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エピローグ

さよなら世界1

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『春陽は、そんなに私が成仏するのに反対なの?』
「また、その話? この間も言ったけど大反対! 断固反対!」

 風呂上り、自分のベッドの上に腰かけた春陽は不機嫌そうな顔を私に向ける。
 それは、さっき見たパパやママとはまるで正反対の顔。
 いや、マルや美織だって、どっちかというとパパやママ寄りだと思う。
 どうか安らかに眠れますように、そう祈ってくれてるはずだと思うけどなあ。
 
『ねえ、春陽。春陽はそれでいいかもしれないよ?』

 どういう意味かと問うように仏頂面のまま首を傾げた春陽は、黙って私の話を聞いている。

『春陽は、何か相談があったり愚痴りたい事や応援して欲しいことがあれば、きっとこの先も真っ先に私に話してくれると思う』

 そうだろうね、と頷く春陽に私は続けた。

『例えばこの先、どんな大学に進もうか、とか。好きな人ができた、とか』

 好きな人と言った瞬間、明らかに目が空中を泳ぐのは、なにか心当たりがあるからだろう。
 私はそれに気づかぬふりを決め込んで、また話しはじめる。

『就職先、結婚相手や子供の人数、子育てで悩んだり、そういうの春陽のことだもん。全部私に言ってくるでしょ? それで私も相談されたらきっと必死に考えるとは思うの。春陽がどうしたら幸せになれるかって』
「もしかして……そういうのが重荷だった?」
『ううん、重荷じゃない。きっと楽しいだろうなって思う。でもその反面で、寂しくなると思うの』
「寂しい……?」
『そう、だって……、私は春陽と共に年を取れない永遠の十六歳だから』

 グニャリと春陽の顔が歪む。
 春陽はちゃんと気づいてた、そうだよね?

『春陽が幸せになっていくのが嬉しい反面、自分はいつまで経っても変わらなくて。そのうち大人になってく春陽の思考にも、いつかきっとついていけなくなる。だって、心もきっと十六のままだから。ずっと側で応援していたい、だけどそれが苦しかったりもするんだよ』

 春陽は何度も首を振り、理解できないフリをする。
 私が離れていくのはイヤなのだと必死でアピールをした春陽に、告げなければいけない。

『私の未練の九割は、春陽が叶えてくれた。きっと、最後の一割も春陽じゃなきゃ叶えられないと思うの』

 わかりたくなどないのだ、と春陽は顔を覆って静かに泣いている。
 春陽、お願いだから顔を上げて私の話を聞いて。
 そして、叶えてほしいの。
 私に残るたった一つの憂いを――。
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