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10.二人分の想いをあなたたちに
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ご飯を食べる以外、部屋に引きこもって春陽は楽譜とキーボードに真剣に向き合っている。
いくつか、フレーズを作っては、マルと共通で使っているサイトに非公開でアップし、二人はやり取りを重ねていた。
大半は私の鼻歌を元にして、でも中には、春陽自身が創った箇所もあって。
あなたとの出逢いは 生まれる前から決まっていた
なによ、その泣かせにくるような歌詞は!
春陽が口ずさんだ時、不覚にも涙が出ちゃって気づかれぬように涙を擦った。
【春陽ちゃん、さっきのいい! めっちゃ、いいんだけど】
【え? 本当に? 採用してくれるの?】
【採用、採用! アレンジしたら、また更新しとくから後で確認しといて! ああ、もう夏月に聞かせてやりてえな】
春陽のスマホに飛んできたメッセージを二人で眺めて苦笑し合う。
マル、私、聴いてるよ。
私、まだここにいて、新しい曲が出来上がるの楽しみにしてるんだよ。
だって、私と春陽とマル、三人で作る最初で最後の曲だから。
『あの日ね、お盆になったら春陽に久々に会えるなって、雨が上がるのを待ちながら考えてたんだよね』
「ん?」
『このフレーズ考え付いてスマホに吹き込んで、それからマルに電話してる間に美織からメッセージが入って返事して。そうこうしてる内にマヒロくんがバスから降りてきて。なんだかめちゃくちゃ忙しい日だったなあ』
「夏月って、いつもそう」
『うん?』
「いつも人の心配ばっかりしていて、自分のことは後回しで」
まるで、数日前にマルと二人で「夏月ってそういうとこあるよね」って話してたあの続きみたい。
そんなつもりはないんだけどなあ。
「だから皆、そんなお人よしな夏月が好きなんだよ。パパもママも、美織ちゃんやマルさんや、私だって」
面と向かって姉に好きだなんて言われた日には、恥ずかしさで頭がクラクラするよ。
照れくささで春陽に背を向けてカーテンの隙間から空を眺めると、背後でまた曲を作りだしている。
あなたとの出逢いは 生まれる前から決まっていた
いつも誰かのために 手を差し伸べるあなたに
今私がしてあげられることは一つ
全ての願いをかなえてあげるよ
それからまた 二人で目を閉じよう
震えながら 抱きしめあって
朝が来たら 笑い合えますように
君とこの先も 一緒にいられますように
まるで私へのアンサーソングみたいな春陽の歌詞や歌声が胸に刺さる。
私だって、この先も皆と一緒にいたいよ。
春陽や、パパやママと笑い合っていたい、いたかった。
わかってる、わかってるんだ。
あの日、落ちるとわかった瞬間『助けて』ではなく、思ったことがある。
足を踏み外し落下する瞬間、スロモーションみたいに時間が緩やかになった。
ああ、このまま落ちたら死んじゃうかもと一瞬で理解しながら、もう一方で思ったことは。
『どうせ、私が死んだって世界は回るし、悲しむ人たちなんて一握りだもの。目覚めなければ、もう二度と、悔しい想いをすることはない。あの子らだって、私がいない方がいいに決まってる』
自分の命を軽んじ、すぐにあきらめてしまった私への、人生のおまけのような時間。
それは、私の死を悲しむ人たちへの懺悔の時間にもなっている。
いくつか、フレーズを作っては、マルと共通で使っているサイトに非公開でアップし、二人はやり取りを重ねていた。
大半は私の鼻歌を元にして、でも中には、春陽自身が創った箇所もあって。
あなたとの出逢いは 生まれる前から決まっていた
なによ、その泣かせにくるような歌詞は!
春陽が口ずさんだ時、不覚にも涙が出ちゃって気づかれぬように涙を擦った。
【春陽ちゃん、さっきのいい! めっちゃ、いいんだけど】
【え? 本当に? 採用してくれるの?】
【採用、採用! アレンジしたら、また更新しとくから後で確認しといて! ああ、もう夏月に聞かせてやりてえな】
春陽のスマホに飛んできたメッセージを二人で眺めて苦笑し合う。
マル、私、聴いてるよ。
私、まだここにいて、新しい曲が出来上がるの楽しみにしてるんだよ。
だって、私と春陽とマル、三人で作る最初で最後の曲だから。
『あの日ね、お盆になったら春陽に久々に会えるなって、雨が上がるのを待ちながら考えてたんだよね』
「ん?」
『このフレーズ考え付いてスマホに吹き込んで、それからマルに電話してる間に美織からメッセージが入って返事して。そうこうしてる内にマヒロくんがバスから降りてきて。なんだかめちゃくちゃ忙しい日だったなあ』
「夏月って、いつもそう」
『うん?』
「いつも人の心配ばっかりしていて、自分のことは後回しで」
まるで、数日前にマルと二人で「夏月ってそういうとこあるよね」って話してたあの続きみたい。
そんなつもりはないんだけどなあ。
「だから皆、そんなお人よしな夏月が好きなんだよ。パパもママも、美織ちゃんやマルさんや、私だって」
面と向かって姉に好きだなんて言われた日には、恥ずかしさで頭がクラクラするよ。
照れくささで春陽に背を向けてカーテンの隙間から空を眺めると、背後でまた曲を作りだしている。
あなたとの出逢いは 生まれる前から決まっていた
いつも誰かのために 手を差し伸べるあなたに
今私がしてあげられることは一つ
全ての願いをかなえてあげるよ
それからまた 二人で目を閉じよう
震えながら 抱きしめあって
朝が来たら 笑い合えますように
君とこの先も 一緒にいられますように
まるで私へのアンサーソングみたいな春陽の歌詞や歌声が胸に刺さる。
私だって、この先も皆と一緒にいたいよ。
春陽や、パパやママと笑い合っていたい、いたかった。
わかってる、わかってるんだ。
あの日、落ちるとわかった瞬間『助けて』ではなく、思ったことがある。
足を踏み外し落下する瞬間、スロモーションみたいに時間が緩やかになった。
ああ、このまま落ちたら死んじゃうかもと一瞬で理解しながら、もう一方で思ったことは。
『どうせ、私が死んだって世界は回るし、悲しむ人たちなんて一握りだもの。目覚めなければ、もう二度と、悔しい想いをすることはない。あの子らだって、私がいない方がいいに決まってる』
自分の命を軽んじ、すぐにあきらめてしまった私への、人生のおまけのような時間。
それは、私の死を悲しむ人たちへの懺悔の時間にもなっている。
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