80 / 89
12.側にいて
12-3
しおりを挟む
「やば、春陽ちゃん! 見て、これ!」
白いフード付きパーカース姿のマルが春陽に両手を見せる。
「マルさん、同じくです、ホラ」
春陽もまたマルに自分の両手を見せた。
ああ、同じだね、二人の指先がガタガタと震えていることに気づき、噴き出す私。
「俺よか、震えてんじゃん」
クスッと笑ったマルが、春陽の手を両手で包んだ。
不意打ちを食らった春陽が手を引っ込めることもできず凍り付くように固まり目を丸くしている。
「大丈夫、大丈夫、俺たちはきっとうまくやれる」
「うっ、自信ないです」
「俺もないけど、大丈夫! きっと、夏月が見守ってくれてるから」
マルの笑顔に春陽が頬を紅潮させて何度も頷く。
「絶対、見てますから! 夏月、側にいますから!」
今度は春陽がマルの手を強く強く握り返して興奮したように伝えたら、マルはニッと笑って。
「うん、いるね! 春陽ちゃんといると、いつも夏月を感じる。多分、あれだ。今頃『あんた達、震えてる暇あんの? 生配信まで時間ないよ』って急かしてるかも」
『そうだね、時間ないと思うけど?』
春陽が私の声に弾かれるように、マルから離れて。
「そうです! 練習です、練習! まだ、私うまく弾けない箇所があるんで自主練します!」
「だ、だね! 俺も練習しとこっと」
真っ赤な顔で自分の所定の位置についた春陽が、キーボードの練習を始めると、マルはその後ろでギターを弾き始める。
今日は髪をひとまとめにした春陽のうなじが、赤く染まっている。
マルもそれをぼんやりと口を開けて呆けたように見上げてる。
ったく、だらしない顔してるなあ。
春陽、気づいてる? マルの気持ちに。
ひどい話だよね、私と同じ顔してるのに、なにが違うんだか。
あ、そっか、性格だった。
私に告白しろなんて言うくらいだから、春陽はまだ自分の気持ちには気づいてないかもしれないけど。
食べ物の好みや、性格は違っても、幼稚園の初恋の子も、小学校で好きだった男の子も、私たち一緒だったよね。
つまりは、そういうこと。
きっと、いずれ春陽は自分の気持ちに気づいて、私に遠慮して蓋をするのだろう。
『マルはさ、最初こんなんじゃなかったんだわ』
春陽の隣に立つと、私に対し聞こえてるよの目配せをしている。
『今でこそ派手な身なりだし陽キャ気取ってるけど、全然よ。クラスでもいてもいなくてもわかんないようなヤツで。だから、あの日声をかけられてビックリしたんだ。なんで、コイツ私の正体に気づいたんだ? つうか、この人喋れるんだ! って』
白いフード付きパーカース姿のマルが春陽に両手を見せる。
「マルさん、同じくです、ホラ」
春陽もまたマルに自分の両手を見せた。
ああ、同じだね、二人の指先がガタガタと震えていることに気づき、噴き出す私。
「俺よか、震えてんじゃん」
クスッと笑ったマルが、春陽の手を両手で包んだ。
不意打ちを食らった春陽が手を引っ込めることもできず凍り付くように固まり目を丸くしている。
「大丈夫、大丈夫、俺たちはきっとうまくやれる」
「うっ、自信ないです」
「俺もないけど、大丈夫! きっと、夏月が見守ってくれてるから」
マルの笑顔に春陽が頬を紅潮させて何度も頷く。
「絶対、見てますから! 夏月、側にいますから!」
今度は春陽がマルの手を強く強く握り返して興奮したように伝えたら、マルはニッと笑って。
「うん、いるね! 春陽ちゃんといると、いつも夏月を感じる。多分、あれだ。今頃『あんた達、震えてる暇あんの? 生配信まで時間ないよ』って急かしてるかも」
『そうだね、時間ないと思うけど?』
春陽が私の声に弾かれるように、マルから離れて。
「そうです! 練習です、練習! まだ、私うまく弾けない箇所があるんで自主練します!」
「だ、だね! 俺も練習しとこっと」
真っ赤な顔で自分の所定の位置についた春陽が、キーボードの練習を始めると、マルはその後ろでギターを弾き始める。
今日は髪をひとまとめにした春陽のうなじが、赤く染まっている。
マルもそれをぼんやりと口を開けて呆けたように見上げてる。
ったく、だらしない顔してるなあ。
春陽、気づいてる? マルの気持ちに。
ひどい話だよね、私と同じ顔してるのに、なにが違うんだか。
あ、そっか、性格だった。
私に告白しろなんて言うくらいだから、春陽はまだ自分の気持ちには気づいてないかもしれないけど。
食べ物の好みや、性格は違っても、幼稚園の初恋の子も、小学校で好きだった男の子も、私たち一緒だったよね。
つまりは、そういうこと。
きっと、いずれ春陽は自分の気持ちに気づいて、私に遠慮して蓋をするのだろう。
『マルはさ、最初こんなんじゃなかったんだわ』
春陽の隣に立つと、私に対し聞こえてるよの目配せをしている。
『今でこそ派手な身なりだし陽キャ気取ってるけど、全然よ。クラスでもいてもいなくてもわかんないようなヤツで。だから、あの日声をかけられてビックリしたんだ。なんで、コイツ私の正体に気づいたんだ? つうか、この人喋れるんだ! って』
33
お気に入りに追加
36
あなたにおすすめの小説
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
彼氏と親友が思っていた以上に深い仲になっていたようなので縁を切ったら、彼らは別の縁を見つけたようです
珠宮さくら
青春
親の転勤で、引っ越しばかりをしていた佐久間凛。でも、高校の間は転校することはないと約束してくれていたこともあり、凛は友達を作って親友も作り、更には彼氏を作って青春を謳歌していた。
それが、再び転勤することになったと父に言われて現状を見つめるいいきっかけになるとは、凛自身も思ってもいなかった。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました
フルーツパフェ
大衆娯楽
とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。
曰く、全校生徒はパンツを履くこと。
生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?
史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
拝啓 私のことが大嫌いな旦那様。あなたがほんとうに愛する私の双子の姉との仲を取り持ちますので、もう私とは離縁してください
ぽんた
恋愛
ミカは、夫を心から愛している。しかし、夫はミカを嫌っている。そして、彼のほんとうに愛する人はミカの双子の姉。彼女は、夫のしあわせを願っている。それゆえ、彼女は誓う。夫に離縁してもらい、夫がほんとうに愛している双子の姉と結婚してしあわせになってもらいたい、と。そして、ついにその機会がやってきた。
※ハッピーエンド確約。タイトル通りです。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる