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10.二人分の想いをあなたたちに
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「いつも、夏月が私の言いたい事全部引き受けてくれたから。私が苦しいって思う時は、夏月がそれを声にしてくれてたから言わなくてすんでたの『春陽は素直で優しい子、夏月は自分の感情を口に出す子』なんて家族にまで言われてたけど。あれは全部夏月が私の想いを汲んで、口にしてくれてただけ。言わなくてもいいこと全部引き受けて、一人で苦労しちゃって」
『なに、言ってんの? 私は別に春陽の代わりになんて』
「だから、今度は私が夏月の言いたかったこと、ぶちまけてやるの」
『春陽! なんか、物騒なこと考えてたり』
「私だって、言いたい事、言えるんだぞってとこ、夏月に見せてやんなきゃ……」
上を向いて笑う春陽に美織も強く頷いた。
「きっと、すぐ側で見てる気がします。春陽ちゃんのこと、応援してる」
『してないってば!! 止めてよ、美織!』
聞こえない美織に語り掛けても無駄なのはわかってるけどね。
「うん、いるよ。側にいる、夏月はずっと私の側にいるから」
「そう、思います」
微笑む美織に気づかれぬよう私に向かってウィンクしてみせる春陽に、頬を膨らまして怒っていることをジェスチャーしてみたけど、フッと鼻で笑われた。
「美織ちゃんは大丈夫? このことがバレたら気まずくならない? また仲間外れにされたり……」
「構いません。それに、私、次のコンクールが終わったら合唱部辞めるつもりなんです」
『え!』
「どうして?」
「今まで残ってたのって、いつかまた夏月と一緒に歌いたいなって思ってただけなんで」
中一、中二、あの頃美織とは朝から放課後までずっと一緒にいた。
時には、土日の部活帰りにファミレスに寄り道してみたり。
一度だけ、美織から『部活を辞めたい』と相談されたことがあったけど、今さらどうして?
「私、本当はそんなに歌うの好きじゃないんです」
『そうだったの?』
美織の告白に驚く私に代わり、春陽が相づちを打つようにその独白を聞いていた。
「ただ、夏月と一緒にいるのが楽しくて、同じ部活に入ったんです」
入学式の日、隣の席になった美織は、どこか春陽に似て優しそうで私はすぐに彼女のことが好きになった。
くだらない話をしては笑ってくれる美織を、自分が入りたいと思っていた合唱部に誘ったのは私だった。
「一緒に入ったはいいけど、夏月はピアノが出来るから伴奏になっちゃって。私は、そんなに歌もうまくないから辞めたいなって夏月に相談したんです。そしたら夏月ってば、毎日帰り道に一緒に歌ってくれて」
あの頃、すごく楽しかったよね。
何より、どんどん美織が上手になっていって笑顔になっていくことが嬉しくて。
私で良ければ練習相手になりたいってそう思っていたんだ。
「夏月、ピアノだけじゃなく歌も上手いから……、一緒に歌ってて本当に楽しかったから、私は……」
唇を噛みしめて、美織が悔し気に天を仰ぐ。
「私が夏月を推薦しなければ、カナやアヤたちにイジメられることもなかったのに」
湿った夏の夜、月夜に照らされた美織を春陽はギュッと抱きしめた。
『なに、言ってんの? 私は別に春陽の代わりになんて』
「だから、今度は私が夏月の言いたかったこと、ぶちまけてやるの」
『春陽! なんか、物騒なこと考えてたり』
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上を向いて笑う春陽に美織も強く頷いた。
「きっと、すぐ側で見てる気がします。春陽ちゃんのこと、応援してる」
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聞こえない美織に語り掛けても無駄なのはわかってるけどね。
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「そう、思います」
微笑む美織に気づかれぬよう私に向かってウィンクしてみせる春陽に、頬を膨らまして怒っていることをジェスチャーしてみたけど、フッと鼻で笑われた。
「美織ちゃんは大丈夫? このことがバレたら気まずくならない? また仲間外れにされたり……」
「構いません。それに、私、次のコンクールが終わったら合唱部辞めるつもりなんです」
『え!』
「どうして?」
「今まで残ってたのって、いつかまた夏月と一緒に歌いたいなって思ってただけなんで」
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時には、土日の部活帰りにファミレスに寄り道してみたり。
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「私、本当はそんなに歌うの好きじゃないんです」
『そうだったの?』
美織の告白に驚く私に代わり、春陽が相づちを打つようにその独白を聞いていた。
「ただ、夏月と一緒にいるのが楽しくて、同じ部活に入ったんです」
入学式の日、隣の席になった美織は、どこか春陽に似て優しそうで私はすぐに彼女のことが好きになった。
くだらない話をしては笑ってくれる美織を、自分が入りたいと思っていた合唱部に誘ったのは私だった。
「一緒に入ったはいいけど、夏月はピアノが出来るから伴奏になっちゃって。私は、そんなに歌もうまくないから辞めたいなって夏月に相談したんです。そしたら夏月ってば、毎日帰り道に一緒に歌ってくれて」
あの頃、すごく楽しかったよね。
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唇を噛みしめて、美織が悔し気に天を仰ぐ。
「私が夏月を推薦しなければ、カナやアヤたちにイジメられることもなかったのに」
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