ死んだって事ですかね?」
「そういうこった。さぁ、ドルテナ、こいつをアイテムボックスに入れてくれ。それとベンハミン、悪いが何処か体を洗えるところはねぇか?沢でも池でもいいんだが」
「野営したところまで戻らないと無理だ。我慢してくれ」

 真っ赤なルーベンはガックリと肩を落とした。
 あれだけ汚れてたらそうもなるよな。

 さてと、俺はボスを片付けてしまおう。
 と思っていたらイレネが心臓を見ながら首を傾げている。

「どうかしましたか?」
「う~ん、ここなんだけどね。何か光ってたのよ?」

 そう言って指をさしたのはルーベンが剣を引き抜いた跡だった。
 イレネはルーベンが剣を抜いたとき、一瞬だが穴から光が漏れていたそうだ。
 何かあっても困るので、確かめるためにサバイバルナイフを取り出して心臓を切っていくと、ゴトンと眩く光り輝く玉が心臓から出てきた。
 その玉は直ぐに光を失ったがとても綺麗だった。

 ガラスのような透明の玉で、中には縦長のサファイアのような宝石が埋まっていて、猫の目のようだ。

「わぁ、綺麗~」

 イレネが宝石とも言えるような不思議な玉を抱きかかえながら、キラキラとした眼差しで見つめていた。
 大きさはバスケットボール位はありそうだ。

 どこの世界の女性も宝石には目がないからね。
 暫くイレネに持っておいてもらおう。

 俺は今度こそアイテムボックスにボスを入れて辺りを見回した。
 当初の予定や予想とは大きくかけ離れた結果になったが、ヒュペリトを脅かしていた狼の魔物は討伐できた。
 後はヒュペリトに帰ってリアナにもう一度会いに行こう。

「えっ?なに?なになに?!」

 リアナの笑顔を思い出しているとイレネが急に騒ぎ出した。
 何事かと思いそちらをみると、イレネが持っていたあの玉がまた光り始めていた。

 その光は、全てを飲み込むかのように強く光り始めた。
 光の渦はイレネを覆い隠すだけでなく、周りの景色も飲み込みながら視野を奪っていく。

「イレネ! イレネ!!」

 フレディの声が聞こえるが姿は見えない。

 あの玉はいったい何なんだ?
 もしかしてあれも魔物の何かか?!
 いや、違うな。危険察知が反応していない。

 俺も光の渦に飲み込まれ辺りの景色が全て光の中に消え、白一色の世界となったとき、ふと思い出した。

 鑑定スキルがあるじゃないか!

「か、鑑定!!」

『ダンジョンコア(破片)』

「ふへ?」

 俺の間抜けな声は誰に届くこともなく、白い闇と化した世界に消えていった。


しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...