上 下
47 / 155
第三章

46話

しおりを挟む
「セベロさん、いいですよ」

 ワカミチ村の門での手続きが終わり、全員が馬車に乗り込んだのを確認したヘイデンさんがセベロさんに伝えた。
 それを聞いたセベロさんは馬車をミキヒに向けて走らせ始めた。

 俺達の馬車の前には定期便の駅馬車が走っている。向こうにも護衛が付いているので、2台で移動すればその分戦力も多くなるため安全度も上がる。
 そのせいか、ワカミチ村までの道中に比べ車内は賑やかだ。

 今日はヘイデンさんの隣に座っているノーラさんと俺の隣にいるパメラさんは、自然風呂の事で盛り上がっている。
 その話にヘイデンさんが巻き込まれて少し困り顔だ。

「皆さん楽しそうですね♪」
「そういうエルビラさんも楽しそうですよ」
「だってキヒキヒも何とかなりそうですし、今日は自然風呂にも入れるんですよ。観光目的の旅が出来るなんて思ってませんでしたから」

 そうだな。旅の目的は達成したも同然だ。後はミキヒで自然風呂を楽しんでいればいいだけだ。
 ミキヒまでの道も駅馬車の護衛もいるから安全だしな。
 実際に危険察知に引っかかる者はいない。

 ワカミチ村とミキヒの距離も大して離れていないようだ。休憩なしでの移動とはなるが、お昼には着くらしい。
 ミキヒに着いた駅馬車は、少し休憩をして折り返してワカミチ村へ帰る便になる。
 ミキヒからも同じように朝出て夕方に帰る便があるそうだ。

「ミキヒって自然風呂以外には何か特徴がありますか?」

 ミキヒには2泊の予定だ。温泉も楽しみだが、ずっと温泉に浸かりっぱなしもなぁ。

「そうですね……自然風呂の熱を利用した食べ物が色々ありますし、近くに湖もあって釣りも出来ますよ」

 温泉卵とか温泉饅頭みたいな物があったりするんだろうか?
 そうなると、まんま日本の温泉街だな。
 湖もあって釣りも出来る……?

「ヘイデンさん、湖で釣りが出来るってことは、街の中に湖があるんですか?」

 森や山には魔物がいてもおかしくない。だからそんな街の外でゆっくり釣りなんて出来ないはずだ。
 それでも釣りが出来るということは待ちの中に湖があるとしか考えられない。

「いえいえ、街の外ですよ。あの辺りは国境警備の軍が2日に1度のペースで魔物狩りをしています。なので湖周辺は比較的安全ですので、湖で釣りをしても大丈夫です」

 ミキヒの先には国境の街があり、そこには国境警備の軍が常駐している。
 その軍が訓練を兼ねて魔物狩りをするんだそうな。

「なら湖畔でお昼御飯なんかを食べても大丈夫そうですね」
「ええ、大丈夫ですよ。軍が訓練をしているので山賊の類もいませんよ」

 昼はピクニック、夜は温泉が楽しめるのか。
 これで俺が成人していたら、この世界の温泉街にもきっとあるであろう歓楽街も楽しめるんだろうが……ナイスバディのバニーちゃんと──

「痛っ!」

 横に座っていたエルビラさんに何故か急に思いっ切り二の腕を服の上からつねられた。

「エ、エルビラさん?つねられると痛いんですけど……」
「何か変なこと考えていたのが悪いんです!」

 歓楽街のバニーちゃんの事を考えていていたのが顔に出てたのか?思わず顔に手を当てて確認してしまった。
 しかし、女の勘はほんと怖い……ん?何で痛かったんだ?
 俺は今、戦闘服を着ているんだぞ。防御力はかなり高いはずだ。だからつねられる程度では痛みなんて無いはずなんだが……。恐るべしエルビラさん。

「別に変なことは考えてな……」
「…………………」

 言い訳をしようとした俺を、戦闘服の上からダメージを与える事が可能なエルビラさんがジト目で俺を見ている。
 そのジト目に耐えられなくなった俺は話をそらすことにした。

「あ~、そうそう、湖の回りは比較的安全らしいので、湖畔でお昼御飯を食べに行きませんか?」
「……はぁ~、分かりました。きちんとエスコートして下さいね?」
「エスコート?ですか?……頑張ります……」

