【完結】さよなら、私の愛した世界

東 里胡

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12.側にいて

12-7

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 春陽の作った歌詞は、私のものと人称を合わせて、そのまま採用した。
 いつしか、私も春陽の声に合わせて歌っていた。
 春陽もそれに気づいていたみたい。
 春陽も私も、そしてハモっていたマルまでが感極まって最後は泣いていた。
 キーボードがまた雨音のように静かに音を響かせて、部屋の中にその余韻が残る。

「ありがとう、ございましたっ」

 マルが頭を下げると春陽もそれに合わせて、それから。

「聴いてくれて本当にありがとうございました!」

 いつの間にか、リスナーが三千人を超えていた。
【アーカイブ、絶対残してください!】
【めっちゃいい曲だった、泣いた】
【すぐ、もう一回聴く! Harukaちゃん、Maruさん、ありがとう! 元気でた】
【明日も生きれる、ありがとう、推し!】
【最高です、もう一曲聴きたい、聴かせて】

 マルはコメントをチェックして、何度も「ありがとう」と感動して泣いている。

【そういえば、曲のタイトルは?】

「あれ……、タイトル」
「ですね、タイトル決めてません」
『なんで、それに気づかなかった!?』

 私の呟きに春陽はクスクス笑いだし、マルも釣られて噴き出した。

「今、俺が決めてもいい?」

 マルの声に春陽が頷く。

「【Dear……】ってどう?」
 
 Dear――親愛なるものへ――
 春陽は、何度も頷いている。
 リスナーも拍手のスタンプをたくさん送ってくれて、マルは照れくさそうに笑った。

「えっと、ここで皆さんに大事なお知らせがあります」

 そう、今日でHaruka feat. Maruの終了を告げる。
 マルは最初からそう決めて、春陽に最後の一回をお願いしたのだ。
 リスナーのコメントがざわついていた。
【やだ、なんか聞きたくない】
【なんで? 違うよね?】
 マルの真剣な声に嫌な予感が漂ってしまったみたい。

「あ、あの、ですね!」

 マルの挨拶を遮るように春陽が手を挙げる。

「次回の配信は、まだ未定です。だけど、必ず近いうちに又Haruka feat. Maruは、皆さんにお会いしたいと思いますので、でいい、かな?」

 春陽の声にマルは何度も何度も大きく頷いて。

「じゃあ、また次回! また生配信もいつかしたいと思いますので、その時はよろしくね」

 手を振りリスナーからのお別れの声を見届けつつ、配信を終わらせたマルはめちゃくちゃ泣いていた。

「ありがとう、春陽ちゃん。本当に、ありがとう。俺、まだ続けられるなんて思わなくて」

 感極まったマルは、思いきり春陽を抱きしめた。
 真っ赤になった春陽が、私の方を見てワタワタしていたから。
 今度は私が背中を向けて『どうぞ、ごゆっくり』と手を振り練習室の外に出る。
 早く自分の気持ちに気づきなよね、なんて笑いながら。
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