上 下
85 / 89
12.側にいて

12-8

しおりを挟む
【春陽ちゃん、アーカイブ確認してみて! 再生回数、すごいよ】

 その夜、美織からの知らせで、私と春陽は異変に気付く。 
 美織には、生配信の前日に春陽が連絡をしていたのだ。
 私がHarukaとして活動していたこと、Maruとユニットを組んでいたこと。
 そして春陽が自分の代わりに、一度だけ、Harukaとして私の作った最後の曲を歌うこと。
 もちろん、最初は私、美織に伝えるのはイヤだって反対したけど、春陽は真剣な顔で言った。
「美織ちゃんだって、夏月の歌声、ずっと聴いていたいと思う」
 春陽の言う通り、教えた直後に美織はネット上で私の歌声を拾いまくったようで。
【ありがとう、春陽ちゃん。夏月だった。夏月の歌声だった、もう聴けないと思ってたから、めちゃくちゃ嬉しい】
 泣き顔のスタンプ付で、届いた美織からのメッセージに苦笑する私を見て、春陽はほらねと勝ち誇ったようにニッコリ頷いていた。

「う、うわ、なんかすごいことになってる!」

 美織の言う通り、アーカイブに再生回数がすごいことになっていた。
 今までに見たことのない七十万再生に、嬉しくてコメント欄を確認していたら。

「んんん?」
『うっ、事故配信になってた?』

 配信のアーカイブの再生回数が伸びてしまっていたのは、どうやら私のせいだった。

【Harukaちゃんが時々二重に見えてた】
【声も二重に聞えなかった? バグ?】
【いや、夏だから、もしかして】
【あれか、まさかの心霊現象】
【亡くなったファンが配信にのっかっちゃったとか】

 ネット上では大騒ぎ、それが広がったからか一気に再生回数が上がったのである。
 ちなみに亡くなったファンじゃなく、本人だから! 
 それ知ったら色んな意味で悲鳴が上がるだろう。

『霊感強い人には、私の姿視えたのかな?』
「パパやママにも視えたことないのにね」
『マルや美織もね』

 ねえ、なんて笑いながら春陽は遅いシャワーを浴びに階下へと降りる。

「どっちかな? 起きてるの」

 もう二十三時も回るというのに、リビングの明かりが漏れていた。
 春陽が開けた先には、和室の私の遺影の前で談笑しているパパとママの姿があって。
 春陽に気づくと二人ともほほえんで手招きをする。

「なに? まだ寝ないの? 二人とも」
「うん、今ね、夏月に話しかけてたの」
『いや、私、何も聞いてないけど?』

 口を挟んだ私に苦笑して夏月が二人の元に近づいた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

彼氏と親友が思っていた以上に深い仲になっていたようなので縁を切ったら、彼らは別の縁を見つけたようです

珠宮さくら
青春
親の転勤で、引っ越しばかりをしていた佐久間凛。でも、高校の間は転校することはないと約束してくれていたこともあり、凛は友達を作って親友も作り、更には彼氏を作って青春を謳歌していた。 それが、再び転勤することになったと父に言われて現状を見つめるいいきっかけになるとは、凛自身も思ってもいなかった。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました

フルーツパフェ
大衆娯楽
 とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。  曰く、全校生徒はパンツを履くこと。  生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?  史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

拝啓 私のことが大嫌いな旦那様。あなたがほんとうに愛する私の双子の姉との仲を取り持ちますので、もう私とは離縁してください

ぽんた
恋愛
ミカは、夫を心から愛している。しかし、夫はミカを嫌っている。そして、彼のほんとうに愛する人はミカの双子の姉。彼女は、夫のしあわせを願っている。それゆえ、彼女は誓う。夫に離縁してもらい、夫がほんとうに愛している双子の姉と結婚してしあわせになってもらいたい、と。そして、ついにその機会がやってきた。 ※ハッピーエンド確約。タイトル通りです。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。

処理中です...