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9.あの夜に戻れたら

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「聞いてもいい?」

 いよいよ本題か、と顔を上げた美織が決心を固めたようにうなずいた。

「あの日、夏月と待ち合わせしてた?」

 美織は頷くことも否定することもなく、しばらく何も言わないでいたけれど。

「……呼び出しても来てくれることはなかったんですよ、夏月……。なのに、どうしてあんな大雨の日に限って来てくれようとしたんだろう」

 独り言のように呟く美織に春陽は何も返さずに次の言葉を待つ。

【会いたいよ、夏月……】
【美織、今、どこにいるの?】
【学校の近くのハンバーガ屋さん。夏月と一緒に行ったことのある】
【わかった! 待ってて、雨が上がったら行くから】

 八月五日、美織からのメッセージに一年ぶり以上で返信した。
 あの日はたまたま見てしまったんだ。
 今度は美織がカナやアヤたちにイジワルをされている場面に。
 私がマルの家に向かう途中、合唱部の練習に向かう集団を見かけた。
 そのグループの一番後ろで居心地悪そうな顔をして歩く美織は、誰からも声をかけられることなくそこにいた。
 カナが他の皆に「次の休み、お祭り行こうよ! あ、美織は来ないよね?」と笑って振り返る。
 美織が「う、ん、忙しくて」と無理に微笑むと「だよねえ、ソロパートさんだもん、忙しいに決まってるわ」とアヤの皮肉めいた言葉にみんなが笑いだす。
 ああ、嫉妬だ。明らかなる美織に対する嫉妬だった。
 もしかしたらその前から、私とまだ通じていると思われて、美織はずっとイジメられていたのかもしれない。
 何度も会いたいと言っていたのは、寂しかったからなのかもしれない。
 マルとの練習中、何度も美織の寂しそうな顔が頭に浮かんでいた。
 そうしたら、あの【会いたいよ、夏月……】という美織からのメッセージに気づいて――。

「私のせいです。私が夏月のことを呼び出したりなんかしなきゃ、あんなことにはならなかったのに」
『違うって、あれは本当に自分のせい。滑ったんだよ、本当に滑っただけで、事故だったの。美織のせなんかじゃないから』

 葬儀の席で、ごめんなさいと小さな声でずっと呟いていた美織はきっとずっと苦しかった。
 誰にも言えず苦しんでいたのだろう。
 春陽に何度も何度も頭を下げる美織に『もう謝らないで』と制しても届くわけがない。
 もどかしさの中で春陽が立ち上がり、突然移動し美織の隣に腰かけた。
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