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12.側にいて
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「なんの話してたの?」
パパとママの真ん中に座った春陽が、私の遺影に手を合わせるのはわざとだろう。
「これからの話だよ」
パパの言葉に、ふうんと頷いた春陽は。
「もしかして、パパとママって再婚するの?」
まさかの直球によけ切れなかったパパもママも言葉に一瞬詰まっている。
でもママはすぐに首を横に振った。
「パパはいい人だし、大好きだけど、まずはお友達からで」
「そうなんだよ、実は今ちょうど振られたとこ」
「え、振られちゃったの?」
驚く春陽を前にして、パパとママは声を出して笑っている。
振られたとか言ってるのに、なんて明るい元夫婦だろう。
「ママね、まずは九月から時短で職場復帰することにしたの」
「そうなんだ……、もう大丈夫?」
「わかんない。春陽が長野に戻った後は、どうなっちゃうのかなって実はずっと不安だったんだけどね」
春陽は申し訳なさそうに俯く。
でも、私は知ってるよ。
春陽はずっと悩んでいたんだ。
ママのために東京の高校に転校した方がいいんじゃないかと悩んでいたけれど、結局は高校だけは長野でと決めたんだ。
途中からだと春陽自身も不安だろうし、私もそれでいいと思った。
ただ、春陽同様ママのことは心配で、だからこそパパと再婚したらいいのに、って思ってたのに。
振られるなんて、不甲斐ないなあ。
ヘラヘラ笑っているパパが可哀そうになったけど。
「なので、パパは月の半分を東京で仕事しようかなって思ってる。もちろん、春陽のことも心配だから長野にも戻るけどね」
「それって」
「再婚はもう少し先かな。春陽が大学生になる頃に。ね、ママ」
「そうね」
微笑み合う二人に、春陽は「そっか」と微笑んで私を見る。
「夏月も喜んでるよ」
『もちろん』
ずっと夢見てた、いつかまた四人で暮らせる日のことを。
だから、私が幽体という多少いびつな形ではあったけれど、家族四人で暮らしたこの二週間ほどの日々が幸せで、かけがえのないもので――。
「夏月……」
ママが私の遺影を胸元に抱く。
まるでママに抱っこされてるようでくすぐったい気分。
パパは、手を伸ばしその遺影を撫でてくれる。
小さいころもよくこうして頭を撫でてもらったよね。
「もう、空の上なのかしら」
寂しそうにつぶやいたママに。
「ああ、きっと」
パパも静かにうなずいた。
春陽だけは、二人に同意することもなく、ただじっと悲しそうに私を見つめて、小さく首を横に振っていた。
自分だけは、私が成仏することは決して望まないぞと宣言するように。
パパとママの真ん中に座った春陽が、私の遺影に手を合わせるのはわざとだろう。
「これからの話だよ」
パパの言葉に、ふうんと頷いた春陽は。
「もしかして、パパとママって再婚するの?」
まさかの直球によけ切れなかったパパもママも言葉に一瞬詰まっている。
でもママはすぐに首を横に振った。
「パパはいい人だし、大好きだけど、まずはお友達からで」
「そうなんだよ、実は今ちょうど振られたとこ」
「え、振られちゃったの?」
驚く春陽を前にして、パパとママは声を出して笑っている。
振られたとか言ってるのに、なんて明るい元夫婦だろう。
「ママね、まずは九月から時短で職場復帰することにしたの」
「そうなんだ……、もう大丈夫?」
「わかんない。春陽が長野に戻った後は、どうなっちゃうのかなって実はずっと不安だったんだけどね」
春陽は申し訳なさそうに俯く。
でも、私は知ってるよ。
春陽はずっと悩んでいたんだ。
ママのために東京の高校に転校した方がいいんじゃないかと悩んでいたけれど、結局は高校だけは長野でと決めたんだ。
途中からだと春陽自身も不安だろうし、私もそれでいいと思った。
ただ、春陽同様ママのことは心配で、だからこそパパと再婚したらいいのに、って思ってたのに。
振られるなんて、不甲斐ないなあ。
ヘラヘラ笑っているパパが可哀そうになったけど。
「なので、パパは月の半分を東京で仕事しようかなって思ってる。もちろん、春陽のことも心配だから長野にも戻るけどね」
「それって」
「再婚はもう少し先かな。春陽が大学生になる頃に。ね、ママ」
「そうね」
微笑み合う二人に、春陽は「そっか」と微笑んで私を見る。
「夏月も喜んでるよ」
『もちろん』
ずっと夢見てた、いつかまた四人で暮らせる日のことを。
だから、私が幽体という多少いびつな形ではあったけれど、家族四人で暮らしたこの二週間ほどの日々が幸せで、かけがえのないもので――。
「夏月……」
ママが私の遺影を胸元に抱く。
まるでママに抱っこされてるようでくすぐったい気分。
パパは、手を伸ばしその遺影を撫でてくれる。
小さいころもよくこうして頭を撫でてもらったよね。
「もう、空の上なのかしら」
寂しそうにつぶやいたママに。
「ああ、きっと」
パパも静かにうなずいた。
春陽だけは、二人に同意することもなく、ただじっと悲しそうに私を見つめて、小さく首を横に振っていた。
自分だけは、私が成仏することは決して望まないぞと宣言するように。
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