上 下
85 / 155
第四章

84話

しおりを挟む
 俺達が狼の魔物に追い立てられて進んだ先は、山の中とは思えない位に開けた場所だった。
 サッカーコートが丸々納まるんじゃないかと思うほど広かった。

 そして俺達が森から出てきた場所の反対側には狼が待ち構えていた。
 赤いシルエットはこいつらの物だった。
 あと少し距離があるから何とか避けられるかと思っていたが、まさかこんな場所に出るなんて思ってもみなかった。
 俺達の姿は相手に視認されてしまい、今から回避行動を取っても意味がない。

 この広く障害物のない場所で待ち構えていた狼達は、群れと言うより隊と言った方がしっくりくるくらい整っていた。

 まず7~8匹の普通種を1頭の魔物が纏めている。魔物は俺達をここまで追い立てたポニーサイズとよく似ているな。
 この分隊のようなグループが7分隊。これだけで普通種約50匹に魔物が7頭。

 分隊を纏めているのが、隊の後方で一際大きな存在感を放っている魔物の狼。
 この狼がこの群れのボスであり、この隊の隊長であることは間違いないだろう。

 それはなぜか。

 そいつのサイズがあり得ない。
 前世の映画で見た人の子を娘にした真っ白な山犬のサイズなのだ。
 普通種の狼が子狼サイズに見えてしまうくらいだ。

 このボスの周りには、ポニーサイズの狼が近衛隊よろしく周りを固めている。
 距離があるからはっきりとは分からないが、15~16頭位はいそうだな。

 そんな狼隊を前に俺達は歩みを止めていた。
 そこへ俺達を追い立てていた魔物の狼約24頭と生き残っていた普通種6匹が森から現れ、立ち止まってしまった俺達を更に中央へと押しやる。

 これで前後を魔物に抑えられてしまった。

「ボヤッとするな!」

 いつの間にか武器を下に向けていた皆は、ルーベンが声を聞き慌てて武器を構え直す。

 狼のボスは、俺達の後ろに仲間が現れたのを確認して分隊長向かって顔をクイッと動かした。
 それを合図に分隊が左右へ展開し、総勢約100匹の狼は俺達を完全に包囲した。

 その統率された動きに驚きを隠せない。
 狼というよりもどこぞの軍隊みたいで、思わずヴィクターに聞いた。

「ヴィクターさん。狼ってここまで軍隊っぽい動きをするものなんですか?」
「するわけないだろ。こんな行動体系を取る狼なんて、魔物でもあり得んだろ」

 その答えにベンハミンも頷く。

「俺も初めて見た。いくら魔物って言っても所詮は獣だからな」
「となると、あの一番デカい奴のせいですかね。あれは変異種ですか?見た目普通ですけど」

 変異種というのは見た目が変わる、つまり変異するのが特徴と言われている。
 魔物は本来の姿のまま図体が大きくなる。力なんかは強くはなるが見た目は変わらないのが魔物だ。多少牙が大きくなったりするがその程度。
 目の色が真っ赤に変わるのは共通している。

「あいつが統率してるのは間違いないな。見た目は変わってねぇから魔物なんだろうが……あそこまでデカくなるほどの魔力の影響を受けてるのに変異してねぇのは気味悪いな」

 ルーベンがボスを睨みながら言ったがどうも納得してはいないようだ。
 でも纏め役がいなければ……そう思い聞いてみる。

「それならボスを倒せば他の奴らはバラバラになりますかね?」
「可能性はあるな。だけどあの一番奥に陣取ってる奴まで辿り着くのが至難の業……いや、そうか。ドルテナの武器があれば」

 そう、俺の武器の射程は長い。この距離なら狙撃可能だ。アサルトライフル【FN SCAR-H】ならスコープも付いているからいけるはず。
 俺とルーベンが話していると「それは無理だ」とルイスが否定してきた。

「なんでだルイス。この距離なら外さねぇだろうしあの破壊力だぜ?」
「そうだね。外しはしないだろうね。でもあのボスには通用しないと思う。ここまで来る間に何度か魔物に当たっていたけど倒せてないからね。それなのにあのサイズのボスに有効とは思えない」

