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12.側にいて

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 私の昔話を聞いた春陽の頬に涙が光っている。
 マルからも一度聞いていた話だろうけど、あの日私も救われたんだ。
 自信なんかなくて、どこにいても一人な気がして、歌うことで自分を保っていた。
 ここにいるの、私は存在してるの、誰か私に気づいて、お願い私を救ってほしい。
 その声が届いたのがマルだったんだ。

『春陽、もし……今日の配信を楽しんだなら、またHarukaとしてマルと活動してってくれないかな?』

 聞こえているはずの春陽は、何も言わずにマルに気づかれぬように汗を拭くみたいに、涙を止めていた。

『マルはさ、ああ見えてまだクラスにあまり馴染めてないし、私と活動してから髪の毛も染めて、それでまた浮いちゃったし。夏休み明け、大丈夫かちょっと心配なんだよね』

 春陽は、それでも私に反応を示さず、目の前にある時計を見あげて、配信までの時間を確かめていた。
 今は集中したいってことだろうか。
 春陽の側を離れ、今度はマルの隣に座って様子を見てみることにした。
 ずっと一人でやってきた私に、一緒に組んでくれって何度も頭を下げてきたマルと活動できたのはほんの二ヶ月だけだ。
 一緒に演奏したら、楽しくて、合唱部で皆と息が合った時のことを思い出したっけ。
 マルは元々器用な人なんだろうな。
 ギターも初心者とは思えないくらい上手だったし、曲も作れた。
 まだ三曲だよ? 私がマルに作ってもらった曲は……。
 もっともっと歌いたかったよ『夏月、最高!』って、また褒めて欲しかった。
 マルに褒められるのが、いつしかめちゃくちゃ嬉しくなって。
 一緒にこうしているとドキドキしてた。
 でもね、わかってたんだ。
 マルは、私のこと相棒としてしか見てないってこと。
 尊敬と敬愛で接してくれても、そこにあるのはLikeでLoveじゃないってことも。
 だから私も言わないでおこうって思ってた。
 ずっとマルと一緒に活動していきたいから。
 ずっと、活動していきたかったんだよ、マルの相棒として。
 ギターを弾く指先も、笑うとエクボの出る人懐こい顔も。
 低い声も、キレイな横顔も、一番近くで見ていたかったんだ。
 気付くと春陽はヘッドフォンを装着して、背中を向けたまま歌っている。
 まるで何も見てないよ、そう言っているみたいに。
 少しだけ欲を出してもいいかな、生きている頃はブレーキをかけていた自分の想いを。

『好きだったんだ、マルのことが』

 何も気づかないマルの薄い唇に、そっと半透明なキスをする。
 感触のないファーストキスに春陽に気づかれぬように泣き笑いして。

『あーあ、大好きだった』

 そう言って笑った。
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