 エスコートって……湖畔でお昼御飯食べるだけなんだが。
 とりあえずこれで機嫌を直してもらえたようだから良しとしよう。

 馬車は順調に進み、ミキヒの近くまでやって来た。

「お~い、見えてきたぞ」

 御者台のアダンさんの声で前方を確認すると、大きな壁に守られた街が見えた。
 ここからは見えないが街の向こう側には湖が広がっているはずだ。

「大きな街ですね」
「人口は2万人位ですが、この先にある国境の街にいる軍の支援施設なども沢山ありますから、人口に比べて街の広さは結構ありますね」

 軍の施設が多いなら警備もしっかりしているだろうな。
 この規模の街ならギルドがあるかもな……。

「ノーラさん、ミキヒにも冒険者ギルドがあるんですか?」
「あるわよ。門から少し入ったところの左にあったはずよ」

 ならばギルドに行ってミキヒに来ていることを報告しないといけない。
 エルビラさんと湖に行く前に寄らせてもらおう。 

 門での手続きも問題なく終わり、俺達はミキヒへ入る。

「ヘイデンさん、宿はどの辺りで取る予定です?」
「ここから反対側の門の近くになります。あの辺りに自然風呂のある宿が多いんですよ」

 となるとギルドからは距離があるか……。
 この後、エルビラさんと湖畔でお昼御飯を食べることにしているから、ギルドに行くのはそれからにしよう。

「ドルテナくん。ギルドはこの道の正面のあの建物よ」

 ノーラさんが俺の後ろ側を指さしてギルドの建物を教えてくれた。

「ありがとうございます。午後から顔を出しておこうと思います」

 街を進んで行くと、白い湯気が立ち上っている建物がちらほらと見えてきた。
 通りには食堂や露店が並んでおり、美味しそうな匂いを漂わせている。

「お昼時にこの香りはヤバいわね」

 俺の正面に座っているノーラさんが馬車から身を乗り出しそうな勢いで、通り過ぎる露店を恨めしそうに眺めている。
 電車に座って外を眺めている子供のようだ。
 そして結果的にその格好は俺に向けてお尻を突き出している事になるため、俺は目のやり場に困っている。
 スカートではなくズボンなのがザンネ……いや、なんでもない。

 そんな姿をパメラさんが許すはずがなく……

「ノーラ、お行儀が悪い」

 と、やはり注意した。

「だってしょうがないじゃない。お腹が空いているときにこの美味しそうな匂いを無視なんて出来る訳がないでしょ?」

 そう言って露店から漂う香りを美味しそうに鼻から息を吸い込んでいた。

「う~ん♪いい匂い。ねぇパメラ、お昼は何にする?」
「……まったく……。宿に着いてからゆっくり探したらいいでしょ」

 そう言っている間に宿泊予定の宿に着いたようだ。

「着きましたよ。皆さん降りましょうか」

 ヘイデンさんに従い馬車から降りていく。
 御者台の2人も降りたのを確認してヘイデンさんを先頭に宿へ入り部屋を取る。

「それではお客様方、館内のご説明をさせていただきます。まずお食事は── 」

 食堂や風呂の場所等の説明を受けた後、部屋へ案内してもらった。
 造りはこの世界の物だが、日本の旅館と同じ様なシステムのようだ。

「さてと、エルビラさんに声を掛けて湖まで行こうかな」

 折角案内してもらった部屋だが直ぐに出てエルビラさんを迎えに行く。
 湖畔でお昼御飯をする約束をしているからな。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜

月風レイ
ファンタジー
 グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。  それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。  と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。  洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。  カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

異世界に転生したのでとりあえず好き勝手生きる事にしました

おすし
ファンタジー
買い物の帰り道、神の争いに巻き込まれ命を落とした高校生・桐生 蓮。お詫びとして、神の加護を受け異世界の貴族の次男として転生するが、転生した身はとんでもない加護を受けていて?!転生前のアニメの知識を使い、2度目の人生を好きに生きる少年の王道物語。 ※バトル・ほのぼの・街づくり・アホ・ハッピー・シリアス等色々ありです。頭空っぽにして読めるかもです。 ※作者は初心者で初投稿なので、優しい目で見てやってください(´・ω・) 更新はめっちゃ不定期です。 ※他の作品出すのいや!というかたは、回れ右の方がいいかもです。

処理中です...