 走りながらは発砲してたけど当たってはいたのか。俺には全くわからなかったけどルイスには銃弾が当たった事がわかったようだ。

 あの状況でわかるって凄いな。
 そういえば、女性を見たら直ぐにモッコリして飛びかかる中年の凄腕ハンターもそんなことを言ってたっけな。漫画の中の話だけど。

「ならダメか……」

 そう言ってルーベンは険しい表情を更に険しくした。

 確かに当たるのは当たったけど相手にダメージを与えられないんじゃ意味がない。
 だが俺の武器にはもっと破壊力のある奴があるんだ。現代兵器を嘗めないでもらいたい。
 
「いえ、たぶん大丈夫です」
「ドルテナが変異種を倒したときに使ったという爆発するやつかい?あれは狙いを付けにくいと言ってたよね?」

 ルイスが蛇の変異種に使ったアンダーバレル・グレネードランチャーのことを言っている。
 あれはイマイチ狙いが付けにくい。それに今回はかなり距離もあるからハッキリ言って命中させる自信はない。
 ならば命中率のいい物を使えばいいだけだ。

「はい、狙いが付けにくいのであれは使いません。なのでこれを使います」

 俺はFN P90をしまってアンチマテリアルライフル【Barrett M82】を取り出した。

「それは?」

 長方形をしているFN P90とは違ってBarrett M82は見た目が細長い。
 Barrett M82はFN P90に比べてかなり威力が高い。その為、反動も凄いので射撃姿勢は基本的に腹這い状態だ。
 しかし今の状況で腹這いになりボスを狙うのは角度的に無理があったりする。

「さっきまで使っていた奴より数段上の威力があります。その分反動が凄いので地面に置いて腹這い状態で撃つんです」
「地面に置いて腹這い?それであれを狙えるのかい?」

 同じ飛び道具を使っているルイスがボスの頭へ視線を向けながら聞いてきた。

「いいえ。残念ながら腹這いだと角度的に無理があります。なのでこれを使います」

 そう言って俺は事前に準備していた物を取り出した。
 それはどこにでもありそうな高さ1m程の机だ。
 但し、脚は何本もの木で補強され、更に筋交いもしっかりと入っており、ぐらつくことは一切ない。
 その脚とは別に斜めに支え棒のような物があり、安定感を増している。
 天板の部分も10cmの厚みがあり、表面は滑り止め処理がされていた。

 これは今回の討伐に行く前、万が一を考えて木工店で購入した。勿論こんな机はないので、既存の机に特注で補強や脚などを付けてもらった。

「なるほど。それを使っている角度を得ると」

 ルイスの言葉を聞きながら二脚を立てて滑り止め処理がされた机の上に置く。

「ええ、こんな感じです」
「ドルテナ、それならあいつを倒せるのか?」

 Barrett M82の射撃準備を横目に見ながらルーベンが聞いてくる。

「恐らくは。蛇の変異種でもこれより弱い武器で倒せたんですから」

 と言ったものの、正直不安だ。
 もしダメだったらアサルトライフル【FN SCAR-H】を乱射して手当たり次第数を減らすしかないかな。

「わかった。あのデカ物は任せたぞ。ドルテナがボスを倒した後はあの木に向かって移動。あれを壁にして狼を倒していく。いくら数がいても1度に攻撃してくる数は知れているからな」

 ルーベンが示したのは、森とこの開けた場所の境目に立っている1本の巨木だ。
 どこぞの神社のご神木かと思うほどの大きさだ。
 あの木には茶色くて大きなお口をしたフワッフワな大きな妖精はいないと思う。

 それよりも、だ。

 100匹も狼がいるとはいえ、1カ所に固まっている俺達へ同時に攻撃を仕掛けられるのは普通種で10数匹。魔物なら5頭が限界だろう。
 これなら何とかなるが、問題は時間だ。100匹近い狼を倒すには相当の時間が必要になるはずだ。
 兎に角やるしかない。

「ルーベンさん、タイミングは合わせます。ただ、かなりデカい音がするので、全員必ず耳を塞いで下さい。真面に音を聞いてしまうと当分耳鳴りがやまないので危険です」
「そんなにか?……わかった。ドルテナが狙いを付けたら俺が合図を出す。そしたら全員耳を塞げ」

 皆からわかったという言葉を聞きながらレバーを引いて装填し、約80m位離れているボスの眉間にBarrett M82の照準を合わせる。
 ボスは、動かざる事山の如しとでも言いたいのか動く気配がなく、俺達から一切視線を外さない。

 そんなボスの威圧感を感じてザワザワしている心を、大きく深呼吸をして落ち着かせる。

「ルーベンさん、いつでもどうぞ」
「わかった。……皆いいな?いくぞ……3…2…1…今!」

 ルーベンの戦闘開始の合図に合わせて皆は耳を塞ぎ、俺は引き金にかけた指に力を入れて引いた。

ー ダンッ!! ー

 俺達の死闘の開始を告げる銃声が辺り一帯に鳴り響いた。







###################################


≪お知らせ≫

GWで仕事や家庭のことでバタバタしており、書く時間が取れそうにありません。

次回更新は5月10日を予定しております。
よろしくお願いいたします。

霞草


###################################
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

