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10.二人分の想いをあなたたちに
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「まだ来てないみたい」
「間に合って良かったね」
静まり返った校舎裏で時間を確認し、息を整える二人の元に、迫ってくる気配に私がいち早く気づいた。
『春陽! カナとアヤ、すぐ近くまで来てるよ』
耳をすました春陽にも、その足跡が聞こえてきたようで。
「美織ちゃん、隠れて」
春陽の声に美織は階段下に隠れるように身をひそめた。
ガサガサと草わらをかきわけるように、こちらに向かって歩いてくる二つの足音。
スマホの灯りを頼りに美織を探すあの二人の声が聞こえた。
「なんなのよ、美織! こんなとこに呼び出すなんて! 明日の練習の後じゃダメだったの?」
「ウチら忙しいんだって言ったでしょ。大体、夏月のことってなんなわけ?」
「もう合唱部も辞めたし、友達でもなかったしさあ」
「ずっと口きいてなかったじゃんねえ。今更いなくなった人のことで呼び出されても」
ブツブツ言いながら現れた二人は、浴衣姿だった。
これから他校の男子と祭りに行くところなのだろう。
私のことで呼び出されるなんて迷惑でしかない、そんな仏頂面だった彼女らは、後ろを向いている春陽を発見した。
暗闇に返事もなく無言で佇む春陽の異様な姿に違和感を覚えたようだ。
髪の長さも、身長も私と美織は同じくらいだから暗闇ではわからなかったかもしれないけれど。
「ねえ、美織?」
「……、美織、だよね?」
背中を向けたまま微動だにしない春陽に、不安げに顔をゆがませた二人の声が震え出す。
「なに黙ってんのよ、なにか言いなよ! 美織!」
「ウチらをここまで呼びつけておいて、なんで黙ってんのよ! もうさ、ふざけてんなら帰るからね」
アヤが怒るとカナも威勢を強くするけれど、二人はどちらからともなく震えながら手を繋いでいた。
互いに下駄を履き、着慣れぬ浴衣姿、思うように動けないことを当人らは気づいているのだろう。
まるでどちらかが先に逃げ出さないように掴んでいる、そんな手のつなぎ方だった。
その姿勢で少しずつ後退りする二人だったけど。
「きゃっ」
小さな石にでもつまずいただろうカナが尻もちをつき、手を握られていたアヤも体制をくずし、地面に座り込む形になった。
「やだ、もう、最悪! どうしてくれんのよ、美織!」
「ここ、湿気てる、汚れちゃったじゃん!! 浴衣、今年買ったばっかなのに! 美織にクリーニング代出してもらうからね!」
スマホのライトを春陽に向けて怒鳴る二人に。
「ねえ、他に言うことはない?」
春陽は勿体ぶるように、ゆっくりと振り返った。
「間に合って良かったね」
静まり返った校舎裏で時間を確認し、息を整える二人の元に、迫ってくる気配に私がいち早く気づいた。
『春陽! カナとアヤ、すぐ近くまで来てるよ』
耳をすました春陽にも、その足跡が聞こえてきたようで。
「美織ちゃん、隠れて」
春陽の声に美織は階段下に隠れるように身をひそめた。
ガサガサと草わらをかきわけるように、こちらに向かって歩いてくる二つの足音。
スマホの灯りを頼りに美織を探すあの二人の声が聞こえた。
「なんなのよ、美織! こんなとこに呼び出すなんて! 明日の練習の後じゃダメだったの?」
「ウチら忙しいんだって言ったでしょ。大体、夏月のことってなんなわけ?」
「もう合唱部も辞めたし、友達でもなかったしさあ」
「ずっと口きいてなかったじゃんねえ。今更いなくなった人のことで呼び出されても」
ブツブツ言いながら現れた二人は、浴衣姿だった。
これから他校の男子と祭りに行くところなのだろう。
私のことで呼び出されるなんて迷惑でしかない、そんな仏頂面だった彼女らは、後ろを向いている春陽を発見した。
暗闇に返事もなく無言で佇む春陽の異様な姿に違和感を覚えたようだ。
髪の長さも、身長も私と美織は同じくらいだから暗闇ではわからなかったかもしれないけれど。
「ねえ、美織?」
「……、美織、だよね?」
背中を向けたまま微動だにしない春陽に、不安げに顔をゆがませた二人の声が震え出す。
「なに黙ってんのよ、なにか言いなよ! 美織!」
「ウチらをここまで呼びつけておいて、なんで黙ってんのよ! もうさ、ふざけてんなら帰るからね」
アヤが怒るとカナも威勢を強くするけれど、二人はどちらからともなく震えながら手を繋いでいた。
互いに下駄を履き、着慣れぬ浴衣姿、思うように動けないことを当人らは気づいているのだろう。
まるでどちらかが先に逃げ出さないように掴んでいる、そんな手のつなぎ方だった。
その姿勢で少しずつ後退りする二人だったけど。
「きゃっ」
小さな石にでもつまずいただろうカナが尻もちをつき、手を握られていたアヤも体制をくずし、地面に座り込む形になった。
「やだ、もう、最悪! どうしてくれんのよ、美織!」
「ここ、湿気てる、汚れちゃったじゃん!! 浴衣、今年買ったばっかなのに! 美織にクリーニング代出してもらうからね!」
スマホのライトを春陽に向けて怒鳴る二人に。
「ねえ、他に言うことはない?」
春陽は勿体ぶるように、ゆっくりと振り返った。
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