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10.二人分の想いをあなたたちに

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「私も聞いてたよ」

 その声に全員が振り向くと、スマホを手にした美織が暗闇から出てきた。
 暗闇からの登場にまた悲鳴をあげかけたカナとアヤだったけれど、すぐに美織だということに気づいたようで、大きな舌打ちをした。

「美織! あんた、いつからいたわけ?」
「浴衣、弁償してもらうよ!」
「ウチらを、呼び出してハメようとしたこと皆に言うからね!」

 ギャアギャアと詰め寄る二人の顔を美織は交互に見比べて笑う。

「言えばいいじゃない? 私は学校と警察に言うから」
「はあ!?」
「夏月と私をイジメたこと、問題にしてもらう」

 そう言うと美織は、スマホを操作しその画面を二人に見せる。

「ちょ、なんなのよ、これ!」
「消しなさいよ、美織!」

 写っていたのは、さっきのやり取りの一部始終だった。
 春陽に向かって泣きながら謝る二人の姿がナイトモードで動画として撮られ、顔の識別もできている状態。
 慌てて美織からスマホを奪い取ろうとする二人の前に、春陽が立ちはだかる。

「これでも、まだ言い逃れする? 警察沙汰になったら、高校も退学かな?」

 その間に美織がスマホを鞄の中にしまい込むのを見て、二人はやっと観念したようだった。

「ちゃんと謝って下さい、美織ちゃんにも、夏月に対しても。あなた達がしていたことはイジメだったって認めて下さい。そして二度と繰り返さないで、もう誰にも」
「二人が謝罪して今後二度と誰のこともイジメたりなんかしなければ、私もこの動画、誰にも見せたりしないよ」

 拳を握りしめ、俯きしばらく押し黙っていたけれど、カナとアヤは互いに顔を見合わせて頷き。
 春陽と美織に深く頭を下げた。

「夏月と美織のこと、イジメてごめんなさい」
「もう二度と、誰もイジメたりしません」

 ごめんなさい、ごめんなさい、と頭を下げっぱなしで、さっきとは打って代わってしおらしい態度の二人に春陽と美織は苦笑しながら顔を見合わせる。

「夏月のこと永遠に忘れないでね」

 春陽の言葉に、二人はもう一度大きく頭を下げた頃、ようやく虫の鳴き声が戻ってきた。
 薄暗かった辺りが明るくなったのは、月が雲から顔を出したからだ。
「もういいよ、行って」と春陽がかけた声に弾かれるように、二人は歩き出していく。
 見えなくなって足音も聞こえなくなってから。

「やったね、美織ちゃん」
「うん、頑張ったね、春陽ちゃん」

 そう言って互いを称え合うように泣きながら抱きしめあって。

「夏月、二人とも頑張ったよ」

 春陽の泣き笑いを見ていたら、感謝の気持ちで胸がいっぱいになった。
 グッジョブと親指立てて笑ったら、二人の姿が滲んで見える。
 あんな二人の謝罪なんかより、ここにいる私の姉と親友の勇気が誇らしくて嬉しくて。
 だから泣いたのだ。

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