社長の奴隷

星野しずく
恋愛
セクシー系の商品を販売するネットショップを経営する若手イケメン社長、茂手木寛成のもとで、大のイケメン好き藤巻美緒は仕事と称して、毎日エッチな人体実験をされていた。そんな二人だけの空間にある日、こちらもイケメン大学生である信楽誠之助がアルバイトとして入社する。ただでさえ異常な空間だった社内は、信楽が入ったことでさらに混乱を極めていくことに・・・。(途中、ごくごく軽いBL要素が入ります。念のため)

迷い人 ~異世界で成り上がる。大器晩成型とは知らずに無難な商人になっちゃった。~

飛燕 つばさ
ファンタジー
孤独な中年、坂本零。ある日、彼は目を覚ますと、まったく知らない異世界に立っていた。彼は現地の兵士たちに捕まり、不審人物とされて牢獄に投獄されてしまう。 彼は異世界から迷い込んだ『迷い人』と呼ばれる存在だと告げられる。その『迷い人』には、世界を救う勇者としての可能性も、世界を滅ぼす魔王としての可能性も秘められているそうだ。しかし、零は自分がそんな使命を担う存在だと受け入れることができなかった。 独房から零を救ったのは、昔この世界を救った勇者の末裔である老婆だった。老婆は零の力を探るが、彼は戦闘や魔法に関する特別な力を持っていなかった。零はそのことに絶望するが、自身の日本での知識を駆使し、『商人』として新たな一歩を踏み出す決意をする…。 この物語は、異世界に迷い込んだ日本のサラリーマンが主人公です。彼は潜在的に秘められた能力に気づかずに、無難な商人を選びます。次々に目覚める力でこの世界に起こる問題を解決していく姿を描いていきます。 ※当作品は、過去に私が創作した作品『異世界で商人になっちゃった。』を一から徹底的に文章校正し、新たな作品として再構築したものです。文章表現だけでなく、ストーリー展開の修正や、新ストーリーの追加、新キャラクターの登場など、変更点が多くございます。

転生鍛冶師が幸せになるまで。〜前世で不幸だったので、異世界では幸せになります〜

カムラ
ファンタジー
 ある日、日本に住む普通の学生、剣持匠真(けんもちしょうま)はとある事故で命を落としてしまった。  しかし、次に意識を取り戻した彼を待っていたのは目を見張る程の美女で……  これは前世で不幸体質だった青年が、異世界で幸せを掴み取ろうとする王道チート無双ファンタジー! ※誤字報告、明らかな矛盾点、良かったよ! 続きが気になる! みたいな感想は大歓迎です! どんどん送ってください! 逆に、否定的な感想は書かないようにお願いします。 受け取り手によって変わりそうな箇所などは報告しなくて大丈夫です!(言い回しとか、言葉の意味の違いとか) 出来る方はいいねや☆評価も積極的に送ってもらえるとめちゃくちゃ助かります! とりあえず#3まで読んでみてください! そこまでで何か思ったことがあれば感想欄に送ってみてください!

性奴隷を飼ったのに

お小遣い月3万
ファンタジー
10年前に俺は日本から異世界に転移して来た。 異世界に転移して来たばかりの頃、辿り着いた冒険者ギルドで勇者認定されて、魔王を討伐したら家族の元に帰れるのかな、っと思って必死になって魔王を討伐したけど、日本には帰れなかった。 異世界に来てから10年の月日が流れてしまった。俺は魔王討伐の報酬として特別公爵になっていた。ちなみに領地も貰っている。 自分の領地では奴隷は禁止していた。 奴隷を売買している商人がいるというタレコミがあって、俺は出向いた。 そして1人の奴隷少女と出会った。 彼女は、お風呂にも入れられていなくて、道路に落ちている軍手のように汚かった。 彼女は幼いエルフだった。 それに魔力が使えないように処理されていた。 そんな彼女を故郷に帰すためにエルフの村へ連れて行った。 でもエルフの村は魔力が使えない少女を引き取ってくれなかった。それどころか魔力が無いエルフは処分する掟になっているらしい。 俺の所有物であるなら彼女は処分しない、と村長が言うから俺はエルフの女の子を飼うことになった。 孤児になった魔力も無いエルフの女の子。年齢は14歳。 エルフの女の子を見捨てるなんて出来なかった。だから、この世界で彼女が生きていけるように育成することに決めた。 ※エルフの少女以外にもヒロインは登場する予定でございます。 ※帰る場所を無くした女の子が、美しくて強い女性に成長する物語です。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...