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10.二人分の想いをあなたたちに
10-1
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「信じられない、ひどいよ、夏月ってば! 勝手に決めちゃって」
ブツブツ言いながらも首にヘッドホンをかけた春陽は、私のキーボードの電源を入れた。
『や、でも思った以上に春陽がHarukaだったわ、ちょっとビックリ』
「笑いごとじゃないでしょ! まるで他人事みたいに」
『ごめんごめん、でも』
「でも?」
ちょっとイジワルしてみた、なんて言えない。
『ううん……、あ、デスクトップパソコンの電源も入れてくれる?』
「うん? このボタン?」
『違うって、電源マークあるでしょうよ』
気難しい顔で電源ボタンを入れた春陽にため息が出る。
聞けば長野で使っているのは、タブレットタイプのものらしく、それだって辞書替わりや、ネットで何か調べる時だけ起動させていたとか。
つまりは、本格的機械音痴だ。
基本のキ、まずは電源を入れるところから教え込まなければいけないのだ。
しかも五日以内に曲を創り上げるとか、本当に無謀だけど。
「曲なんか作ったことないんだけど、私にできるのかな?」
『夏月は、楽譜読めるでしょ? じゃあ大丈夫。天才プロデューサーがしっかり教え込むから』
「自分で言ってるし」
ようやく春陽が機嫌を直し、クスクスと笑いだす。
『そういえば、明後日の祭りの日のことだけど』
その話を振った瞬間、ピタリとまた春陽から笑みが消えた。
「止めないでね、夏月」
『私に止められるなら止めてるわ! 物理的に無理だから、春陽に止めてってお願いするしかないの。美織にだって迷惑がかかるんだよ? わかってんの?』
「わかってる。でも、無理。これはもう夏月の問題だけじゃないから。それに美織ちゃんも納得してくれた」
そう言って春陽は大きなため息をつきヘッドフォンをすると、私の歌を聴いている。
あ、この件に関しては無視ですか、そうですか!
いや、まだ二日あるから説得していきますけどね!
春陽が道路に崩れ落ちるように泣いたのは、私がイジメられてきたあのグループメッセージを見てしまったせいだ。
なんなら私が死んだときよりも悔しそうに泣いていた春陽の姿を思い出すと胸が痛む。
泣かせちゃって、ごめん。
悔しい思いさせちゃって、ごめん。
自分のことだからって、生前放置していたものを春陽が今全部背負い込もうとしてるんじゃないだろうか。
「夏月、もう一度歌って? あの歌の始まりを夏月はどう歌いたかった?」
ヘッドホンを外して真正面から私を見据える春陽の瞳が、今まで見たこともないほど燃えている、そんな気がした。
ブツブツ言いながらも首にヘッドホンをかけた春陽は、私のキーボードの電源を入れた。
『や、でも思った以上に春陽がHarukaだったわ、ちょっとビックリ』
「笑いごとじゃないでしょ! まるで他人事みたいに」
『ごめんごめん、でも』
「でも?」
ちょっとイジワルしてみた、なんて言えない。
『ううん……、あ、デスクトップパソコンの電源も入れてくれる?』
「うん? このボタン?」
『違うって、電源マークあるでしょうよ』
気難しい顔で電源ボタンを入れた春陽にため息が出る。
聞けば長野で使っているのは、タブレットタイプのものらしく、それだって辞書替わりや、ネットで何か調べる時だけ起動させていたとか。
つまりは、本格的機械音痴だ。
基本のキ、まずは電源を入れるところから教え込まなければいけないのだ。
しかも五日以内に曲を創り上げるとか、本当に無謀だけど。
「曲なんか作ったことないんだけど、私にできるのかな?」
『夏月は、楽譜読めるでしょ? じゃあ大丈夫。天才プロデューサーがしっかり教え込むから』
「自分で言ってるし」
ようやく春陽が機嫌を直し、クスクスと笑いだす。
『そういえば、明後日の祭りの日のことだけど』
その話を振った瞬間、ピタリとまた春陽から笑みが消えた。
「止めないでね、夏月」
『私に止められるなら止めてるわ! 物理的に無理だから、春陽に止めてってお願いするしかないの。美織にだって迷惑がかかるんだよ? わかってんの?』
「わかってる。でも、無理。これはもう夏月の問題だけじゃないから。それに美織ちゃんも納得してくれた」
そう言って春陽は大きなため息をつきヘッドフォンをすると、私の歌を聴いている。
あ、この件に関しては無視ですか、そうですか!
いや、まだ二日あるから説得していきますけどね!
春陽が道路に崩れ落ちるように泣いたのは、私がイジメられてきたあのグループメッセージを見てしまったせいだ。
なんなら私が死んだときよりも悔しそうに泣いていた春陽の姿を思い出すと胸が痛む。
泣かせちゃって、ごめん。
悔しい思いさせちゃって、ごめん。
自分のことだからって、生前放置していたものを春陽が今全部背負い込もうとしてるんじゃないだろうか。
「夏月、もう一度歌って? あの歌の始まりを夏月はどう歌いたかった?」
ヘッドホンを外して真正面から私を見据える春陽の瞳が、今まで見たこともないほど燃えている、そんな気がした。
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