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エピローグ

さよなら世界2

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『私がここに残ったとして……。春陽はいつまで私と一緒に歩いてくれる?』
「えっ……」
『置いて行かないでよ、私を残して春陽一人だけ大人にならないでよ。取り残される寂しさなんて、生きている間だけでもう十分なの。いつか、春陽だけが大人になってしまう、それは止められないんだよ』

 項垂れるように唇を噛み、ギュッと拳を握って言いたいことを考えているそぶりを見せる春陽。
 昔なら絶対にそんな顔しなかったよね。
 シクシクと泣き続けて私が折れるのを待つぐらい、したたかな面も持ってたもの。
 でも、それは全て春陽の寂しさが成せたこと。
 強く、なったね。私の気持ちを考えてくれる春陽がまた一回り大人びて見えてくる。
 この先、春陽に寄り添って行くことはできるかもしれない。
 ある程度のアドバイスや励ましなんかもできるかもしれない。
 でも、それは自らが体験したことや、想像の範囲内のこと。
 男子と付き合ったことさえない私には、この先訪れるだろう春陽の恋バナに全力で相づちを打って行けるのか? と考えたら、それはできないだろうなとも思った。
 うん、少しの悔しさもそこには混じるだろうし。
 ましてや、大学・就職・結婚・子育てなんて、いつかの未来でしかなく、まだまだ薄ぼんやりとしていたから。
 流れる沈黙の重さの中、ようやく春陽が口を開いた。

「側にいて欲しいと願うのは……、私の勝手だってことわかってたよ。夏月が突然現れたんだから、このまま一緒にいることを願うのなんて無理やりだってことも。だって寂しかったから。夏月は私に置いて行かれるって思ったかもしれないけど、私だって同じだよ! 夏月が成仏しちゃうってことは、私を置いて別の世界へ旅立っちゃうってことだもん。心細いの、とっても。離れて暮らしていても生きてるだけで、夏月の存在をいつも感じられた。今、こんな形でも側にいるだけで、強くなれた気がした。やっと夏月のお姉ちゃんらしいこと、できてきたかもって……、でもそれが夏月の重荷になってしたなんて……」
『全てが重荷なんかじゃないよ、春陽のおかげでずい分救われたもの』

 マルとのユニットの存続を決めてくれたのは春陽だ。
 美織との友情を再確認してくれたのも春陽。
 カナやアヤたちに、私が言いたいことをぶちまけてくれて、ほんの少し彼女たちに反省の気持ちを抱かせてくれたのは春陽。
 心配だったママとの関係を乗り越えたのも春陽自身で、だからきっとこの最後の問題も解決できるはずでしょう。

『いつ成仏できるか、なんてわからないよ。急にいなくなるかもしれないけど、もしかしたら一年二年先かもしれない。でも、その時は春陽に笑って見送ってほしい』
「笑えない」
『笑ってよ、必ずまた会おうねって。それが私の最後の願い、またいつか春陽の側で生まれ変わりたい。できれば、また双子としてだけど、そうじゃなくとも何らかの形で。目印にホクロはそのままにって神様にお願いしとく』
「……、すぐ気づいちゃうじゃん」

 想像した春陽がクスクスとまた泣き笑う。

「笑顔で見送るのは難しいよ。だって私にとっては夏月とのしばしの永遠になるもの」
『それはお互い様、だけどまた生まれ変わるチャンスがあるならば、とっとと成仏しておかなくちゃ』

 同じ顔をして笑い合い見つめ合った。
 ねえ、春陽。私の姉があなたで良かった。
 臆病だけど、優しくて素直で、だけどとっても強い人。
 私のお姉ちゃんで生まれてくれてありがとう。

「私の妹が夏月で幸せだったよ」

 最上級の送る春陽の言葉と笑顔に満足し、頷いた。
 身体の芯から温まるような感覚に包まれた私には、天国への階段がようやく見えた気がしたんだ。
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